第1章 プロローグ だからその人の手を取った
シリアスですがだんだんとギャグになっていく……予定です(汗)
ーー暗い闇の中で、肩を寄せ合う三人の幼い少女達がいた。
ボロ切れのような服を見に纏い、痩せ細ったその身体は、狭いじめじめとした牢の中にあって、いっそう小さく感じられる。
どこかでガシャンッと音が響いた。遅れて聞こえる、大人達の叫び声。
それらに少女達は、より強く互いを抱きしめ合う。
「だ、誰か来たのかなぁ? 」
まだ舌ったらずな言葉使いで喋るのは、蒼の瞳の内気な少女。
「いえ…。どうやら外で何かあったみたいですよ。」
それに敬語で答える、紫の瞳の冷静な少女。
「関係ないわよ。奇跡が起きない限り、私達はここで死ぬんだから。」
投げやり口調で、しかし期待を浮かばせた桃色の瞳の少女。
顔付きも、瞳の色も、喋り方も、そして性格も違うだろう少女達。
だが三人には、共通するものが存在した。
この世界にあって、蔑みの象徴とされる白色の髪。
少女達がこの牢に閉じ込められた原因。
闇の中でもなお目立つそれが、彼女達の腰までのびていた。
頰に纏わりつく髪をかきあげて、鉄格子に近付き耳をすます紫の少女。叫び声と、チリチリと頰を焼く熱さ。そして焦げた匂いが鼻をつく。
魔力が極端に少なく、魔術があまり使えない。出来損ないの証である白い髪。
一歳にもならなかった自分達が、抵抗する間も無くこの牢に閉じ込められてから早六年。
それでもまだ、死ぬ気はないと。
こんなところで、死んでたまるかと。
そう思うのは、三人一緒。それでも、限界というものがある。
このままここに幽閉され続けたら、いつか壊れてしまうだろう。
それほどまでに、ここは暗くて。
それほどまでに、ここは寒くて。
それほどまでに、愛が欲しくて。
だから祈る。いるとも知らない。だけど、それ以外に縋れるものがいないから。
母も、父も、自分を助けてくれなかったから。愛の言葉を、囁いてなんてくれなかったから。
だけどーー。
「ーーッツ。誰か来るわ! ! 」
紫の少女がそう言った途端。三人は牢の一番奥に逃げ込んだ。
カツンカツンと、鉄格子の向こう側から靴音が響く。
怯える身体を抱きしめて、その音の主が来るのを待つ。
そしてピタリと、靴音が止んだ。
暗い牢じゃ、相手の顔なんて見れないけれど。
きっと、鉄格子の前に立っているのだろうと予測をつける。
「ーー壊れろ。」
それは、男の声だった。途端。鉄格子ーー否。牢自体が、凄まじい音を立てて崩れていく。
そして、群青の夜空に浮かぶ青銀の月に照らされて露わになった光景に、三人の少女達は息を飲む。
そんな彼女達を見つめて、まるで悪戯が成功して喜ぶ子供のように、焼け野原になった、少女達を忌み嫌った村を背に艶やかな赤髪を後ろにまとめた深紅の瞳の青年が言う。
「ここから出るか、この村と共に、焼けて死ぬか……どっちがいい?」
ーー私達の前に現れたのは、神様じゃなかった。
ーー私達を助けてくれたのは、神様じゃなかった。
ーー……それでも良かった。
だって、見たこともない神様よりも、愛をくれなかったから両親よりも、その人の方が、とてもキラキラしていたから。
だからーー
「ここから出ます! 」
だから、私達はこの人の手を掴んだのだった。