猫と少女と神様と
ーー怖い夢を見たんだ。
白い髪に青の瞳を持つ少女が私に言った。
森をつけ抜けた先にある古びた公園。
月が出ている紺色の空を、ブランコに座って眺めていた少女。
近づいてきた私に何を思ったのか、彼女は私に呟いた。
ーー怖い夢を見たの。
ーーそれはいつも同じ夢。
ーー姉妹同然に過ごしてきた二人が死んじゃって。
ーー笑いながらあの人が、死んじゃう夢を。
青眼の少女は、ブランコの上で丸くなる。
肩を抱いて、縮こまる。
まるで何かを守るように。
まるで何かを閉じ込めるように。
その怖い夢に怯えているのだろうか?
そう思った。
親しい人を亡くすことは、たとえ夢の中であっても堪えるのだろうと。
家族がいない自分には、到底わからないけれど。
でも、違った。
ーー駆け出せなかったの。
それはまるで、懺悔のようで。
だけど懺悔と呼ぶには、その罪は彼女の小さな身体には重すぎて。
ーーリフィリア達が死んじゃう時も、アリスが消えてしまう時も、私の足はいつも動かない。
初めは夢のせいかと思った。
夢だから、動けないんだと。
だけどーー。
ーー足が震えるの。足がすくむの。
私はどうしても、駆け出せないの。
弱い自分が嫌になる。
そう呟いた彼女。
それにかける言葉が見つからなくて、私は鳴いた。
ーーありがとう。大丈夫だよ。だって……。
「 ノア‼︎ 」
その空間に、割り込んできた男の声。
ノアとは彼女の名前だろうか。
駆けて来たのは赤髪の青年。
ーーアリスさん!
彼の顔を見た途端、彼女の周りで花が咲いた。
とてとてと青年に駆け寄っていく。
「 帰るぞ。 」
ーーはい!……じゃあね。猫ちゃん。
そう言って、私に手を振る。
それに私は、にゃーんと一声応えたのだった。
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「 どうして、いつも私のいる場所が分かるんですか? 」
公園を後にして、ノアは隣を歩くハンスに聞いた。
そう。彼は怖い夢を見てうずくまる自分を、いつも迎えに来てくれる。
どこにいたって、帰るぞと手を引いてくれる。
「 もう一年も一緒にいるんだ。お前の行動くらい読める。 」
それに、と。
「 何で悩んでるかは知らないけどな。お前は強くなってるぜ? 」
ーーその一言に、私がどれだけ救われるか気づいてますか?
声には出さず、問いかける。
一年一緒にいて、この幸せな日々が終わってしまうんじゃないかと不安だった。
その思いは、日に日に強くなっていった。
彼が何気無しに言った言葉は、欲しい言葉で。
こんな弱くて、情けない自分に、当たり前のように隣を許してくれる貴方に、私はいつも救われている。
だから。
「 アリスさん。 」
「 あ? 」
「 私、もっともっと強くなります。 」
「 ーーあぁ。 」
貴方が助けを求めた時に。
きっと貴方は、言わないだろうから。
気づけるように。
守れるように。
貴方は私の神様だけど、でも、普通の人間だから。
貴方が手を伸ばした時、引っ張り上げてあげられるように。
遠くの方。もう小さくなった公園から、にゃーと鳴き声が聞こえた気がした。




