フラグ回収お疲れ様です。
ーー気づくと自分は、全く知らないところに一人で立っていた。
真っ暗な空と、燦々と輝く太陽。水が張った地面に、誰もいない無人駅。
窓一つしかない自分の部屋。それと外をつなぐ唯一のドアは、いつも外から鍵がかかっていて。自分がここにいるのは不可能なのに。
「 なんで俺、こんなとこにいるんだ? 」
遠くで汽笛が鳴った。それに紛れて、クスクスと笑う鈴のような音が聴こえる。
隣を見ると、白いワンピースを着た自分と同じくらいのーー5歳くらいの少女が立っていた。
「 だぁーれが駒鳥殺したの? 」
少女が、その鈴のような声で歌い出す。
カンカンと踏切の音が近くで鳴った。
「 ーーわたし私と雀が言った。 」
そんな歌知らないはずなのに、自分の口は勝手に動く。
「 私の矢羽で私が殺した。 」
「 誰が駒鳥死ぬのを見たの? 」
少女がまた問いかけてくる。
自分はそれを知っていた。まるで今しがた見たように、駒鳥が死ぬのを自分は見たのだ。
「 見たのは私とハエが言った。私の瞳で死骸を見たわ。 」
木々がないはずのそこに、蝉の鳴き声が響き渡る。
「 ーー本当に死ぬのをハエが見たの? 」
歌を切って、少女がそう問いかけた。
「 知らねーよ。見たっていうなら見たんじゃねーの? 」
自分はそんなこと知らないし、きっとハエ以外知らないのだろう。
「 ……じゃぁ。 」
少女の声が合図か、自分と少女が立っている無人駅を囲うようにして、あたり一面を炎が囲んだ。
皮膚が焼けるような暑さの中で、不釣り合いな風鈴の音がチリンと鳴る。
紅く燃える炎を、自分は見たことがあった。
あれはそう、自分がまだーー。
「 だぁーれが駒鳥殺したの? 」
そう言った少女が指差す先には、三つの人影。
ひゅっと喉が小さく鳴った。
「 わたし私とーー… 」
答えた言葉は、踏切の音にかき消されていた。
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ーー夏らしく暑い昼。
テーブルの上に置いてあった豪勢な昼ごはんに、仕事に出てていない雇い親に感謝する。
食べ終わって、それぞれが強くなるための練習を始めた。
一年間、彼に稽古をつけてもらってわかったこと。
ルティルはハンスと並ぶくらい頭がいい。
怪しい薬品とかは、彼と一緒に嬉々となって作る。
ぶっちゃけ軽くホラーだ。
ノアは治癒の魔術や幻影の類いが得意。
治癒の魔術は難易度が他の魔術よりも高い。
ノアはその理由である魔力操作に長けていたのだ。
それが判明してから、ハンスの傷を癒すのはノアの役目になっている。
リフィリアは魔術よりも体術の方に才能がある。その身体を操るセンスの高さはハンスとクレア、二人のお墨付きだ。
三人とも、実戦なら普通の魔術師よりも強いだろう。
だけど、彼女たちが追いつきたいと思っている彼の足元には及ばない。
だから、稽古がない日もこうやって森の結界から外れた演習場( ハンスが作った )で練習に励んでいた。
「 ねぇ。このほこらって何が祀ってあるの? 」
演習場の隅でしゃがみこみ何かを見ていたノアの震える声に、何事かとリフィリアとルティルが駆け寄った。
ノアが指したのは、十字が彫られた石の祠。
その何の変哲も無い祠から漏れる禍々しい気配に、ノアと同様に青ざめる二人。
何を祀ってあるかわからないが、それが良く無いものだって云うのはわかった。
「 絶対壊しちゃダメだよねコレ…。 」
「 そうね。そっとしておきましょう。 」
だが、これは所詮フラグというやつに他ならない。
「 みんな〜どいてくれー!! 」
「 え? 」
「 へ? 」
「 は? 」
そしてそれを回収するものの声が、祠の真上、すなわち空から降ってーー否。落ちてきたのだった。
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彼女たちが祠に気付く少し前。
ハンスは女王の命で、隣国、トラシナの巫女を出迎えに、ククロックとトラシナの国境に来ていた。
ーートラシナの巫女とは、代々マグナリアを調律してきた一族のことだ。
マグナリアとは、万物の放流の源である。
消費された全てのエネルギーが集うこの世界の核なる存在。
その流れを感じ取り、年々ねじれてきているマグナリアの力を元に戻すことができるその一族は、各世界で大変受容されている。
その巫女が来るのだ。
傷一つつけたら、ククロックは全ての世界を敵に回すことになるだろう。
だからこそ、最強の実力を持つハンスが護衛を受け持ったわけだけれども。
「 おーいハンスくーん。おっまたせー! 」
待つこと数分。やがて、自分を呼ぶ能天気に明るい声が響き渡る。
はたしてこちらにかけて来るのは、自分の名を呼んだ青髪の少女と、妖艶な笑みを浮かべる金髪の少女。
「 今はアリスだ。メアリー。 」
半目を向けると、青髪の少女ーー巫女の付き人であるメアリーはたははと苦笑い。
そしてーー。
「 元気そうじゃのう。アリスよ。 」
「 そっちもな、ヴィル。」
金髪の少女ーー百二代目の巫女を継ぐ者が声をかける。
普通、ハンスほどの身分であっても、巫女に馴れ馴れしくしてはいけない。だからこそ、彼らの気さくなやり取りからは、信頼の高さが伺える。
それはヴィルが巫女を継いでから、護衛をハンスに任せていることにもあるが、彼女たちはーー。
「 それにしてもアリスくん染めたの?こーんな真っ赤っかにしちゃってさ〜。 」
長いポニーテールの端をつまみながら不服そうにいうメアリー。
そう。彼女たちは、ハンスの髪と病を知る数少ない人物の二人であったのだ。
裏を返せば、ハンスをハンスとしてみてくれる者たちだということで……。
「 うるせーよ。こっちにも色々とあってだなぁ…。 」
道中。年相応とまではいかないものの、あたりの警戒は怠らずに少し気を抜いたハンスが、自身の養い子の話を二人に聞かせるのであった。
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「 へぇ〜。大変だねぇ。 」
「 そっ。だからあいつらには黙っててくれよ? 」
「 わかってるよ。」
「まぁ、会うこともないだろうけどな。 」
「 いや、そうでもなさそうだぞ? 」
えっ、と。
声に出さずに隣を歩くヴィルを見る。
琥珀色の瞳はどこか遠くを見ているようでーー。
「 お主の家に、良くないものが憑いておるのぉ。 」
瞬間。ハンスの顔から表情が消える。
それでも踏みとどまったのは、彼女が言った『 憑いている 』の一文のせいか。
調律ともう一つ、彼女の家系が行なっている本業。
祓いの力をもってして浄化するそれは、人にあらず。この世の摂理から反したものを指していて。
「 一緒にきてもらえるか。 」
「 ……お主ほどの力なら、妾がいなくても大丈夫だろうに。 」
「 毎回そういうこと言ってるけどな、こっちは見れねーし触れねーしでめっちゃ不安なんだわ。 」
ハンスが何気無しに行った言葉に、一瞬動きが止まる。
不安なのだと。そうか。彼が養うその子らは、それほどの価値がある人間なのかと。
彼がそれほどまでに思えるものたちなのだと。
ならば良いと。
「 メアリー、スケジュールの調整はできるか? 」
「 わっかりました!大丈夫ですよー。こんなこともあろうかと、実は30分余裕を持って組み込んでいるんです! 」
なるほど、こっちは付き人に、彼は女王にしてやられたというわけだ。
久しぶりの再会。二人のささやかな心遣いなのだろう。
ヴィルとハンスは心置きない友人だが、会える回数は片手で足りるぐらいしかないのだから。
「 ならば十分て終わらせて、残りの二十分はデートと洒落込もうではないか。 」
「 あぁ。助かる。 」
そうして、ハンスは自身と二人の少女の足元にテレポーテーションの陣を展開したのであった。




