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Break Childs  作者: そうしょう
8 道行く仲間と最後のコア
46/61

46 母親


屋敷を出て、外へ向かう。聞き出した桜の居場所は分からないが、それ以上の情報を聞き出せそうになかった。ならば、外で待っているであろう二人の知識を頼るべきだ。彼等も旅をしてきた二人であるし、何か知っているかもしれない。桜の木の下、あまりにも範囲が広い内容ではあるが、とレピートは顔を曇らせる。

らしくなく、考えていたからだろう、前から女性が歩いてくるのに気付かなかった。

「わっ、すみません!」

「!ごめんなさい、私も気づかなくて……大丈夫?怪我はない?」

ピクシーの女性が眉を下げ、レピートを慌てて気遣うように膝を曲げる。薄らと化粧がされた端正な顔立ち、若草色の瞳と目が合う。背中を流れる長い薄金が視界の隅で揺れた。

「怪我はないです!私こそ、ぼーっとしてしまって」

「いいの、私もぼーっとしてしまって…ごめんなさいね」

怪我がないことを告げると、ほっとしたように女性は歩き去っていく。綺麗な人だったなぁと思っていると、街人が囁く声が耳に入った。

「≪産み手≫が出歩いているぞ。族長にでも呼ばれたのか?」

「珍しいな……≪産み手≫、ガーディアンの子を産んでから長い事部屋に引き籠っていただろうに」

(産み手……?ガーディアン……?)

女性の背中を見る。

緑の瞳、薄い金の髪。


――ここ、帰りたくないな、って。


この森を入る前、蘇った声を思い出して、あ、とレピートは女性を呼び止めていた。やや後方を歩いていたシプロが「レピート!?」と訝しげな声をあげる。

女性の背中に飛びつくように近づいて、正面に回った。

「あ、の!もしかして、貴方…」

「レピート、何してんだ……行くぞ」

「ふぇっ」

更に後方。レイスがレピートの言葉を遮り、腕を引く。困惑気な女性を他所に、レピートを掴んだまま、レイスは二人の元へ戻った。どうして、と尋ねるような目を向ければ、レイスは小声で囁く。

「ロズの母親とは限らない。…それに、あいつは、もしかしたらこれを知ってて入らなかったかもしれない」

「え、でも…家族、ですよね…?」

「あいつは、孤児だろう」

そこでようやく、レピートも気づいた。レイスの言わんとしていること。ロズは、一人ぼっちで生きていた。

それが一体、何を意味しているのか。

女性は族長の屋敷へ歩き去る。その背中に、入口でロズに何も言えなかったように、再度声を掛けることもできないまま見送ることしかできなかった。


里を出て暫く歩いた先、暇を持て余したようにトランプをする二人の姿があった。

トランプ。

「魔術でつくってるー!!!」

「あ、おかえり」

思わずレピートが叫ぶと、プレネスはロズの手からトランプを引き抜く。そこで顔を顰めた。ババが当たったらしい。

魔術で丁寧に創られたトランプに感心したように、シプロは「良く出来ているな…」とぼやいた。その表情は至極真面目である。戻ってきたことにより、プレネスは術を消して、ロズは服を叩きながら立ち上がった。

「何か収穫はあった?」

ロズとプレネスに、族長との会話を伝える。うんうんと頷いていたプレネスが「桜…」と首を傾げた。

「知っています?」

「……吸血鬼のもの……確か、雲の上へ行く時に、上からでも分かるほどの巨木があったのは覚えているわ。それかもしれない。場所は……正確な位置はわからないけれど、ここから歩けばそれなりの距離があると思うけれど」

「…行ってみる価値はありそうだな」

レイスが同意する中、ロズに告げなかった女性の存在を考える。言った方がいいのか、それとも。先程のレイスの言葉を思い出して、悩む。そんなレピートに、ロズが眉を下げた。

「どうかした、レピート?」

(――ああ、でも、凄く…そっくり、です)

「……何でも、ないです」


嘘は苦手だ。

難しいことは、考えたくはない。

それでも、伝えてはいけないことも、伝えて、分かってもらえないことがあることも、レピートは知ったから。


里を離れ、歩き出す中で、もう一つの違和感を思い出した。咄嗟に後方を見るが、森の奥に消えた里の存在は認識できない。

そうだ。

ガーディアン。


ティと出会った遺跡。あそこに、コアがあった確信はない。眠りについていたティがずっと持っていたコア。

(……あそこには、ガーディアンは居ませんでした……)

ティがコアをどこかで得たのか。

それ以上の疑問を、レピートは考え込むことはできなかった。

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