養い親は霊感が強い!
「 けほっ。だ、大丈夫ですか!? 」
立ち込める土煙の中で、上から落ちてきた誰とも知れないものを案じる。
「 おー。大丈夫大丈夫。この石みたいなのは大丈夫じゃなさそーだけどなー。 」
そういって、晴れた視界の中に居たのは、崩れた祠だったものを下敷きに苦笑いを浮かべるクレアだった。
だが、彼女達の視界に映ったのは彼だけではないようで……。
「 え?何あれ何あれ?む、虫?おっきなムカデ? 」
「 〜〜〜〜ッッッ。〜〜‼︎ 」
「 やばいですノアが息してませんっ。」
「 お、起きてノア‼︎そしてクレアさんはそっからどいてください! 」
祠から出た邪悪な気配の正体。それに震える三人に、能天気な声をクレアが飛ばす。
だが。
「 あ、やっぱりなんかいるのね?嫌ーな気配が後ろからすんだよねー。なんなのかわかんないけど。 」
「 見えてないんですか⁉︎ 」
「 うん全然。 」
「 それは羨ましい。とりあえず今ムカデのようなモノが貴方の身体を背後から抱き込んでいると教えましょうか。 」
「 ぇ、あ、どうりで身体が動かないと思った。え、どうしたらいいと思う?? 」
冷静さを失ったか、サーっと青ざめ涙を浮かべながら、クレアはリフィリア達に助けを求める。
「 赤き炎よ、今として業火の園を召喚せよ‼︎ロージャントフレイオ・リリー! 」
即座に反応したリフィリア。養い親に教えてもらった攻撃魔術を組み込む。
クレアの後ろ、化け物の真下に橙色の魔法陣が浮かび上がった。
ーー普通、白髪を持つ自身の魔力量からすれば、中位に座を置くこの魔術は、使えば必ず魔力が干からびて死ぬだろう。
それを知っているからこそ、クレアは彼女のスペルに息を飲んだのだ。
しかしてそれは、彼女の首から下がる桃色のネックレスに打ち砕かれる。
養い親の、「 少ないならば日頃から貯めればいい 」という助言の元、ルティルが生み出した魔力を貯める翡翠の首飾り。
常時身につけるだけで一定の魔力を貯めることができる超優れものだ。
それが淡く光り、自身の魔術の後押しをする。
そして魔法陣から放たれるのは、彼女が思い起こした紅蓮の炎。渦を巻き、全てを燃やし尽くせんとするその炎は、器用に化け物に絡みついた。
ーーだが。
「 キィェェェェェェェェェェェェエ 」
「 嘘でしょっ⁉︎効いてないっ。 」
炎を弾き飛ばし奇声を上げるそれに怯む。
「 それならっ 」
せめて敵なんなのか知れていれば、手の打ち用はあるのだが。いかんせん突然の事に混乱しきった三人の頭では、壊された祠とか、化け物が出てきた原因とかが考えられないわけで。
典型的な魔術が通じないのなら!とルティルが両手を前に突き出し唱え始める。
「 閉じ込めてしまえ!ガーティウォール!! 」
化け物を囲うように、いくつもの魔法陣が浮かび上がる。ルティルの首の黄色の水晶が光り輝いた。
それは空間そのものを封じ込める神秘の技。
無空間での構築を得意としているルティルの得意魔術の一つ。
それはさながら、見えない大きな壁のようなものだ。それが化け物を両側から挟み込む。
「 グッーーウォォォォ‼︎ 」
しかしその神秘は、化け物の咆哮の後無に帰した。
「 そ、そんな……。 」
先ほどの魔術は、養い親にも太鼓判を押された術だ。
それが通じないのなら、もう打つ手がーー。
三人が固まった。ーーそのとき。
「 おい。どこにその"よくないもの"とやらはあるんだ?ヴィル。 」
「 そう焦るでない。人生にはゆとりも大切だぞ? 」
響くのは、二つの声。
そして化け物に憑かれたクレアとリフィリア達との間に降り立つのは、自分達の養い親と、金髪と青髪の美少女が二人。
「 あ、アリス‼︎? 」
「 取り敢えず無事みたいだな。そこ、動くなよ。 」
「 う、うん。 」
驚いて目をぱちくりさせる三人の姿を捉えて、ほっと息を吐く。
そのハンスの横で、ヴィルは化け物を値踏みするように眺めた。
「 ほう…。積もりに積もった恨みつらみの集合体か。えらく育ったものじゃのう。 」
「 いやぁー多分俺の生気吸ってると思うんだよね〜。正直もう意識が…ははっ。 」
「 ーーつかなんでお前がここにいんだよ。 」
力のない笑顔を浮かべるクレアに呆れた声を返す。
だがそれにすら答える気力がないのだろう。
クレアの瞳が落ちようとしているのが見えた。
「 ヴィル。その集合体ってのはーー 」
「 あぁ。お主の相棒にしっかりと憑いておる。 あとは教えた通りにやるがよい。 」
ヴィルと言葉を交わして、前に出た。
化け物とハンスが互いを見つめる。
……一瞬の、静寂。そして。
「 消えろーー。 」
「 ーーーーーーー‼︎ 」
その一言で、あれだけ手強かった化け物が爆ぜた。
「 すごい… 」と呟くノアに、それを満足そうに眺めていたヴィルの横にいたメアリーがふふっと笑う。
「 アリス君はね、霊感が強いんだよ。 」
「 へ? 」
「 しかもただ強いだけじゃない。それを撃退できる力も持っておる。大した奴じゃろう? まぁお主らと違って、その存在自体は見えないらしいがな。 」
メアリーの言葉を受け継ぐようにして説明したヴィル。
その間にハンスは意識がうつらうつらしているクレアの元に向かった。
「 おい。大丈夫か? 」
「 わー。アリスから心配の言葉が出るなんて、明日は雪かな? 」
「 死にてぇんならそう言えよ。一瞬で逝かせてやるぜ? 」
「 じょーだんだよ。助けてくれてありがとう。割と大丈夫だよ。なんだか憑き物が取れたみたいだ。 」
「 まぁ、実際に取れたからな。ーーというかお前はどうしてここにいるんだ? 」
クレアの腕を引っ張りあげて問う。
「 いやー久し振りに任務がなかったからさ、アリスの家行こうとしたんだけど、結界を蹴破る力加減間違えちゃって。 」
力余ってこのざまだと、クレアは肩をすくめて言った。
それに呆れ混じりに溜息を吐き出すと
「 ……ふん。 」
「 ……? 」
「 これでお前は蹴破んなくてもここに入れる。 」
指を鳴らす。
ぶっきらぼうに告げられたその言葉に、クレアが驚きで目を見張った。
「 いいのか? 」
「 来るたびに結界を壊されるのは困るからな。 」
ツンとした態度に、だが隣を務めて長いクレアはそれが照れ隠しだと知っている。
「 ありがとう。 」
「 …おう。 」
その二人の姿を微笑ましげに見ていたヴィルが、さてととハンスに声をかけた。
「 そろそろお開きの時間じゃな。アリス、女王陛下の元へ連れて行ってくれるか? 」
「 …もうそんな時間か? 」
「 あぁ。デートはまた今度じゃな。」
含まれた言葉に、過剰に反応したのはハンスの養い子である三人。
「 でっででデート!? 」
「 どっどういうことですか!? 」
「 そういえば二人はどんなご関係で? 」
そんな三者三様の詰問姿勢を愉快そうに見つめて、メアリーと同様にハンスの魔法陣の範囲内に入る。
「 安心せい。そなたらの思ってる事などないぞ。妾はアリスの友達だからな。 」
くすりと笑うヴィル。魔法陣が一層輝き、三人の姿が光に包まれる。
「 すぐ戻る。それまで留守を頼んだ。 」
後に残ったのは、リフィリア達とクレアのみ。
三人は微笑とともに告げられたヴィルの言葉を、信じていいものなのかと頭を悩ませていた。




