看板
ーーどう見ても怪しい。怪しすぎる。
ネットでこの看板の写真を見つけた時はこれしかないと思っていたが、実際に本物を目の当たりにすると、中に入るのを躊躇してしまう。
本当に、よくもこんな看板を立てようと思ったものだ。
と言うか、溢れ出んばかりのチャレンジ精神に敬意を称したくなる。
まだ、HP回復受け付けます、と書いてあったのなら、ギリギリわからなくもない。
お茶目なゲーム好きのドクターが、小さな少年の傷を手当てして、はい、HP全回復だ、と言う妄想が頭に浮かぶ。
しかし、この看板に書かれているのは、MP回復受け付けます、だ。MPなのだ。
まず、治療の手段が全く頭に浮かばないし、そもそも、こんなニッチなジャンルの看板で、一体どんな症状の患者を呼ぼうと思ったのかが謎である。
そんなにホイホイと、ファイヤーボールが撃てなくなりました、なんて言ってくる様な奴など秋葉原にしかいないだろうに。
経営面度外視の、仏のような魔法使いが、ご主人様、おかえりなさいませ、とお出迎えしてくれるのだろうか。
ディスってはいない。
しかし、お化け屋敷のような古い建物を使って、雰囲気だけは一流だが病院としてはアウトだろう。
本当に、こんな病院に来る物好きを見てみたいものだ。
あ、僕か......紛れもなく僕だった。
まあ、見方によっては風情のある建物だと言えなくもないし、もしかすると僕の中に眠っていた力を呼び覚ましてくれる、名医が待っているのかもしれない。
いや、それはないか。
さすがにふざけすぎた。帰ろうかな。
ダメだダメだ、肝心なのは僕の病気を治せるかどうかだ。
この病院のウリを調査して、ネットに上げようとしているわけではないのだ。
入ろう。入るしかない。
そうだ。これはファンタジーの世界ではなく現実だぞ。
MPなんてあるはずはないのだ。
こんなフザけた病院だとしても、しっかりとした医療機関。
所詮ドクターが、白衣ではなく黒衣を着ている程度だろう。
あと白ひげは生やしていて欲しい。
そんな事を考えながら、僕は病院のドアに手をかけた。