丘を越えて彼方へ
「 またここか…。 」
真っ暗な空と、燦々と輝く太陽。水が張った地面に、誰もいない無人駅。
ハンスはそこをぐるりと見渡し溜息を吐いた。
「 あれ?なんか最近驚かないね。 」
「 そりゃあな。ずっと見続けてんだ。流石に夢だってわかる。 」
妙にはっきりとした明晰夢だけどな、と隣に現れた少女を見る。
相変わらず、彼女だけはぼやけて輪郭がはっきりしないけれど。
「 ふーん。ねぇ、あなたはあの時、何を願ったの? 」
そうしてまた、少女はハンスに夢を見させる。
夢という名の現実。
夢にしたいほどの現実を。
変わるのは、目の前の風景。
焼けた匂いと、ちりちりと皮膚を焼く熱さ。
あたり一面炎の海。
忘れるなというように。
夢はあの日を模していく。
それを目の前にして、ハンスの瞳は揺れない。
凪いだ海のように、遠い昔を見るように、その瞳になんの感情も写さず、黙って見つめている。
汽笛が鳴った。りんと鈴の音がして、少女はまた歌い出す。
「 トムは笛吹きの息子
幼い頃、笛を習った
でも、吹ける曲はひとつだけ 」
少女がハンスの前に躍り出て、炎を背に両腕を広げる。
「 ''丘を越えて 彼方へ!!''
丘を越えたその先へ!
風よ リボンを運んでおくれ 」
そう、そう願った。
だって、何も無くなったから。
でも、それが無理だとも瞬時にわかった。
何も無くなったって、自分が化け物であることは変わらないから。
だからーー。
「 そうだから、あの子達とあなたは相容れない。 」
「 分かってるさ。 」
「 だって、あの子達は人間で、貴方は化け物なんだもの。 」
それも分かっている、と。
ハンスから出たその声は、何も肩取らない。
自分が化け物で、そんなことは、忘れてなくて。ただ、優しくて綺麗な彼女達に、果てない夢を見ていただけ。
少女は言う。自惚れるなと。夢の世界であって、夢を見るなと言うのだ。
お前はそれに値する人間ではないと。
そんな権利など、化け物のお前は持ち合わせていないのだと。
「 あの子達はきっと行くわ。丘を越えた、その先へ。丘を越えて彼方へ。貴方がいけなかった所に。貴方が手を伸ばしても、決して届かない所に。 」
忘れるな、と少女は言う。
この夢は忘れても、これだけは忘れるなと。
少女は執念にも似た視線をハンスに向ける。
「 貴方とあの子達は、決して相容れない。 」




