祭りの陰で
ハンス達がいる王都から離れた暗がりで、こそこそと動く影があった。
それは一つではなく、数十人の群れ。
祭りの日にしては対極的な雰囲気を帯び、殺意がぎらつく瞳に写すのは、最奥にあるホールで祭りを眺めるこの国の女王。
「 …よし。ターゲット確認。これより任務を遂行する。 」
「 「 了解。 」」
リーダーと思わしき人物の小さな声に、複数の声が応える。
そして唱えるのは、射撃の魔術。一人一人が同じ魔術を唱えることで威力の倍増を図っているのか、次々に魔法陣が完成していく。
ーー某国の暗部。それが彼らの身の上だった。そして今日降った任務が、普段城の中で厳重に守られている、ククロックの女王アリシアの暗殺。
やがて詠唱が一通り終わったのか、あとはリーダーの男の一言を要するだけとなった暗部たち。
自国の命に従う彼らに満足げに頷いて、男は最後の一言を言い放った。
「 ーーー撃ッツ!!? 」
「 悪いけど、任務失敗だな。 」
否。言ったはずだった。
しかして男は、別の誰かに蹴り飛ばされる。
そのままふき飛ぶ形となった男は、部下に支えられながら影を睨みつけた。
「 誰だ!! 」
男の声に、しかしその人物が応えるよりも早く、月明かりがその正体を照らす。
聖銀の光によって露わになったのは、群青色の髪と、狼を思わせる金色の瞳の男の風貌だった。
「 まさか…狂いの同伴者か!!?」
口にした名称に、群青の男は口角を上げ、部下たちはどよめき出す。
この世で最強の黒髪を持つ男を相棒とする彼に、その正気のなさと畏怖によってつけられたその名。
「 いやー俺の名前も有名になってきたか! 」
「 ーーッツ総員攻撃用意!!! 」
軽い口調で人懐っこい笑みを浮かべる男。
しかしてその実力は、要注意人物リストにも上げられるほどだ。
リーダーの叫びに我に帰った部下たちは、全員が持ちうる限りの攻撃をしようと、素早く詠唱を開始する。
だがその一瞬で、群青の男は風となった。
「 なっーー!? 」
遅れて聞こえてくるのは、部下たちのうめき声。
見ると、心臓のあった部分が拳一つ分くり抜かれ、背後が透けて見えている。
次々と倒れ、絶命していく部下達に、早く敵を見つけようと辺りを見渡す、血の海の中で必死の形相を浮かべるリーダーの男。
その背後に、風になったように見えた群青の男が立ち止まる。そして
「 この国に仇なす者、女王に仇なす者よ。総じて、見に余る行為だったと知れ。 」
「 ーーッツ。 」
ーー執行人が一人、ドロシーが残滅を遂行する。
言い放つのは、冷たい氷のような蔑みの音。
そして男が後悔する隙もなく、ククロックを守る番犬が、その愚かな命を食いつくさんと、血の付いた右手を振り上げた。
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「 たくっ。祭りの時くらい大人しくしてらんないのかね。 」
まぁ、この日だったからこそ、奴らは決行したのだろうが。
ドロシーと呼ばれた男クレアは、右手についた血を払ってため息をつく。
彼の足元には、物言わぬ屍肉となった男と、その部下達数十人が倒れ伏していた。
それを面白みもなく見下ろした彼の側に、ククロックの腕章をつけた五人の暗部が現れる。
「 暗部第六班、到着しました。 」
「 おう。後処理頼むわ。 」
「 了解です。 」
短く対応されるそれ。しかして、彼らの足が少し震えていたのは間違いではない。
それはあの場面を見ていたからか。
それならば自身が相棒と呼ぶ彼の任務に立ち会った時、彼らは動けもしないだろうと小さく微笑む。
それは少し憂に帯びた表情で。
クレアは自分の力を正しく知っている。
魔術を用いる相手に、普通は後手に回る体術の類。その才能を極限まで高め、極めた。
その実力が、他の追撃を許さないほどだとも分かっている。
だからこそ孤高の一匹狼として、暗部に身を置いていた。
そう、自分をやすやすと地に伏せた、黒髪の少年に会うまでは。
暗部達は某国の刺客を焼き払い、会釈してもといた配置に戻っていく。
彼らをその場で見送ったクレアは、自身の相棒に想いを馳せた。
そう、今頃拾った少女達と人生初の祭りを楽しんでいるであろう彼。
偽りの姿であろうとも、今しばらくは平穏を。
それが本来の、子供の姿であるだろうから。
「 それにしても…人気すぎじゃない? 」
呟いて見渡すのは、月明かりの当たらない闇。そこから漏れ出す、隠しきれない殺気。
ーー魔術界最高峰の実力を誇る大国ククロック。その女王の失脚を狙うものは、あまりにも多い。
執行人ドロシーの体術。それを恐れ、出てこないのか。
( ……近づいてこない。様子見か?いや… )
間合いにさえ入らなければいいと思ったのか、わずかに感じるのは魔術行使の魔力の波動。
( なるほど。 )
だが
「 悪いね。あいつを今日駆り出さないよう、無茶言っちゃってるからさ。一人だって生かしておけないんだ。 」
言い放ち、唱えるのは魔術詠唱。
それとともに夜空に浮かぶのは、銀色の大きな魔法陣。
強さを示す群青の髪が風に揺れる。
「 光の園よ、今ここに。月の女神の祝福をもって、かのもの達を受け入れよ。 」
それは月の加護。祝福と言う名の冷徹な光。
「 闇にあって光あれ。 」
その言葉とともに、魔法陣からは目を焼き尽くすほどの光が放たれた。
そしてそれは、周囲一帯を覆いつくす。
後に残るのは、地面についた焦げ跡のみ。
「 さーてと!任務完了!! 」
クレアはそう伸びをして、満足げに頷いた。




