表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

祭りの陰で

ハンス達がいる王都から離れた暗がりで、こそこそと動く影があった。

それは一つではなく、数十人の群れ。

祭りの日にしては対極的な雰囲気を帯び、殺意がぎらつく瞳に写すのは、最奥にあるホールで祭りを眺めるこの国の女王。


「 …よし。ターゲット確認。これより任務を遂行する。 」


「 「 了解。 」」


リーダーと思わしき人物の小さな声に、複数の声が応える。

そして唱えるのは、射撃の魔術。一人一人が同じ魔術を唱えることで威力の倍増を図っているのか、次々に魔法陣が完成していく。


ーー某国の暗部。それが彼らの身の上だった。そして今日降った任務が、普段城の中で厳重に守られている、ククロックの女王アリシアの暗殺。


やがて詠唱が一通り終わったのか、あとはリーダーの男の一言を要するだけとなった暗部たち。

自国の命に従う彼らに満足げに頷いて、男は最後の一言を言い放った。


「 ーーー撃ッツ!!? 」


「 悪いけど、任務失敗だな。 」


否。言ったはずだった。

しかして男は、別の誰かに蹴り飛ばされる。

そのままふき飛ぶ形となった男は、部下に支えられながら影を睨みつけた。


「 誰だ!! 」


男の声に、しかしその人物が応えるよりも早く、月明かりがその正体を照らす。

聖銀の光によって露わになったのは、群青色の髪と、狼を思わせる金色の瞳の男の風貌だった。


「 まさか…狂いの同伴者(ドロシー)か!!?」


口にした名称に、群青の男は口角を上げ、部下たちはどよめき出す。


この世で最強の黒髪を持つ男を相棒とする彼に、その正気のなさと畏怖によってつけられたその名。


「 いやー俺の名前も有名になってきたか! 」


「 ーーッツ総員攻撃用意!!! 」


軽い口調で人懐っこい笑みを浮かべる男。

しかしてその実力は、要注意人物リスト(ソーサラレコード)にも上げられるほどだ。

リーダーの叫びに我に帰った部下たちは、全員が持ちうる限りの攻撃をしようと、素早く詠唱を開始する。


だがその一瞬で、群青の男は風となった。


「 なっーー!? 」


遅れて聞こえてくるのは、部下たちのうめき声。

見ると、心臓のあった部分が拳一つ分くり抜かれ、背後が透けて見えている。

次々と倒れ、絶命していく部下達に、早く敵を見つけようと辺りを見渡す、血の海の中で必死の形相を浮かべるリーダーの男。

その背後に、風になったように見えた群青の男が立ち止まる。そして


「 この国に仇なす者、女王に仇なす者よ。総じて、見に余る行為だったと知れ。 」


「 ーーッツ。 」


ーー執行人が一人、ドロシーが残滅を遂行する。


言い放つのは、冷たい氷のような蔑みの音。

そして男が後悔する隙もなく、ククロックを守る番犬が、その愚かな命を食いつくさんと、血の付いた右手を振り上げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「 たくっ。祭りの時くらい大人しくしてらんないのかね。 」


まぁ、この日だったからこそ、奴らは決行したのだろうが。

ドロシーと呼ばれた男クレアは、右手についた血を払ってため息をつく。


彼の足元には、物言わぬ屍肉となった男と、その部下達数十人が倒れ伏していた。

それを面白みもなく見下ろした彼の側に、ククロックの腕章をつけた五人の暗部が現れる。


「 暗部第六班、到着しました。 」


「 おう。後処理頼むわ。 」


「 了解です。 」


短く対応されるそれ。しかして、彼らの足が少し震えていたのは間違いではない。

それはあの場面を見ていたからか。

それならば自身が相棒と呼ぶ彼の任務に立ち会った時、彼らは動けもしないだろうと小さく微笑む。

それは少し憂に帯びた表情で。


クレアは自分の力を正しく知っている。

魔術を用いる相手に、普通は後手に回る体術の類。その才能を極限まで高め、極めた。

その実力が、他の追撃を許さないほどだとも分かっている。

だからこそ孤高の一匹狼として、暗部に身を置いていた。

そう、自分をやすやすと地に伏せた、黒髪の少年に会うまでは。


暗部達は某国の刺客を焼き払い、会釈してもといた配置に戻っていく。

彼らをその場で見送ったクレアは、自身の相棒に想いを馳せた。

そう、今頃拾った少女達と人生初の祭りを楽しんでいるであろう彼。

偽りの姿であろうとも、今しばらくは平穏を。

それが本来の、子供の姿であるだろうから。


「 それにしても…人気すぎじゃない? 」


呟いて見渡すのは、月明かりの当たらない闇。そこから漏れ出す、隠しきれない殺気。


ーー魔術界最高峰の実力を誇る大国ククロック。その女王の失脚を狙うものは、あまりにも多い。


執行人ドロシーの体術。それを恐れ、出てこないのか。


( ……近づいてこない。様子見か?いや… )


間合いにさえ入らなければいいと思ったのか、わずかに感じるのは魔術行使の魔力の波動。


( なるほど。 )


だが


「 悪いね。あいつを今日駆り出さないよう、無茶言っちゃってるからさ。一人だって生かしておけないんだ。 」


言い放ち、唱えるのは魔術詠唱。

それとともに夜空に浮かぶのは、銀色の大きな魔法陣。

強さを示す群青の髪が風に揺れる。


「 光の園よ、今ここに。月の女神の祝福をもって、かのもの達を受け入れよ。 」


それは月の加護。祝福と言う名の冷徹な光。


闇にあって光あれ。 (イアレリード)


その言葉とともに、魔法陣からは目を焼き尽くすほどの光が放たれた。

そしてそれは、周囲一帯を覆いつくす。

後に残るのは、地面についた焦げ跡のみ。


「 さーてと!任務完了!! 」


クレアはそう伸びをして、満足げに頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ