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Break Childs  作者: そうしょう
9 終わりと、目覚め
54/61

54 正体

「――宝具、をご存じですかな?」

「…ほうぐ」

族長は前を歩きながら、呟いた。

「かつて、世界が創られた際、神が我々に与えた三つのもの。弓、盾、そして…剣。このうち、弓は既に失われておる」

「………」

「剣もまた、400年前、紛失した」

魔王討伐の際。

そもそも、かの聖剣――勇者が引き抜いたとされる剣は、結局のところ、どういう理由で扱えるものを選ぶのか、分かっていない。ただ、誰もが彼女を勇者と呼んだ。それだけは事実なのだ。

「盾……あの結界を構成している中心が、盾じゃ」

「あんたは、俺に何を言いたいんだ」

族長は立ち止まる。

そこには、一つの墓があった。

名が刻まれている。

「……お主に質問をする。代わりに、お主の質問を答えよう」

レイスは――ふらりと墓に近づいた。

ただ、冷ややかな瞳で墓を見下ろしている。ガラスのように全てを反射するような瞳で、その墓を、無感動に見詰めている。

「訊かせてくれ―――


・・・・・・・・・

魔王は、死んだのか」


墓に刻まれた名は、勇者と共に旅をした一人のピクシーの少女のものだった。

それは、族長の娘のものでもあった。

花が風に揺れている。急ぎ足で歩いているピクシー達とは離れた場所では、あまりにも静かだった。


レイスがややあって、厳かに言った。

 ・・

「さぁ」

そんなもの。

「何で、俺が知っていると思うんだ」

墓から目を逸らしたレイスが、答えた。その返答をきいて、たっぷり十秒ほど間を空けた後、長く、長く族長は息を吐く。

「お主の聞きたいことを答えよう」

「ティについて聞きたい」

墓から完全に背を向けたレイスが、真っ直ぐに族長を見詰めた。先程の無情な目ではない、明確な意思が瞬時に宿っている。

ティ、と、族長は口の中を転がす。

「…ああ、あの、こどもか…」

「初めて会った時、あいつはカプセルの中で眠っていた。コアを手にして、な。そもそも――コアを気が付いたら入手していた、とは聞くが、ガーディアンの件がある。まさか、あいつが…人一倍繊細に遺産を好むあいつが、コアを簡単に手にできるわけがない」

記憶喪失だから、というのもあるだろうが、如何せん、ティには謎が多すぎた。

この里に初めて来たとき、ピクシーの住民たちは、ティを通して≪ナニカ≫を見ていた。


「あの子は、ガーディアンそのものじゃよ」


族長は告げる。

レイスは僅かに目を瞠った。

「かつて、コアが王に渡った時。我々と吸血鬼は、それぞれコアを一つずつ譲り受けた。吸血鬼はコアを桜の木の下へ、奴らの手に負えなかったのだろう。人間とは違い、マナに異常に聡い生き物じゃからな。人間が作りだしたガーディアンに守らせた」

それが、あの桜の木の下。

恐らくだが、コアの影響を受けた為に、桜は異常発達してしまっているのだろう。永遠に咲く桜は、マナの影響を強く受けている。

「我々は、人間の兵器を拒んだ。よって、我々は――ガーディアンを産み出すことにしたのじゃよ」

「産み……?」

「何度か代は変わっておるがな、あの子は確かに、ピクシーの里で産まれた――才ある子。同時に、ガーディアンと成る為に、様々な処置がされておる」

「……人格改変か」

ほぼ、吐き捨てる様に言ってしまった。

ガーディアンに意思はない。どこの場を守る彼等も、ただ、コアを守るためだけの騎士である。人間の兵器を拒んだといえど、そこは避けようがないのだろう。

人格を壊され、かき混ぜられた。

でも、とレイスは眉を寄せる。

「…あいつ、二十年前の大戦を知っていたぞ」

「そうじゃ、我々は……二十年前、あの子を大戦に引き出したんじゃよ」

族長は言う。


それこそが、自分達ピクシーの罪である、と。

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