57 ガーディアンを産む者
訪れた場所で出会った女性に目を見開いた。
「ロ……むぐぅ!」
「こら」
少しばかり焦ったように、レイスはレピートの口を塞いだ。初めて会ったわけではない。そして、風変わりな格好をしたレピート達を、向こうも覚えてくれていたようだった。穏やかな緑の瞳が細められる。
「あらあら、貴方達」
どうぞ、と、扉の奥に案内される。
ロズの母親――ピクシーの、現時点での実力者だという女性、名をユーリと言った。
緊張した面持ちのレピートの肩を、シプロが軽く叩く。
「お話は聞いているわ。……転移術、ね…場所は王都……」
「はい。……その、やっぱり、一ついいでしょう、か」
「レピート」
咎めるようなレイスの一声に、少しだけ肩を竦めて、わかってます、と返す。興味本位で踏み込んではいけないことがある。
だから、気になっていた言葉を尋ねた。
「…≪産み手≫、って、なんですか…?」
前回、この里を訪れた時、住民は彼女を指さして≪産み手≫と言った。その意味を、未だ分かりかねている。
「ガーディアンを産む者のことを、そういうのよ」
ユーリは、レピートの質問に答える。
「本来、ガーディアンと成る者には、多大なマナが必要となるわ。正確には、コアのマナを受けても平常でいられるような、マナ操作の持ち主。ピクシーにとっても、マナの取りすぎは毒になる。コアに耐えきれるような、そんな能力を持ったヒトは、一般的には≪歌詠詞≫の力を持つ者でなければならないわ。その、≪歌詠詞≫の素質は、代々受け継がれるものなの」
「……ユーリさんは、歌詠詞の素質があるのですか?」
「ええ、そうよ。歌詠詞を引き継がせるために――子供を産んだ。そして、その子をガーディアンの為に、ピクシーの里のために、捧げたの」
それは、ティの話だ。
レピートは思う。
では、
ロズは?
(ユーリさんは、ロズの母親ではないんでしょうか…いえ、そんなこと……だって、こんなにも似ている……)
「子供は……その、ガーディアンとした、子供だけなのですか」
ぽそり、とレピートが呟くと、少しだけ、寂しそうな顔でユーリは微笑んだ。
「そうね。……その子、だけなの」
…
……
………
見張りが周ってこない内に、と、脱出を果たす。プレネスはかつての騎士団長、エンを向く。
「ここから、出れたのに。どうして……出ないの?」
「ヒトは誰しも、罪を抱えている。その罪を呑み込む方法は様々だ。……抱えて、生きるのは重い。私がここに居るのは、居なくてはならないからだよ」
そう言って、エンは穏やかに笑っていた。
エンの言った通り、上階には武器等を発見することができた。愛用の武器が戻ってきて、ロズとティがほっとしたように息を吐く。
プレネスも、そっと術式を展開してみたが、問題はないようだ。
「どうする?脱出はできたけど、このまま…コアを取りかえしに行こうか」
「目先の目的はそこね。問題は……コアが、どこにあるかよねぇ」
三人が、そう、話した時。
「あ~あ、もう、こんなときにお城の巡回なんて、やんなっちゃうわ」
声がした。
というか。
目の前に、立っていた。
あら、と、少女は目を見開く。あっちゃぁ、と、ロズは頭を抱えた。
タイミングが、悪い。
誰かが来る可能性を忘れていたわけではなかった。それでも、だ。兵士程度であれば、問題なく騙せる筈だった。
――≪グルート≫の一人、ツイッセが来るとは、誰も想定していなかったのだ。
「……あらあら、どうして、ここにいるの?」
パチリ、と、ツイッセは目を丸くして、呟いた。