58 再会
ユーリが転移術を詠唱すると、足元に陣が浮かんだ。レピートがぎゅぅとレイスの服の裾を掴む。
「今から、貴方達をお城へ送るわ。……幸運を」
ユーリはそうして、レピートを見る。
どこか愛おしそうな表情で、微笑んだ。
「……さっきは、嘘をついちゃった。……でも、私、その子に酷いことをしてしまったの、だからね。きっと、その子は私のことを恨んでいる。だから、忘れて頂戴」
光が、強くなる。
どうして、ユーリがレピートのそれを伝えたのか。
ただ、レピートは強く言い放った。
「そんなこと、ないです!!!」
恨んでいる、とか。
分からない。人の感情程、分からないものはない。
でも、ロズは誰より優しいことぐらいは、分かっている。
そんな優しい彼が、実の母親を恨むなんて、できるわけがない。
「きっと…きっと、ユーリさんの、その子供だって!ガーディアンとして今を生きている子供だって……ユーリさんのこと、恨むはずがない!だって、貴方は母親です、お母さんを……お母さんを嫌う子供が、いるわけないじゃないですか!!!」
レイスが目を見開いた。
ただ、何か紡ごうとして、結局口を閉じる。代わりに彼女の頭に手を置いて、少女の名前を小さな声で呼んだ。
「そう、そうかしら……ええ、そうだと、嬉しいわ……」
ユーリは、泣いていた。
光が一面を包んだ時、レイスが呟いた。
「お前は、……≪お前≫は、そうなんだな」
その意味は、わからなかった。
…
……
………
ツイッセは小首を傾げたまま――まぁ、いいか、と口を開いた。
「とりあえず、吸血鬼はココ、立ち入り禁止なのよねぇ」
「参ったわね、貴方、いつもいつもタイミングが悪い」
そうして、向かい合った、そのとき。
光が、部屋を覆った。
最初はごく小さなものだ。だが、徐々に強まったそれが、部屋を覆い尽くしていく。思わず身を庇うように両腕をクロスさせて、隙間から光の中を見詰めた。
「なに……!」
「う、あああ……!なんですこれ、きもちわる……」
声。
年幼い少女の声に、思わずロズは「レピート!?」と声を荒げた。
光が細まった、後、そこにはレイス、レピート、シプロの姿があった。
「転移術ね…」
「うう、なんで、今までこんなこと…」
「マナが…この空間全体を覆ってるから、か。しっかりしろ、状況は割と最悪だぞ」
「ふぇ」
レイスがレピートの肩を叩いて、ようやく、レピートもロズ達に気付き、目を丸くした。ティは安堵のあまり、息を吐く。
無事だった。
そして、また、集えた。
「ツイッセ……!」
「お仲間?どちらにせよ相手をするだけね!さぁきなさい!」
ツイッセが召喚魔法で、魔物を呼び寄せた。ウルフが嘶く。シプロが剣を抜いた。
「ここは私が相手をする!レピート、レイス、先に行け!」
「……あたしも残るわ。こいつの狙いはどうせあたしだしね」
プレネスが続けた言葉に、ロズは口を開こうとした。――そのとき、地震のように、足元が揺れた。
何かが起きようとしている。
ロズは、言いよどみ、それから、ぐ、と拳を握りしめる。迷ったのは一瞬だけだ。くるり、とレピートを向くと、叫んだ。
「レピート!」
「……っ行きます!待ってますから!」
脱兎のごとく、レピートは駆け出した。
ここは地下らしい。王の間は一階だ。が、そこでティが声を張った。
「マナの感覚……もっと、上、最上階ダ……よ!」
ティが紐を、鞭のように撓らせて、こちらに気付いて向かってきた兵士を打ち倒した。ロズがレピートより前に跳びだす。
「――う、ぁ!?」
「ははっ、騎士様は…動きが単調だ」
ロズの動きに翻弄された騎士が、ぐらりとバランスを崩した。その横をレピートとレイスが駆け抜ける。階段を昇り、上へあがっていく二人を見送ってから、ロズはレイピアを構える。
ティが眉を寄せた。
「……なんダ?何か……様子が、おかしイ……?」
騎士が、ふいに。
剣を取り落して、体を震わせた。
苦悶の声が聞こえる。
そうして――二人の目の前で、騎士は、魔物へ変わった。音と共に腕が異質に変色し、体が組み変わる。
「……マナ中毒か……!」