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Break Childs  作者: そうしょう
9 終わりと、目覚め
53/61

53 覆う結界


――おきろ、と、声が聞こえた。


ぱちり、目を開いたときには、茂った森が見えた。緑色が映えた風景は、どこか見覚えがある。起き上がって、小さく呻くと、心配そうなシプロの声が耳に入った。

「怪我をしたのか?大丈夫か…?」

「ふぇ、あ、大丈夫です!怪我なんてしてませんほらこの通り!!!」

「おお、元気だな」

それはよかった、と、シプロは微笑む。話をしている内に、徐々に、レピートの中で記憶が蘇った。

最後にみた、景色。

「…!ロズ、プレネス、ティ…!!」

周囲に目を走らせてみても、やはり、その姿はなかった。

何もできなかったのだ。

歯噛みするように俯いてしまったレピートを、困り顔でシプロは見下ろす。傷ついた少女に向ける言葉を、シプロは持っていないのだ。

と、そんな二人の元へ、しばし離れていた黒色の青年が顔を覗かせた。

「目覚めたか、レピート」

「師匠…」

「情けない顔してんな。三人なら、下手に殺すことはないだろ。あいつらだって国民だから、な……ここはピクシーの里の近くらしい」

向こうに集落が見えた、と、告げるレイスに、道理で見覚えがある景色だと一人納得する。ピクシーの里近くの森は、他の森と違いマナが豊かなのか、生い茂っているのだ。…それらを教えてくれたのは、ティだったか。ぐ、と息を詰まらせる。

レイスの言う通りだった。

俯く前に、できることがある。

「助けにいかないと、ですよね」

呟いたレピートに、シプロが当然の如く、「協力する」と申し出てくれた。レイスは何も言わなかった。ただ、レピートに舵を任せる。

ラックが――ぼやいた。

「…王国に、コアが全てわたってしまったみ……恐れていたことが……」

「ラック、とりかえしましょう。大丈夫です、皆を助けて、コアも取りかえして」

「なんでみ?!!なんで、なんでそんな楽観的なことが言えるんだみ!!!」

叫び声に、レピートは目を丸くする。

ラックは体を震わせて、小柄な身から考えられないような声をあげた。

「レピートたち、あの、≪グルート≫に敵わなかったみ!!なのに、取りかえす、なんて!!」

言うことは、最もだった。力不足だったことは、自分がよくわかっていた。

「でも、敵わないからといって、諦める理由にはなりません。勝率が完全にゼロパーセントではないのなら、私はそこに賭けるだけです。……きっと、皆同じことを言います」

レピートは言い紡いでから、レイスを向く。

「師匠、やっぱりロズ達は城に捕まっているんでしょ」

うか、と。

言葉が続くより早く、背筋を何かが駆け抜けた。一瞬にして鳥肌が身を包み、思わず声から悲鳴が出そうになる。一呼吸にも満たない出来事であったが、レピートが背後を振り返った時には――ソレはできていた。


大きな結界。まず、第一印象が決まる。そびえ立つ城を包み込む透明なカプセルが、光を浴びて反射している。

才能がないレピートにでさえ、直視できてしまう純度の高いマナが城を覆っていた。


「な、……んです、あれ!」

絞り出した声がひきつる。レイスがしかめっ面を浮かべながら、呟いた。

「マナ……固まり……ネオの、盾の力、か。それをコアで補強・増幅している……?」

「つまり、あれは実験を行う上での最適な結界、というわけだな」

冷や汗を拭って、シプロも推測を口にした。レピートは、実験が開始されたことを知る。

世界を、改変する。

新しく―――創りなおすともいう。

「……セト………」

「さて、どうする…あんなんじゃぁ近づけねぇな」

レイスが黒髪に手を入れながら息を吐いた。しばし考え込み、シプロは提案する。

「どうだろう、転移術で城内に侵入する、というのは。どちらにせよ、アレを止めるには……城内に直接乗り込むしかない」

「でも、転移術使えないですよ……あっ」

レピートを含めた全員が、森の奥、ピクシーの里を見詰めた。


またか、という顔をされてしまった。

衛兵の様子を思い浮かべながら、族長の部屋で茶を啜る。

レピートとしても、まさか、再度訪れることとなるとは思わなかったのだ。

「お待たせしましたな…やれ、国が何やらしでかしておるようで、我々もまた、せわしくなってきましたわ」

「お忙しい中、すみません…」

族長も、あの結界に忙しいにも拘わらず、レピートに会ってくれた。単刀直入に願いを口にする。

「城に入りたいのです。転移術を使用できる方はいませんか?」

「アレを止めにいく、と申すか」

「はい。そして、仲間を、たすけに」

レピートの眼差しを受け、族長はううむ、と唸り声を漏らす。しばし考えた後、族長がレイスを見た。

「そこの男、こちらにこい」

「………」

「コレをお主に伝えておこう。警戒など、せんくてよい。さぁ参るぞ」

しぶしぶ、と言った様子で、レイスは立ち上がる。あの、と慌てたのはレピートだった。レイスはレピートの頭に手を乗せて、何度か叩いてからシプロを見る。

レイスはそのまま、族長を追って部屋を出て行った。

シプロが、残った茶を啜り、囁く。

「隠し事程、聞きたくなるものだな、レピート」

少しばかり、子供のように笑うシプロに――レピートははにかんで、頷いた。

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