42 救け
突然飛び出してきた五人の姿に驚いたように騎士がたじろぐのを、理解が早く武器を構えた者のみティが打ち払い、駆け抜けていく。抱えながら走るのは苦しいかと、ロズが迷っていると、レピートは「おろしてください」と声をあげた。一瞬だけ考え込み、ロズはレピートを下した。
「城を出て…街まで行けば向こうも手は出せないでしょ…!」
少なくとも、彼らは街人を傷つけようとは思っていない筈だ。
プレネスの言葉に同意しながら走り抜け―――待ってください、と声をあげたのはレピートだった。
「わ、…私、まだ、セトと!!」
「レピート……今は逃げるのが先だヨ」
ロズにおろして貰って、レピートはぐっと拳を握りしめている。
レイスは髪の毛を掻きながら、何も言わなかった。
「…急ごう、すぐに追ってくる」
「―――なぁにこの騒ぎ?」
前から聞こえてきた声に、息を呑む。
聞き覚えがある声は不愉快そうにこちらを睨み付けて、そこに立っていた。
「……ツイッセ」
「ごきげんよう、憎き吸血鬼め。私が席を外している間に―――随分と色々やってくれちゃっているみたいじゃない?」
≪グルート≫四核の内、最後の一人―――ツイッセが鞭を掌に乗せた。
戦うしかない。
覚悟を決めて、ロズがプレネスを守るように立ってレイピアを引き抜く。レピートはレイスの服を掴んだ。
「私………師匠っ、私!!」
「レピート……」
縋りつくような小さな手は揺れ動いていた。レイスは息を吐いて、彼女を下げさせる。
その様子に、プレネスが場を離れたからだろう――術式を展開させながら、レイスに言った。
「巻き込まれないようにしなさいね」
「…分かってる」
「―――とりあえず、吸血鬼から―――」
ツイッセが宣誓しながら、鞭を振り上げようとした。
「やらせないさ」
ソレは、まるで風のように鋭く、なおかつ素早く、ツイッセの背後を取ると同時に峰に当たる部分を鞘で打ち払った。ツイッセが愕然としたように目を見開き、体をくの字に曲げさせる。
しかし、彼女の意地があったのだろう―――魔術を解き放ち、氷の礫が吹き荒れた。翻弄する間にツイッセは腹を抑えながら距離を取る。
「~~~っのぉ…!!」
「すまないが―――少し眠っていてくれ」
声が言い終わるより早く、一閃が抜き放たれ、ツイッセに叩きつけられた。圧倒的なまでの速さと重みに、ツイッセは壁に体を打ち付け、そのまま床に蹲る。
現れた人物は一同を―――レイスとレピートを見て、叫んだ。
「こちらに!避難用の下水道がある。外に繋がっているんだ―――ウルア達に追われる前に!」
「…シプロ」
金髪の騎士、シプロは一刀の刃を収めながら、レイス達に道を示した。
…
……
………
拘束術を解き、トントンと肩に鎌を乗せたウルアは自らの王を見上げた。
「…どーして止めたんですかぁ」
不満げに口答えをするウルアに、やや眉を寄せてセトは言い放つ。
「殺してどうするのです。確保をせよ―――との命でしょう」
「あー…」
納得した、そう言い捨てて、逃した獲物を追う為に歩きはじめる。優雅に礼をしながら、ネオもまた身を翻そうとした。
「ネオ」
「…はっ」
セトは玉座に腰を下して、重鎮の名を呼ぶ。
「コアの捜索を、急いで。…誰にも譲れないわ」
「…かしこまりました。ブローカーの件は」
「リースとツイッセに頼みます。だから―――前線に出なさい、私の≪盾≫」
鋭利で冷たさを伴った少女の声が、ただ空気を凍てつかせるように響き渡った。