甘さのおすそ分け
怨霊事件でヴィル達と出会ってから二日後。
夕飯を買いに森の近くにある街へと足を運んだリフィリア達の目を奪ったのは、そこかしこに飾り付けられた色とりどりのランタンだった。
中から淡い光を出すそれは、リフィリア達が初めて見るものだ。
「 ……綺麗。 」
ノアはランタンから目を離さずに呟いた。
前を歩いていたハンスが、その声に振り返る。
そして彼女達の視線の先にあるものを見て、なるほどな、と口を開いた。
「 あれは明日の夜開催される、祭りのランタンだ。 」
「 お祭り? 」
「 あぁ。豊穣と平和を願う祭り、クォーツィだ。一年に一度、各国が順番で開く。去年はトラシナで、今年はうちだな。 」
「 結構大規模なんですね。 」
「 まあな。その祭りにはお偉いさん方がごまんと出席するんだ。この前きたヴィルの用事も、この祭りだ。 」
数千年以上も続く伝統。その始まりはもう誰も知らないけれど、それは毎年途切れたことがなく。
感慨深くランタンを見る三人に、ハンスは少し考えてから言った。
「 ……気になるなら、明日行ってみるか? 」
「 い、いいの? 」
了承を伺うリフィリアのその瞳は、きらきらと期待に満ちている。
他の二人も同様である。
それにくすりと笑って、
「 俺も明日は何もないからな。それに、変化の魔術は完璧にこなせるだろう? 」
それに力一杯頷く三人。海の時も感じた年相応の幼さが微笑ましく、ハンスの頰も自然と緩む。
「 お祭りって何があるんですか?」
「 そうだな…ブラックケーキやばちばち光る綿あめ。あとは辛甘棒キャンディーとかだな。 」
「 ……なにその危なそうなネーミングのお菓子。 」
じとっと先ほどのきらめきが嘘のように睨んでくるリフィリア。
それに誤解だというように肩をすくめて
「 安心しろって。食べて危険なもんはねーよ。なにせククロック王国の三大お菓子会社が手がけるんだからな。 」
一年に一度行われるこのお祭りは、開催国の名誉と誇りをかけたアピールイベントになる。だからこそ、出されるものは全て意表をついたものになり、くるもの達を楽しませるのだ。
そこまで聞いて納得したのか、その瞳はまた期待に満ちたものになり、二人と明日について話し合っている。
ハンスはまるで眩しいものを見るように目を細めながら三人を見ていたが、やがて街の中にある商店街の方へ向くと
「 おい、置いてくぞ。 」
「 あ、まってよアリスー! 」
「 今日は何にしますか? 」
「 さっぱりとしたものがいいですね。 」
そうして、当初の目的である夕飯の買い出しに足を進めたのだった。
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次の日の夜。
「 ……おし、到着、と。 」
とんっとハンスが降り立ったのは、祭りが行われる王都から少し離れたところ。
彼に抱えられたリフィリア達が、昨日見たランタンとは比べようもないほど多く飾り付けられたそこを見て、息を飲む。
月明かりに照らされた王都には、色とりどりに光るランタンがふよふよと浮かび、暗いそこを淡く照らしていた。
きゃっきゃと駆け回る子供達の声や、大人の声。屋台の掛け声などが交わって盛り上がりを見せている。
「 んじゃあ、まずはぶらっと探索してみるか。お前ら離れんなよ。 」
「 大丈夫。アリスの赤髪は目立つもの。 」
そんなやりとりをして、四人は王都の敷地をまたいだ。
「 アリスはお祭りきたことあるんですか? 」
「 一回だけな。それも警護として、だったが。」
「 それじゃあ、今日はいっぱい楽しみましょう。 」
ノアとルティルの言葉に、そうだなと頷き返す。
そして聞こえてくるのは、ばちばちと何かが弾ける音。
追って「 ばちばち綿あめだよー!! 」という威勢のいい大声が聞こえた。
「 あれって、アリスが言ってたやつじゃない? 」
言ってリフィリアが指差すのは、綺麗に綿あめが並んでいる屋台。
そしてその綿あめは普通のものではなく、その名の通りばちばちと小さな火花が弾け散っていた。
「 食べてみるか。 」
ハンスは屋台の中にいる男に近づくと、「三本くれ 」と注文した。「 はいよ! 」と渡された綿あめと引き換えに銀貨を渡し、リフィリア達のところへ戻ってくる。
「 ほら。 」
「 …いざ食べるとなると怖いわね。 」
ハンスから火花が散る綿あめを受け取りまじまじと見る。
やがて意を決したのか、はむっと三人は一斉に綿あめにかぶりついた。
「 !!美味しい!! 」
「 甘くてとろけそうですっ。 」
「 口の中でぱちぱち弾けるのが面白いですね。 」
先ほどまでの恐る恐るとした感じが一転、目をらんらんに輝かせて綿あめを絶賛するリフィリア達。
その百面相を笑いをこらえて見ていたハンスに、ずいっと差し出された綿あめ。
「 アリスも食べてみなさいよ! ほら、あーん!」
「 あっ!リフィリアずるい…! 」
にこっと満面の笑みで差し出されたそれに、断りを入れられるわけはなく。
ハンスもはむっと綿あめにかぶりついた。
ぱちぱちっと弾ける食感と、ほのかに香るいちごの味が、口の中に溶けていく。
「 ……うまい。 」
「 でしょー!! 」
「 アリスさん!私のもどうぞ!こっちはメロン味です。 」
共感の言葉に、さらに機嫌をよくしたリフィリア。
そして彼女と同じく「 あーん 」と差し出してくるノアの綿あめに、ハンスはまた口を開きあーんとふわふわなそれを口に入れる。
「 ど、どうですか? 」
「 あぁ。うまいな。 」
ぺろっと口の端についたかけらを舐めて答えたハンスに、ノアは顔を真っ赤にすると
「 よ、よかったです…。 」と縮こまった。
三人がそんなやりとりをしている中、ルティルはあたりを興味深く見渡していた。
やがて何か見つけたのか、ルティルが興奮した様子でハンスに言う。
「 アリス!あれを食べてみたいです! 」
それに三人が視線をよこすと、先には緑と赤を混ぜたようなおどろしい色をした棒キャンディー。甘辛棒キャンディーと書かれた看板が掲げられた屋台の周りには、倒れ臥す人々と悲鳴の声が響いている。
青ざめたリフィリアとノア。対照的にルティルは此処一番の期待を込めて、ハンスを見ている。
「 ……お前はほんっと好きだな。ああいうの。 」
「 楽しそうじゃないですか。」
何事も挑戦ですっと屋台へと足を運ぶハンスに、顔が引きつったリフィリアとノアを連れたルティルはふふふと笑った。




