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Break Childs  作者: そうしょう
7 相容れぬ二つの理想
40/61

40 対面

門前は人も少なく、存外早く王の元に通された。

礼儀作法には詳しくはなかったが、控えの青年が「好きにしてくれればいい」と一言告げてくれたので、倣うことにする。彼を見て、ロズが囁いた。

「…彼が≪グルート≫の一人、ネオ。…斜め向こうにいるのが同じく≪グルート≫、騎士団団長ウルアだ。王座の後ろに居るのが…先代から仕えている大臣、名は何と言ったか忘れてしまったけれど…」

「ツイッセは居ない…みたいね。」

プレネスの言葉に、レピートも視線だけで探してみたが、それらしき姿は見当たらなかった。

どれほど時間が経っただろうか。


「―――王を連れてまいりました」


ぴくり、と、ティが肩を強張らせる。レピートも思わず声が出そうになって、慌てて飲み下した。

――札を使う、あの、コアを奪っていった青年。

(グルートが三人、ですか…!!)

何よりも、この城の中にグルートが揃っている事実が冷や汗を浮かばせた。青年はレピートとレイスに気付いたのだろう――やや目を瞠ったが、何も言わず、そのままキングチェアの横で足を止めた。


――開かれた背後のドアから、足音が響く。

力強く、踏みしめてこちらに向かってくる足音。レピートは緊張を隠せず、ぐっと息を詰めた。国の王だ。緊張するなという方が無理な話でもある。足音は近づいて、そのまま―――


「…え?」


一瞬、呼吸を忘れてしまった。

視界を金色の髪が揺れ動く。美しく手入れされた髪を目で追うようにしてから、レピートはその姿が王座に着くのを見届けた。

姿を捉えたロズもまた、愕然とした表情で息を呑んでいる。いいや、この場の誰もが知らなかったのだ。

ファレスト国王は、先代が病でこの世を去った後、子が後を継いだ。二年前の事だ。


王は足を揃え、優雅に王座に腰を沈めた。


鋭利な瞳が目元のレピート達を見詰め、視界の中に捉えこむ。


「―――ファレスト国、現国王女、セト・ルーン・ファレストと申します。遥々この地へようこそ、旅人よ」


「セト………?」


引きつった声がレピートの喉元から絞り出された。

強い意思が籠った青色の双眼。肩には赤い衣が纏われ、か細い体を覆っている。膝下まである長く膨らむスカートの下には、金色が目立つブーツで覆われている。

服装は違えど。

見間違えようもない美しい金髪も―――セトだとレピートに訴えかけていた。

「まさか、現国王が…女だったなんて」

知らなかった、と、ロズはぼやく。盲点だったと言ってもいい。性別など気にも掛けていなかった。

今この国は、少女の―――まだ年端もいかない少女によって治められていたのだ。

「なんでですか、…え?セトが…王女…?王様…?」

「控えろ、王の御前だぞ」

一歩踏み出したレピートに鋭い声が降りかかる。王はそれを目で制し、レピートを見詰め――――逸らした。

(なんで)


真実を知るために来た。

もしかしたら、この国の王は世界を改革しようとしている――コアの力で国を変えようとしているのかもしれないと、伝えられたからだ。


「直球に聞かせて欲しイ。貴方達はコアを以ってして、何をしようとしていル?」

「ティ」

ティの言葉に驚いて、プレネスが鋭く叫ぶ。直球にしても、直球すぎる。ぴくりとグルートを含めた面々が反応したのが分かった。壇上の少女――国王セトはゆっくりと瞬きをしている。

揺るがない。

「…要件は早く済まさせた方がよさそうダ。レピートが」

「……迷ってる」

後ろの方に控えていたレイスがティの言葉を継ぐ。

すると、セトがよく通る澄んだ声で口を開いた。

「…なるほど。貴方方は、コアを求めていらっしゃるのでしょうか」

「その言い方だと間違っていまス。…我々は、貴方方が世界を変える為にコアを得ようとしていると聞いた。それが事実か知るために、今、ここに居るのでス。コアは膨大なマナの塊…使用すれば、地殻変動どころではなイ」

ティの言葉を受けて、セトは冷静に答えた。

「確かに、我々はコアの力を得て世界を変えようとしています。」

「…っ!」

レピートはぐっと拳を握りしめる。

「この世界は今、滅びの道へ向かいつつある。かつての大戦の際、世界はマナの均衡を崩しました。ピクシーと吸血鬼、マナのぶつかり合いにより……その為、この国は、世界は、不安定な地へ成りつつある。世界は滅びに行く」

「そのために、コアを使用し地殻変動が起きてもいい、と?」

「必要なことなのです。世界を統べる王が欲しいように―――世界を守る楔もまた、必要となる。コアを全て集め、膨大なマナを依代に≪世界神≫を卸します。世界を守るためにはこれしか方法はないのです」

ロズに対し、冷たく言い放つセト。世界神、という聞き慣れぬ単語に眉を寄せた。


だが、何にせよ。

コアを用い、世界改変を目論んでいることへの肯定は明らかだった。


ティは言うべきことを言った、とでもいうように――レピートへ目線を向ける。レピートはその視線を受けて、眉根を寄せた。

言いたいことはあるはずだ。

言葉が出てこない。何を言うんだったか。何を言いたいのだったか。

答えをしった、肯定を知った、どうする?彼女達が国を変えるという。その為には地殻変動が起きるかもしれない。どれだけの犠牲者が出ることか。加えて、マナが膨大に膨らむことによりマナ中毒が多量に発生するのも明らかだ。ダメだ、良くないことだ、してはいけないことだ。

言いたいことが沢山あるのに。


(―――言葉が、でてこない)


頭の中が、真っ白だった。


「…聞きたいことはそれだけですか?なら―――」


「レピート、お前は何のためにココにきた」


セトの。

国の王の言葉を切り裂いて―――レイスの真っ直ぐな声がレピートの耳に届いた。


何の為に来た。

マナ中毒によって、魔物が産まれた。彼等は人を傷つけて、悲しませた。寂しいことだ。苦しいことだ。

何の為に来た。


言いたいことは、何だ。


「―――私は真実を知るために来たんです」


真実を知って。

レピートは菫色の瞳を真っ直ぐにセトに向けた。ぶつかり交わる、紫と青。


「貴方は間違っています」


――自分の答えを。

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