49 桜の元で誓うこと
桜が散っている。
薄紫の瞳を丸くして、レピートは息を呑んだ。
「……!!」
巨木が、あった。
まるで、空を覆ってしまうかのように美しく咲いた桜の花。満開に咲き誇った桜がレピート達を包み込んでいた。さすがのレイスも、これには「ほう」と声を漏らす。言葉が出ない。
圧倒された、圧巻な風景だ。
「す、すごいです…こんな……」
「これが……≪生命の樹≫」
「せいめい…?」
シプロが頷く。
一歩前に進んで、見上げながら目を細めた。
「永久に咲き続ける――そこから、≪生命の樹≫と呼ばれるようになったようだ。見るのは私も初めてだが」
「お花見したら楽しそうです……」
ぽつり、とレピートが呟けば、後ろでレイスが息を吐く。次いでレイスが続けようとした言葉を、ロズが「まぁまぁ」と遮って、レピートの肩に積もった桜を払った。
「もう少し落ち着いたら皆で、ね」
「そのときはあたしも頑張ってお弁当作っちゃおうかしらね。シプロも作るでしょう?」
「えっ…!?あ、え……私もか……」
ぎょっとして振り返るシプロが、あまりにも慌てたように眉を寄せる様子にプレネスが笑った。ティも微笑んで、レピートを見詰める。
「そのときは…ぜひ、ぼくも呼んでネ」
「当然ですよ!皆でやりましょう!」
「ラックもみ?」
「はい、ラックもです!」
桜が、舞う。
桜の命は短い故に、儚いがために美しいと称する者が居る。永遠咲き続ける花は、果たして美しいと言えるのだろうか。
ただ、咲き続けるだけ。
長く、生き続けるだけ。
けれど、その意味はある。満面に笑みを浮かべる一人の少女を、喜ばせることができる。きっと、それだけでも意味になる。
「師匠も、お花見楽しみですよね…!」
そうして、少女は青年に笑みを向けた。
レイスは、眩しくて、桜に染まる少女と目を細めながらも合わせる。
「……そうだな、いつか」
いつの日か。
コアの気配がある。ラックがふわりと浮いて、ぺたりと地面に足をついた。
「この下、何かあるみ…」
…
……
………
短剣の柄で削ってみれば、土が上からかけられていることに気が付いた。長年、開かれていないのだろう。固められてしまった部分はティが水を呼び、ロズが風で削り取る。やがて、奥に続く階段が見えた。
「…待ってください、これ、地下…!?」
「遺跡みたいに繋がっているのかしら…」
レピートが覗き込み、同じように隣で腕を組んで見守っていたプレネスが小首を傾げる。
と。
「遺跡……?!古代の物?!しかも、隠されタ?!!」
「うっわぁ……」
食いついたティが、他の面々を押し退けるようにして早々に足を踏み入れる。咄嗟にレピートは「危ないですよ!」と声をあげるも、「大丈夫だいじょぶ!」などと呑気な声が奥から反響した。ためらいもなく地下へ進むティの姿に、ロズは若干うんざり気に呟く。
「ああいうのって、何ていうんだっけ…遺跡マニア…?」
「と、とりあえず…ティ一人にするのは危険です、私たちも行きましょう…!」
レピートの言葉に、若干気後れしながらも一行は頷いた。