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アカデミーに入学します

魔術大帝国が誇る最高峰の学び舎、リウフォールアカデミーは、神秘について学ぶ教育機関である。


魔法ネズミからドラゴンまで、ありとあらゆる魔法動物を飼育する施設や、東西南北数多の本を集めた図書室。


人が何万人も入れる程の面積を有した訓練場や、白亜の噴水がある広場など、その広大な土地には、校舎以外にも様々な施設がある。


侵入妨害の結界が数多に張り巡らされており、外から入るには生徒は学年別に色分けされた宝石がはめ込まれている指輪を、その他は、入校章をもらうしかない。


「 すっごい…。 」


「 すっごいです。」


「 うん。すっごい…。 」


一年前、クレアからもらった招待状の中に入っていた赤の指輪を、右手の薬指につけたリフィリア達は眼下にそびえ立つ学び舎を眺めみた。

口から出る言葉は、三人とも同じもの。


「 おい、立ち止まってるな。奥が詰まってるぞ。 」


「 まぁ、気持ちはわからないでもないけどね。 」


呆然と立ち尽くす三人に声をかけるのは、同じく赤の指輪をつけたハンスとクレア。

片方は顔をしかめて、もう片方は苦笑して、二人ともリフィリア達と同い年の姿格好をしている。

ハンスは本来の姿に戻っただけの為、変化の術を施しているのは真紅に染まった髪だけだが。


二人の言葉にあわあわと慌てて進む三人。

そう、この日は入学式、及び始業式とあって、たくさんの生徒が集まっている。


先にあったのは、レンガ調の壁に貼られた大きな紙。

そこには新学生のクラス割り表が書かれてあった。

いちはやく自分たちの名前を見つけたクレアが声を上げる。


「 あったあった。俺たちはアリアドネの生徒だね。 」


学年は基本、四つのクラスーー

「アリアドネ」「ヴィーダ」「センシル」「ラフレード」に割り振られるのだ。


五人が教室に着くと、黒板には席順が書かれてあった。ハンス達は、早速その席に向かう。


席は窓側の後ろで、ハンスの隣にリフィリア、二人の後ろにノアとルティルといった割り振りだった。

廊下側だったクレアと別れ、席に座り、教室への道すがら見た光景を話す三人。その瞳に映るキラキラとした期待を、ハンスは頬杖をついて眺めていた。


ダンっとハンスの机を叩く、赤髪の少女が現れるまでは。


「 まさか、わたくし以外にも赤髪を持つ方がいらっしゃるとは思いませんでしたわ。 」


シンっと静まり返る教室で、ハンスはめんどくさそうに少女を見上げた。

ハンスと同じ真紅の髪を二つに結わき、橙の瞳をきつくハンスに向けている。


「 わたくしはリリーシャ・エチコート。あなたのお名前は? 」


「 ……アリス。 」


「 そう。ではアリス、わたくしとチームを組みませんか? 」


( ……早速か。 )


リリーシャの言葉に、表情には出さずに辟易とする。


「 赤髪のわたくし達が手を組めば、敵う相手なんていませんわ。貴方にとっても、悪い話ではないでしょう? 」


「 ……チームってのは、迷宮(アークハーツ)でのか。 」


「 当然ですわ。わたくしの目当ては、貴方との友情ではありませんから。 」


ーー迷宮(アークハーツ)


この星全体で数多く存在する、突如として現れるそこには、見たこともない植物や動物が多く生息しており、その最奥には、きらびやかな調度品や、見事な性能を誇る魔導道具が眠っている。なので魔術師達はこぞって迷宮(アークハーツ)の解明に勤しんでいるが、その多くは未だ謎に包まれたままだ。


そしてこの学校、アカデミーでは一学年の夏から、迷宮(アークハーツ)での実技授業が行われる。

まぁ当然、解読され安全が保障された迷宮(アークハーツ)でだ。

リリーシャが言うのは、その際でのチームだろう。

しかしてリリーシャに答えたのは、ハンスではなかった。


「 ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! 」


割って入ってきたリフィリアに、リリーシャは不機嫌そうに片眉をあげる。

何か文句でもありますの?と言いたげな瞳に、リフィリアは口ごもる。

これはリリーシャとハンスの問題であって、リフィリア達は関係ないからだ。それでも声をあげたのは、ハンスを取られてしまうかもしれないという危機感が働いた故だが。


「 アリス、貴方の取り巻きは躾がなってなくてよ?もう少し賢そうなのを選んだほうがいいわ。 」


「 …とり、まき? 」


リリーシャが小馬鹿にしたように言う。

それにノアが首を傾げた。

リリーシャはリフィリアから視線をノア、ルティルに移し嗤う。


「 まさか、お友達だなんて思っていないですわよね?だってあなた方みたいな低レベルといたって、赤髪のわたくし達になんの利益もないじゃあない。 」


その言葉に、リフィリア達が体を硬くする。

そしてそれを自席で聞いていたクレアは、自分の相棒がどんどん殺気高くなっていることに冷や汗をかいていた。

だが仕方ないことか。いくら髪色を変えてるとはいえ、その言葉は彼女達のトラウマを大きく抉る。


「 貴方達が彼のそばにいれるのは、同情心か、優越感でしかないわ。そんなこともお分かりにならないの? 」


くすくすと笑い続いた言葉に、リフィリア達は青ざめた。

それを満足そうに眺め見ると、リリーシャはハンスの方へと向き直る。

だが彼女の視線を出迎えたのは、先ほどの半開きな瞳ではなかった。


ーー尋常ではない殺意のこもった、真紅の瞳がリリーシャを見ている。


「 ッツーー!! 」


その瞬間、リリーシャだけでなく、周りにいたクラスメイト達もその殺気を肌で感じた。

教室中が冷気に凍る。

思わず後退さったリリーシャの腕を掴み、ハンスは己の方へ近く引き寄せた。

互いの唇がくっつきそうなほど近づいたが、リリーシャはゼロ距離から放たれる殺気に震えていた。

鋭められた真紅の瞳と、見開いた橙の瞳が相対する。

そしてハンスはゆっくりと口を開いた。


「 ひとつ、俺はあいつらと同情心でいるわけじゃない。ふたつ、俺はあいつらを優越感の道具になんてしていない。みっつ、あいつらにお前のくだらない価値観を言ってみろ。その口を引き裂いて何も喋れなくしてやる。 」


静かに淡々とそう言い放つハンスに、その殺意にあてられていたリリーシャはキッと彼を睨みつける。


( ほぉ、すごいな。本気じゃないにしろ、ハンスの殺気を向けられて睨む度胸があるなんて。 )


クレアが感心すると同時に、ハンスは興味を失ったとばかりにリリーシャの腕を突き離した。

突き飛ばされたリリーシャはその場で足をふらつかせると、奥歯をぎりっと噛みしめる。


「 …残念ですわ。でも、わたくしは絶対学年トップにならなくてはいけないの。だから、必ず貴方より成果を上げてみせますわ! 」


「 ……そうか。 」


何の感情も込められない言葉に、リリーシャは何か言いたそうに口を開けるが、そこから何の音も出さず、踵を返して自席へと戻っていった。


やがて教室は、元の喧騒に溢れていく。

しかしてその日、騒動を見ていたクラスメイト達は横目でハンスを伺いつつ、彼に逆らわないことを心に誓ったのであった。


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