空がどれだけ、貴方を欲しがったとしても
なんか三人の女の子達ヤンデレに育って来ちゃいました。……ヤンデレっていうのかな?これは。
ハンスが三人の少女達を拾ってから、そろそろ一週間が過ぎようとしていた。
自分の生きる理由のために、強くなりたいと言ったリフィリア達に彼が最初に教えたのは、相手に自分を違うものに見せる変幻の魔術。
白髪だということで、もう嫌なことをされない為に。
その理由は、彼女達が一番よく分かっていたけれど。
そして彼等は今日、森の近くにある海にいた。
白髪は最弱の代名詞。素で出ては色々と面倒なことになる。
三人がそれぞれ、自身の髪に変幻の魔術をほどこして。
だが夏を過ぎた秋中頃の寒い中、やはりというべきか、海にいるのは四人しかいなかった。
何故そんな時期にここに来たのか。
きっかけは最近結構な好奇心持ちだと判明したノアの一言。
「 海って何かなぁ? 」
水じゃ無いの?と彼女が首を傾げれば、それを聞いた他の二人も興味津々とばかりにこちらを見る。
近頃彼女達の、その日々で違ったものをみて、目まぐるしいほどに全てを見ようとする姿勢に絆されてきた自分が、無言の訴えを無視できるわけがなくて。
それで、今に至るわけだが。
「 お前らなんで海に入んねぇの? 」
その為に来たんだろうと。
呆れたように言うハンスの前には、押したり引いたりする海の波に怯える三人の少女達。
「 だっだってぇ 」
「 うみってクラゲっていうのがいるんでしょ? 」
「 刺されたら痛いんだって本に書いてありましたし……。 」
「 つまり、海には入りてぇけどクラゲが怖くて入れない、と。 」
コクコクとうなづくリフィリア達。
全く、クラゲなんてどこから知ったんだ。
『 刺されたら痛いんだって本に書いてありましたし……。 』
弱々しく言うルティルの言葉。それに関連して脳に現れるのは、屋敷にある書斎の中にある一冊の本。
( あー。あの本かぁ。てか、あいつらあそこまで出入りしてんのかよ。 )
まぁいいんだけどと。
そして今だに波に怯える彼女達にため息を吐いて。
靴を脱ぎ、靴下を脱ぐ。
半ズボンで来て正解だったと。そして。
「 この俺にここまでやらせんのはお前らぐらいだからな。有り難く感謝しろよ。 」
ぼそっと苦笑して。
ザブザブと遠慮なく海に入る。
「 あ、アリス⁉︎危ないよ⁉︎ 」
必死な形相で叫ぶリフィリア。
「 やっぱ寒いな〜この時期は。 」
それをさらりと無視して、ジャブジャブと足で海水を払う。
「 く、クラゲは? 」
「 この時期にはいねぇよ。あいつらのテリトリーは夏の海だからな。 」
そうは言っても、まだ少し怖いのか。
( 仕方ねぇか。まだ六歳だもんな )
いつもならお前もな?という相棒はいない。
ハンスは人差し指をくんっと回して、大量の海水を浮かばせる。
そしてーー
「「「 ……へ? 」」」
どぼんっと。
リフィリア達の頭上に落とした。
物質の原理。自由落下の如く降り注ぐ海水に。
「 ちょっなにこれー! 」
「 すごくしょっぱい……。 」
「 それに冷たいですね。 」
悲鳴と不満。
三人の、瞳の色と同じ髪が水に滴って。
それにケラケラと笑う。
いつの間にか顔を出した夕焼けを背に、彼女達の方を向く。
「 せっかく来たんだ。遊んでこーぜ? 」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「 せっかく来たんだ。遊んでこーぜ? 」
そう言って笑った貴方の、瞳と同じ深紅の髪が、どこまでも続く青い青い海と、彼を包み込むような、おどろおどろしい夕日に乱反射して、このまま溶けていっちゃうんじゃないかって。
あの恐ろしい紅蓮の空が、貴方を連れていってしまうんじゃないかって。
海への恐怖を忘れるほどに。
私達は、とてもとても不安だったの。
だから、いつもより不安定な貴方の腕をがしっと掴んで。
「 やり返してやるわ!ルティル!ノア! 」
「「 了解です! 」」
「 は?おいちょっ!? 」
きっと三人、想っていることは一緒なんだと思う。
離さない。離さないの。
だって、貴方が消えてしまったら、私達の生きる意味が、なくなってしまうんだから。