44 進むべき道
レイスはレピートとシプロの様子を一度、窺ってからふいと視線を逸らした。代わりに、「ラック」と声をあげる。ラックはふよふよと浮きながら、ティのバックから解放された体を解していた。
「何み?」
「王城にコアの気配はあったか?」
ラックは頷く。気落ちしたように見えるのは、恐らくコアを感じ取りながら何もできなかった口惜しさのせいだろう。
「…感じたのは二つ、み。一つは………黄色。もう一つは、多分…赤だみ」
黄色と、赤。
黄色のコアは、式神使いリースが得たものに間違いないだろう。赤のコアも渡っていたのか。ティが持っていた青のコア、そして今、レイスの手元に在る白のコア。
―――残るは、一つ。
「今は脱出が優先…わかっているみ……でも、あんなに近くにあったのに…」
「先に最後の一つを手に入れるのが得策だな。……奪い取るには骨が折れそうだ」
あの四人。
つまりは、≪グルート≫と呼ばれる存在。
――誰も彼もが隙がなかった。
再度歩き出しながら、ロズはレピートに尋ねた。
「レピート。…これから、どうしたい?」
「私、やっぱりちゃんと、セトと向き合いたいんです。だから、コアを探します。そうすれば、いずれにせよセトと対面しなくてはならない筈ですから!」
元気に応えるレピートに、やや目を見張って、ロズは頷いた。
しばし考え込むように歩いていたティが提案する。
「…ピクシーの里に行ってみない?ピクシーはヒトよりも長寿だし…コアについて、何か知っているかも」
「え、場所わかるんです」
か、と言いかけたレピートの前を歩いているシプロが立ち止まる。そのまま背中にぶつかり、呻き声を漏らすレピート。
状況を把握できないレピートを他所に、他の面々は身構える。
――足音が近づいてくる。
レピートも、その音に気付いた瞬間―――ゆっくりと近づいていた足音が途絶えた。途端、シプロが目にも留まらぬ速さで抜刀する。
耳鳴りな金属音が鳴り響いた時には、シプロの剣と巨大な大鎌が激しい音を立てて衝突していた。
「―――くっ!」
「やはり!シプロ、お前ならこの道を使うと思ったよ!!!」
一際強い音が響いて、男は距離を取り、大鎌を軽々と回して背中に背負った。
シプロは手で制し、険しい目つきで男を睨み付けた。
「……ウルア、そこを退け。でないと」
「斬る、か?――ははっ、【元】騎士団団長さんが偉く殺気立つ言い方するねぇ?」
騎士団団長。
ロズが目を見開く。そうか、と納得したように頷いた。
「……どこかで聞いたことがある名だと思えば。先代が亡くなったと同時に騎士団団長は入れ替わった。でも、一年でまた代わった……って」
「――あの頃は、騎士団を率いて、民を、王を守ることが使命だと思っていた……だが、今は違う」
レピートの瞳に、シプロの背中が映った。
女性であるから、いつも見てきたレイスの背中より幾分か幼い。それでも。
何とも頼もしく、確固として立ち続ける姿が。
「この≪剣≫が、最早今のかの方に仕えるべきではないと言っている!ウルア、もう一度言う、そこを退け!」
「だから……退かない、って……俺らにとって、あの方が全てなんだ!!」
吠えるようにウルアが叫ぶと同時に、鎌の風圧が視界を覆った。ぐ、と息を呑み、鎌の矛先を目に焼き付ける。煙が払われたその時には、既にシプロとウルアが刃を交錯させていた。
鳴り響く金属音。
じり、と足を後退させて、ティが呟く。
「こんなん、入り込むスキもなイ…」
「…正に≪剣≫と≪剣≫の打ち合いね。レイス、脱出経路確保できそう?」
ちらり、とレイスは後方を窺う。それから、前方。斬撃の間をすり抜けていくことは―――まぁ、不可能か。
肩を竦めて、レイスは指さした。
「ウルアの動きを止めるのが手っ取り早い」
言い放った言葉に、全員は嘆息して「そうなるよなぁ」と各々がぼやいた。
だが、勝負というものは長く続かない。
一瞬の隙。それはどれほど小さいものか。ウルアの躊躇いの刃が、シプロの刃を受けきれずに振り払われた。
刃がウルアの首筋に叩きつけられる。持ち手の部分で強く穿たれたウルアの体がぐらりと傾げ、だが意識を保っているのか、鎌を支えに身を起こす。
「――レピート、走るぞ」
「ふぇっ、あ、はい!」
レイスに手を掴まれ、レピートは息を呑む。すぐにプレネス達も走り出し、シプロも剣を収め、身を翻す。
ウルアは見詰めていた。
シプロをただ、執拗に、憎しみに満ち溢れた色を宿して。
「ふざけるな……トドメさしていかないのか……裏切り者………!!」
そちらを振り向くことなく、シプロは息を吸い込む。
「……お前は、あの方に必要だから」
走り去っていくその背に、ウルアは呻いた。呻きながら、振り絞るような声が喉の奥から迸っていく。
「お前が………お前が言うのかぁ、お前が言うのかぁあああ、あああああ………っ…!!!」
反響していく声が響いても、シプロが振り向くことはなかった。
…
……
………
「本当に外に繋がっていたのね」
ほ、としたようにプレネスが、日差しを眩しそうに見上げた。衛兵もおらず、街道が続いているようだ。
最後に抜け出たシプロが踵を鳴らす。
「……黙っていたわけではなかったんだ」
「騎士団団長…だったこと、ですか?」
レピートの言葉に、コクリと頷く。
「頼みがある。私を、貴方方の旅に加えさせてはくれないだろうか」
「……シプロさんの目的は、セトを…止める事、ですか?」
仄かに微笑みを湛えて、シプロは首を横に振った。
「いいや……私の願いは、セトを救うことだ。あの子を、…か弱くて、優しくて、全てを抱えようとするあの子を。真実を知り、あの子を守りたい。騎士団ではない。私は―――私も、国を変えたいのだ」
「だったら、やっぱり目的は一緒です」
手を差しだしたレピートの顔をシプロは見下ろす。頬を上気したように染めて、少女は笑う。
「一緒に行きましょう」
暖かいその掌を、かつて騎士団長と呼ばれた彼女は、強く握り返した。




