60 畏怖する存在
女性、だった。
見た目は。
レピートは、自分よりも年上の女性を見ていた。
だが、それなのに、纏うモノは異質さを持っている。肌を泡立たせるのは、何なのか。畏怖か、はたまた、恐怖か。
とても、怖い。
「……ッ」
呼び寄せてはいけない、存在。
と、階段下からロズ達が顔を見せた。入口近くで、姿を捉えて足を止める。なんだ、と、ソレは目を向けた。
やや目を細めながら、続いて、ソレがコアをぐるりと見詰める。
赤色のコアは無残にも砕け散っていた。が、残りの四個は、未だ形を保ち、マナを纏わせているようだ。
ふいに、ソレが青いコアに手を伸ばした。
「――やめテ!!!」
防衛反応。
真実を知った、レピートならばわかった。ガーディアン特有の防衛反応だと。ティが取り乱したようにコアを奪取する。両腕で抱え込み、ティは気丈と言えるほど、ソレを睨み付けた。
「コレに……触るな……!!」
憤りを越えた感情が膨れ上がる。ソレは、冷めた目でティを見た。白い指先が、トン、トン、と、自分の腕を叩く。
ぐん、とレピートの体が引かれた。
「ぁ…?!」
「伏せろ!!!」
耳元で、レイスの叫び声がする。
瞬間、一拍も開けない速さで、魔術が展開され、爆発した。
…
……
………
硝煙が立ち込めている。その中で目を凝らすと、宙に障壁がうまれていることに気が付いた。それなのに、体が重くて、動かない。視線を下すと、赤色が見え、出血していることに気が付いた。
視界が霞む。
「……ん、………おい!」
「………、………ッ……」
何度か瞬きをして、目に入ったのは、やや顔を顰めた表情のネオの姿だ。盾が光を強めていた。ティは、その光に守られたのか、と気が付く。
「……なに、おき……」
手の内のコアは無事だった。光のは残り、三つのコアだろう。
――レピート達は
「障壁が……間に合わなかった」
ネオはセトを守るウルアを見やりながら、吐き捨てた。展開が間に合わなかったのだ。たまたま、近くにまできていたティだけが間に合った、というところなのか。その言葉を聞いて体を起こした。
硝煙の向こうで、震える体を起こしているのはロズか。その横でプレネスが頭をおさえているし、シプロもまた、倒れ伏してはいないものの、壁に寄りかかっている。あの三人は大丈夫だろう。恐らく、咄嗟にプレネスが障壁を張ったのだ。
二人は。
いいや、と、血を見詰めた。
この血は、誰のものだ。
重なっている影が見えた時には、硝煙は晴れ切っていた。
「おお……おお、すごい、やはり、やはり素晴らしい……!我らが魔王よ………」
「……ま、おう……?」
セトが小さい声で、大臣の――否、魔物の言葉を反復した。
血は、レイスのものだった。
「……師匠?」
障壁が届かなく、間に合わなく。
それなのに。
ティが異質さを感じ取ったのは、ソコじゃない。
・・・・・・・・・・
レピートは無傷だった。
レイスが守った、と言えば、聞こえがいいかもしれない。だが、あの直撃を受けて、全てをレイスが庇いきれるわけはなかった。だから、怪我をしていて当然なのだ。その見た目通り、レイスが負った傷は深いものに見える。
だからこそ、無傷で座りこんでいるレピートは、異様な光景だった。
と、
赤いマナが空中を漂い、
レピートに吸い込まれた。
「………?」
コテン、とレピートは首を傾げる。レイスが黒髪の隙間から、目を開いて、レピートの肩を掴んだ。
「これは珍しい」
ソレの言葉に、レピートが顔をあげた。レイスの手を振り払うと、立ち上がり、気丈にソレを睨み付ける。やはり、体に傷は一つもない。
ソレが、嗤う。
「なんだ、君、死んでいるのか」
「…………え?」
そして、少女は目を見開いた。