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Break Childs  作者: そうしょう
8 道行く仲間と最後のコア
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45 ピクシーの里

思い出せない記憶が幾つかある。その記憶が空白なのが、消えてしまったからなのか、それとも、

元から、無かったのか。


それさえも、分からない。


歌が聞こえるのだ。ずっと、聞こえるように、途絶えることがないように。この世界全てを包み込む歌だ。この歌があるから、世界は守られているように。

歌をずっと、胸に抱いている。


……

………


ピクシーの里は、森の奥深くにある。近づくためには、茂みの強い魔物の森を抜けていくしかない。段々と霧も濃くなる中で、ようやくピクシーの里が見えた時、プレネスが立ち止まった。

両の腕を組み、小さく囁く。

「あたし、この先は行けないわ」

「…ピクシーの里、だものね」

吸血鬼とピクシーの隔たりは、未だ深い。魔力の差異に敏感なピクシー等には、すぐに気付かれてしまうだろう。となれば、外で待っているのが得策である。

しばし考え込んだロズが口を開いた。

「僕も残ろうかな」

「気遣って残ってくれなくてもいいのよ」

対して、肩を竦めるプレネスに、違うと頭を振るロズが、茂った森を見回して、ぽそりと言い捨てた。

複雑な感情を宿して。

「ここ、帰りたくないな、って」

「かえ………えっ、ロズの故郷ですかっ?!」

「え?別に不思議じゃないでしょ?」

ロズがレピートに笑いかける。

ピクシーは各所に場所を置いてはいるが、基本、現と関わりたくないものも多い。特にそれが、戦争を終えてからはより顕著になった。半分とはいえど、ピクシーの血を持つロズがここで産まれたとしてもおかしくはないだろう。ロズは端的にそう言うが早いか、近くの株に腰を下してしまった。

「行っておいで、皆」

動く気を微塵も見せないその姿に、レピートが口を挟める筈もなかった。


レピート達の姿が見えなくなって、プレネスがロズを向く。

「故郷で、帰りたくない。追及しないのは、優しさかしらね」

「……女々しい男だという?」

「今更じゃない」

「手厳しい」

苦笑を滲ませ、ロズは息を吐いた。故郷、と、口にはしたが。


「……ここを故郷だなんて思ったこと、一度もないよ」


それに対して、プレネスは何も言わない。プレネスにとっての故郷は、雲の上、吸血鬼の城だ。シプロにとっては王都だろう。ティは、記憶喪失だというが、恐らくピクシーの里か。レピートの故郷も、訊いたことは無いが、恐らく近くに在ったと言う村辺りだろう。

ふ、と思う。

寡黙な黒髪の術士――レイスにとっての、故郷とはどこなのだろう。


……

………


入口へ近づくと、甲冑を見に付けた騎士の容貌なピクシーが槍を構えた。咄嗟に身構えそうになるものの、自分達が敵でないことを証明しなければならないと改め直す。

「何者だ」

「旅の者です。族長にお会いしたいのですが」

訝しげな様子で、騎士の男がティを見る。しばし考えたのち、「待っていろ」と言い捨てて、里の中へ入っていった。やや違和感を覚えたレピートは、ティにこそりと尋ねる。

「ティはこの里出身ではないのですか?」

「…そうみたい?ううん……所々記憶が抜けてて」

ああ、そうかと納得する。ティの記憶は所々穴がある。無理もないだろう、20年、眠り続けていた時間は短くはない。しばし待った後、奥から戻ってきた騎士がレピート達に言った。

「お会いなさるそうだ。入れ」


族長の家は、更に奥の屋敷だった。

ピクシーの寿命は長い。人の倍生きるピクシーは、成長速度も人間とは比較できない。族長は老人の装いをしており、そこに居るだけでも貫録があった。かなりの長生きで、なおかつ、強力な魔力を宿していることが感じ取れる程だ。

…と、レピートはティから聞いた。生憎と、マナの微々は相変わらず分からない。どうやらシプロもそう得意ではないようで、これは最早体質の問題なのだと思う。

「どのような要件ですかな」

「早速ですが、お聞きしたいことがあります」

開口一番ティが声を張る。ティを見やって、族長は「何でしょう」と促した。ティの目を受け、レピートは拙いながら、コアを探していること、ここいらで見かけはしなかったかと尋ねる。それでも、レピートの足りない言葉を付け足すようにシプロやティが口を挟む。やがて、族長は理解したように頷いた。

「事情は大体理解できました。……コア、確かに我々は一時、所持していた」

「一時…?」

頷き、族長はティを見る。

ふ、とティは何らかの既視感を覚えた。ノイズ混じりの声が微かに聞こえるような気がしたが、見回しても何もない。

「そもそも、コアとは王家が勇者一行から譲り受けた物、というのはご存知でしょう」

「はいっ、ええっと、コアを手にした勇者一行が……魔王討伐後に、王様に全て、お渡しして……それで、五つの場所に、五つのガーディアンによって守られている…いた、んですよね」

覚えた知識を手繰り寄せながらレピートは呟く。それが、書の記録だ。

「だが、我々とて、それは不公平と物言いした。人ばかりが力を持つということを、危惧したのだ。よって、我々は一つのコアを貰い、吸血鬼にも一つのコアを与え、三つを箇所に埋めた。吸血鬼は、大戦の際に、雲の上へ行くと同時に――コアを埋めてしまった。」

「コアの力が強大すぎたせいか。吸血鬼たちにとっては持て余していたのかもしれないな…」

シプロが思案する。強すぎる力は身を滅ぼす。左様、と頷いて、族長は続ける。

「我々が所持していたコアは青だ」

「……これ、のこと」

ティは自らが持つ青いコアを見詰めた。

五つの場所を守る、ガーディアン。レピートは引っ掛かりを覚えたが、それをうまく言葉にできずに小さく唸る。どうした、とシプロが首を傾げた。

「ガーディアン……コアを守るガーディアン自体は、どこにもいるのですよね…」

「そうじゃ。コアは強力だ――故に、我々もガーディアンを与えた。結局は、持てあましていたのだ」

「んん…?」

違和感を、言葉にできずに首を傾げる。そんなレピートを他所に、ティが口を開いた。

「じゃあ、ピクシーの族長にも、他のコアの居場所はわからないのですか」

「……桜の木の下を探してみよ。それが最後の一つなのかは定かではないが、吸血鬼が埋めたものが在る筈じゃ。儂から言えるのは、この程度」


屋敷の入り口まで送ってくれた族長に礼を述べ、扉を潜っていく。始終口を開かなかったレイスの背に、族長が口を開いた。

「もし、そこの術士よ」

軽く、レイスは目を向ける。赤く光を宿す瞳が、族長と交わる。その色を見詰めながら、族長は首を振った。

「…なんでもありませぬ。人違いじゃった」

「………」

結局、口を開かないまま、レイスもまた扉を潜った。

賑やかな客人が過ぎた後、一人、魔王がこの世を支配していた時代から生きていた族長は呟いた。


「……もう400年が経つ。アレはただの人間じゃった。…そ奴が、生きている筈など」

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