35 秘密の丘
セトと共に道を歩いていく。賑やかすぎる街並みは、子供だけの足ではすぐに攫われそうになってしまう。
「レピートは、旅をしているのね」
「はいっ!雪が降る街も行きましたし、暗い洞窟も行きました!」
それでも、まだ世界は広いのだと感じる。
レピートが歩んだことがない道はたくさんあるのだ。
セトは興味深そうに頷きながら、街並みをぐるりと見た。
「私、ずっとここにいるの。でもこの街は美しいでしょう?」
「…はい!活気にあふれて、どこの街よりも賑やかです!!」
ふふ、とほんの少し唇をほころばせるセトの瞳は、何とも優しい色をしていた。
どこかに向かっているわけではないので、ずっとここにいるのなら、と思い、レピートは尋ねる。
「セトのおすすめなところってあるんですか?」
「おすすめ………?そうね………」
たどたどしい足取りで連れられたのは、街を少しずれたところだった。あまり遠くに行けば、魔物も襲ってくる。若干の警戒をしながら、セトの背中を追う。人ごみからずれたからか、喧騒は遠ざかり、静けさが立ち込めだしていた。
「ここがね、好きなの」
――連れられた先は、静かで、海の音だけが響く、丘の上だった。
立ち込める花々と、草が足元を覆っている。目の前に広がるのは海だ。
「…静かです」
「そうでしょう?…賑やかなのも素敵で楽しいんだけど、…静かな所も、とっても好きなの」
風に靡かれ、フードが揺らぐ。それを押えながら、セトは見詰めている。海を、いいや、もっと遠くなのかもしれない。金髪が艶やかに流れていた。
「…ファレストは、街は、美しい。…でも、誰も彼もが貧窮に困っていないわけじゃない。痛みも、苦しさも、皆が抱えていないわけじゃない………レピートは、どうして20年前に大戦が起こってしまったか、知っている?」
彼女も生きていなかっただろう、時代。レピートは首を振る。
セトはレピートの菫色の瞳を見ながら、囁いた。
「…平等じゃないから、よ。皆が一番になろうとする、…ただ、それだけのために、争いなんて起こる………自分勝手に、自分だけの為に…意味なんて、ないのに」
セトの言葉に、レピートは自然と言葉を出していた。
「それだけじゃないと思います」
レピートは知っている。
大戦の悲惨を、レピートは書で知った。プレネスから大戦について、教えて貰った。
確かに、誰も彼もが傷つけあい、奪い合った。結果としてはそれが全てになるのだろう。でも。
「誰もが………守ろうとしていたんです」
自分だけじゃない。誰かを、何かを、他者多用でも、自らの信念を賭けて戦った。失った物の方が大きかっただろう。だが、結果、得れたものもあるはずだ。
生き延びて、自身の力を失ったプレネスが、地に伏したロズと出会ったように。
「意味がなかったはずはないのです。意味はあったはずなのです。…もちろん、大戦が起こっていい、なんてわけじゃないですけど!」
は、と我に返って否定すれば、セトはしばし呆気にとられた後、くすりと微笑んだ。
一際強い、風が吹く。
「…そう、―――そうかも、しれない」
目を伏せて、セトは囁く。
「だからこそ、…世界は誰かが導き、変えなければならない」
風に掻き消された言葉を、今一度聞き返そうとした、そのとき。
大通りで爆音が轟いた。
「!なに、」
「戻りましょうセト!」
そして秘密の丘には、何も、誰も残らない。




