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Break Childs  作者: そうしょう
9 終わりと、目覚め
52/61

52 最後にみたのは

―拝啓、私たちの大好きな貴方へ


その手紙は、そんな前置きから始まっていた。


―目が覚めて、随分と驚いたと思う。こうして、手紙を残す私たちをどうか許して欲しい。

貴方と出会ったのは偶然だったわね。今でもよく覚えているわ。それから、沢山の場所を周った。火を吹く火山、ピクシーの里、吸血鬼の主の城、大きな桜の木。あげてみればキリがないけれど、旅をした。大変で、辛かったこともあったけれど、それ以上に楽しかった。貴方もそうだったら嬉しいな。

さて、私が手紙を書いたのは、貴方に伝えたいことがあったから。

私たちは今から、死地へ赴くようなものよ。そこに、私たちの我儘だわ、貴方を巻き込みたくなかったの。貴方は強い、才能がある。でも、だからこそ苦難の道を歩いてしまった貴方は、私たちと共に苦しみを受ける必要はない。貴方には、幸せになってほしいの。

生きていて欲しいの。

どうか、忘れないで。貴方は一人じゃない。


どうか、忘れないで。

私たちは貴方を愛していた。


―敬具、マインと、その他仲間より


綴られた文字の羅列を、ゆっくりと、指でなぞる。何度も何度も読み返してしまった名残だ。皺くちゃになった紙を、また、握りしめた。

雨音が、聞こえる。


小屋の中には、少年が一人、他は誰もいない。


かつて、勇者一行は世界を救った。

幼い少年が一人、謁見の間に現れ、コアを手に告げた。

【魔王は、死んだ】


400年も昔の事だ。

幾つかの偽りを抱えながら、今も尚、童話のごとく、語り継がれる物語。


誰も知らない。

その日、一人の少年が壊れて死んだ。


……

………


ざぁ、と耳元を風が撫でる。コアを手にして、姫王を守る四核、≪グルート≫のネオは息を吐いた。

鬱陶しいように、言い紡ぐ。

「全く、手間をかけさせる……おい」

合図を出すと、茂みから甲冑の音がいくつも響く。囲まれているのだと認識するのには、そう時間はいらなかった。

まずいネ、と小さくティが舌を打つ。

「さっきの戦闘でマナが空っポ」

「…休憩ぐらいさせなさいよね」

同じように、プレネスが呟く。先程の戦闘が、やはり心身共に影響を及ぼしていた。

「抵抗はするな」

「………、かげん、に」

ネオの足元で、おもぐるしく、声が響いた。

瞬間、風のマナがネオに襲い掛かる。

「効かないぞ、俺の盾には…!」

「だから?」

髪を乱しながら、ロズは低姿勢のまま唇の端で笑みを浮かべると、手放したレイピアを手中に戻した。一瞬だけ、プレネスと目が合う。プレネスは「…仕方ないわね」、と、小さく呟いた。

「ティ、残ってくれる?」

「おや、ぼくをご指名?いいヨ、構わない」

「プレネス…?」

訝しげな声を出すレピートのスカーフを、レイスが引く。シプロも困惑気に眉を寄せていたが、ティにそれとなく背中を押され、レピートに押し付けられた。

プレネスが微笑む。

「ちょっと別行動ね。大丈夫よ、死んだりしないわ」

「……?!何いって、何するんです?!」

魔法陣が浮かび上がる。光と共に、レイス、シプロ、レピートを包み込む。ティがラックをレピートに投げつけた。強まる光に、ネオが光の弓矢を発動させ――瞬間、ロズが切り払う。

「――チッ、邪魔だぞ!」

「何だよ、踊れよ!」

いつもの誘い文句を口にして、ロズは瞳に戦意を宿す。少しの攻防の間に、プレネスの術は完成していた。


転移術。


――全員分を移動させるほどの力は残っていない。だとするのなら、誰を脱出させるのが適任か。

光の向こうで、プレネスが手を振り、ティが安心させるように笑い――紐を纏わせる。レピートが最後に見えたのは、そんな防戦一方の疲弊した三人に迫りくる、騎士団の軍勢だった。

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