アカデミーへの招待状
養い親のいなくなった屋敷では今、リフィリアとノア、ルティルが、せっせと大量のご馳走を作っている真っ最中であった。
リビングに備え付けられている大きなテーブルには、三人が作ったであろう食事が盛り付けられてある。
そして、それに手をつけようとしている者が一人。
「 クレアさん、それ食べないでくださいね? 」
ルティルがくすくす笑いながら指摘すると、クレアはその手を引っ込めた。
彼と出会ってもう三年である。気配を察するのは容易のことだった。まぁ、彼が本気を出して消していたら、気付くことなど出来ないだろうが。
「 あり?バレてた? 」
「 ク、クレアさん、これ、食べますか? 」
「 お!やったー!ありがと、ノアちゃん。 」
ノアからおずおずと差し出されたおにぎりをうまーと食べるクレアに、あれ?とルティルが首を傾げる。
「 クレアさんはアリスと一緒に行かなかったんですか? 」
「 んー?俺は別の任務についてたからね。まぁアリスのことだし、任務失敗の心配はいらないと思うけど。……ところで。 」
言葉を切って、クレアは会話している間も次々と増える料理の数々にひくりと笑いながら
「 流石に多くない? 」
あいつはこんなに食えないよ?と、リフィリアに問う。
それに、リフィリアは料理の手を止めないまま、つっけんど返す。
「 いいんですよ。どうせ任務中もご飯を食べず…よくて携帯食料ですからね。無理矢理にでも詰め込みます。 」
ふんすっと告げられたそれには、養い親に対する心配が色濃く出ていて。
「 自業自得、です。 」
「 身から出た錆ですよ。 」
同じくいたずらげに笑う二人も、思いは同じだろう。
それに微笑ましくなっていたクレアの包囲網に、一つの気配が触れる。
「 お前、また入り浸ってたのか。 」
「 お帰りアリス。お邪魔してまーす。 」
苦言と共に現れたハンスに、クレアは軽く答える。
「 報告は行ってきた? 」
「 あぁ。報告書はヘンゼルがやってくれるらしいからな。 」
事務的な話をしていた二人に、リフィリア達が駆け寄る。
「 アリス!お帰りなさい! 」
「 いっぱい作りましたから、ちゃんと食べてくださいね? 」
「 残しちゃ、だめ、ですよ? 」
そして三者三様に出迎えられたハンスは、机の上のご馳走を見て、そしてまた三人を見る。
「 多いんだが。 」
「 食べなさい。 どーせこの二日間何も食べてないんでしょ? 」
「 ……パンなら。 」
「 携帯食料は入れないでください?もちろんチューブもですよ? 」
「 ……いや、でも 」
「 食べて、下さい。 」
まさか自身の食状態にこんなに真剣になると思っていなかったハンス。
有無を言わせない養い子達に、うぐっと言葉をつまらせる。
( おっ。あとひと押しかな。 )
クレアがにやにやと笑いながら、そんな事を思っていると、三人はじっとハンスを見つめて。
「 半分食べたらいいから。アリスの身体が心配なの。 」
「 ……。わかった。」
勝利はリフィリア達に上がったようだ。
養い子の思わぬ懇願に、がくりと折れたハンス。
だが顔を赤らめてるのは、見間違いではないだろう。
「 んで?いつまでいんだよお前は。 」
「 ん?あぁ。女王から預かってきたものがあったんだ。 」
ハンスの言葉に、ポケットを漁りだしたクレア。
そして「 あ、あった! 」とポケットから出した手には、上品な留めが焼かれている白い封筒が四つ。
はてなマークを浮かべる一同に、ふふんっと自慢げに息を吐いて一言。
「 じゃーん!これはリフィリア達へのアカデミー入学書届けでーす!! 」
「 それを届けに来たのか。 」
「 あ、アカデミー? 」
首をかしげる三人に、クレアが説明をする。
「 この国最高峰を誇る魔法学校だよ。リフィリア達はもう九歳。あと一年で十歳になるから、アカデミーに通うことが出来るんだ。 」
「 ?おい、一枚多くないか? 」
アカデミー!っと興奮を隠せない三人。
だがハンスは、訝しげにクレアの持つ封筒。その4枚めを眺める。
それに待ってましたとばかりの弾んだ声で、クレアが答えた。
ハンスにはその笑顔がなぜか、含み笑いをする女王と被って見えてーー。
「 この一枚はアリスの分だ!」
「 ……おい。 」
「 ちょちょ!最後まで聞けって!! 」
ゆらりと拳を掲げたハンスに待ったをかけるクレア。
それに理由があるなら言ってみろ、と視線で訊す。
「 これは任務だよ。内容は、リフィリア達と同期に入ってくる貴族の子供達の護衛と、アカデミー内の評価。 」
言葉とともに、顔写真と資料が束ねられた一冊を差し出すクレア。
「 護衛なら外でもできるし、それがだめなら教師として行きゃあいいじゃねぇか。 」
「 見ず知らずの男か教師が、自分を監視してたらやだろ。 」
「 俺ならバレねぇ。 」
「 万が一の可能性を考えてだよ。それに、俺も子供として潜入するし。 」
そんな問答が、かたや真顔、かたや笑顔で飛び交う。
しかしてハンスは、彼と女王の真意に気づいていた。
彼らはきっと年相応の経験を自分にさせたいのだろう。
普通の、少年の生活を。
そしてクレアが、ハンスがその意図に気づいてることに気付いている、ということも。
「 ……わかった。 」
「 うん。ありがとう。 」
「 任務だから、仕方なくだ。 」
目尻を下げるクレアにそう言って、ハンスは護衛対象の情報が載ったデータに目を落としたのだった。




