38 友達
慌ててレピート達が戻った時には、既に炎も消化されだしており、通行禁止を掲げる兵が溢れていた。うぐ、とレピートは顔をゆがめる。
――目立つなよ、みたいなこと言ってましたよね…。
師の言葉を思い出し、レピートは足を止めた。
「すみません、私、用事を思い出してしまって!……あのっ、セト、火の中に向かうんですか…?」
セトは振り向く。
赤赤と照らされているように、金の髪が煌めいていて―――美しかった。
「近づけるところまで、行きたいの。どれだけ、被害が出ているのか…民に痛みがないか………この目で見ないと、分からないから…」
「………セトは、本当に、本当に………この国が大好きなんですね」
「そう…そうだね。うん、大好きだ。私は見ていたい。この目で、真を見ていたいんだ」
「!私も、私もです……っセト、私たち、きっといい友達になれます……!いいえ、友達です!」
セトが目を丸くする。それから、頬に赤みを膨らませた。ともだち、と反復するのを見て、レピートは力強く頷く。
「だから、また会いましょう!」
「………ええ」
セトに背を向け、レピートは足取りも軽く、駆け出した。
茶色の髪を見送って、セトはゆっくりと息を吸い込む。
そして彼女もまた、毅然とした瞳で炎の向こうへ足を踏み入れた。
…
……
………
日が傾いている。レピートが宿屋に向かうと、何やら外で退屈そうにしているティとレイスが居た。
「あ、レピートお帰りなさイ」
「ただいまです!…そういえば爆発!大丈夫でした?!」
「全然大丈夫だったヨー」
それはなにより、と、心の中で胸をなでおろし―――さて、どうして外に居るのだろうと小首を傾げる。質問に答えたのは、欠伸を噛みしめるレイスだった。
「部屋でロズが説教中」
「…ふぇ?」
訝しく思いながらも部屋へ向かう。部屋は三人部屋だ。村の人が手配をしてくれたため、何とか一部屋は借りることができて、宿の人が余っている布団を出してくれることになっている。祭りの為、宿がないのも仕方ないと思っていたのだからありがたく思う。レピートは部屋のドアをそぅっと開いて、隙間から覗いた。
「飲みすぎ」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない………」
「怒ってるよ」
いつの間にか昇ってきていた外の二人は、まだやってるのかと顔色を変える。どうやらかれこれ20分はこの状態だと言う。
そこで、レイスが扉を押し退けた。
「いい加減にしてやれ、レピートも帰って来たぞ」
「…もうっ今日限りだからね」
「はぁーい………」
散乱した酒瓶。そこから何となく察し、レピートからも苦笑いが零れた。
ふと思い出したように、レイスがレピートを見下ろして問いかけた。
「…楽しかったか?」
一呼吸の後、レピートは大きく頷いた。
「はいっ!お友達ができました!!」
満面の笑みを浮かべるレピートに、レイスは驚いたように何度か瞬きをしたが、良かったな、と言ってくれた。
…
……
………
―――晩、玉座の間にて。
「…≪ブローカー≫が爆弾を設置、広間の爆発はそのため………か。」
青年が呟く。
貴族の風を装った青年だった。短く肩口で切りそろえられた髪に小さいシルクハットが括り付けられている。鋭利に尖った瞳と、右の瞳の下には色っぽく泣きほくろがあった。
「リース。その少女は、国に反する…といったんだな。狼煙、と。」
「確かに。…やはり放ってはおけない集団だ。≪ブローカー≫…」
白髪の青年――リースは考え込むように呟く。
結局、今日の炎は止めることは出来たものの、ほぼ大混乱のまま祭りが終わってしまったといってもいい。狼煙にしては随分と派手だが―――派手で良いのだろう。
自分達が居ること――国家に反する者が居ることの証。
「……忌々しい」
吐き捨てる青年に、リースは呼びかけた。
「ネオ、ツイッセはどうした」
「明日の朝には到着すると言っていた。…この事態だからな。コアの優先はもちろん、≪ブローカー≫対策へ兵を分けねばならん」
あと一人は、と続けようとした瞬間、聞き慣れた声に、反射的に顔を顰めた。
扉を潜ってきたのは細身の男だった。重そうに――死神が持つような鎌を携えている。
「は~~相変わらず迷った迷った………」
「方向音痴め…よく戻ってこれたな」
毒づくネオを流し、鎌の青年は――否、騎士団団長、ウルアは笑った。
本来、≪グルート≫は一か所に集うことは少ない。
彼等も彼等としての目的を命じられており、各方面に散らばることが多いのだ。
故に、今回は異例と言ってもいい。
「それでは、王。…一人足りませんが、これより会議を始めましょう」
壇上の王は、身に着けた衣を振り払い、立ち上がった。