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Break Childs  作者: そうしょう
6 理想(ユメ)を持つ者達
32/61

32 輝かしい王都

おいで、と、愛おしさを伴った声で手招きをされた。


ぺたり、と冷たい、しかし熱を帯びた掌が右顔部分を摩り、するりと巻き付いていた白い包帯を紐解いていく。ゆっくりと、慎重に。全てが解けきると、ふぅ、と大げさに息を吐いて、声の主は安堵したように再度頬に手を当てた。布を通さず体温が直接伝わる。

それが嫌じゃなかった。

「良かった。綺麗になってる。回復術もちゃんと効いたみたいだし、ここが一番ひどかったのよね?」

問いかけに無言でうなずく。傷だらけだった体は、傷痕残さず治癒が完了したようだった。


少年は、物心がついたときに捨てられた。人が溢れる王都に、明るい世界から切り離された路地裏に。雨が降る、冷たい雨粒が自身を流れ尽くそうとする。

何の優しさも、温もりもない世界にひとりぼっちだった少年は、一人の少女と出会った。

「貴方、こんなところにいちゃ風邪もひいちゃうわ。酷い怪我もしているのね。おいで」

そういって。

何度も、おいで、と、少年の手を引いてくれた。


「誰にだって生きる理由があるわ。魔物も、この世界に生きるすべてのものも。だから私は守りたい。それが、私の夢なの」

「………夢?」

少女は笑う。

「夢はない?」

「…そんなもの、考えたことはなかった」

「じゃあ、とりあえず生きましょう」


生きて、生きて。

それから、貴方が本当に叶えたい、心の底から願う夢を探しましょう。


遠い遠い、懐かしい記憶は、忘れたくても忘れられない程、暖かい。


×


ガタン、と車輪が道に乗り上げたのか、荷台が音を立てた。荷物の影に身を滑らせていたレイスが呻きながら目を覚ます。レピートはそれに気づいて、そっと声をあげた。

「師匠、景色変わってきました。お城近くなってきましたよ!」

はしゃいだようにレピートが言えば、レイスは頭を押さえながら沈黙する。レピートは小首を傾げた。ややあって、レイスはレピートを見、それから城門へ目を向ける。

「………無事入れるといいな」

「不吉なこと言わないでください……っ」

やがて呟いた言葉に、レピートは肩を強張らせながら言い返した。


一夜明け、エリンに報告を終えた昼間。レピート達は、村から資材を運ぶための荷台に揺られながら王都を目指していた。そう遠くはないと言う王都だが、門前では検問がある。潜り抜けるのに不安を覚えながら、城に近づく興奮と緊張を押し殺す。

「止まれ」

外でいかつい声があがった。きた、と、レピートはレイスに目くばせをする。レイスは静かに、と指を立てて口元に当てた。こくこく、とレピートは神妙にうなずく。暫く、外での話し声が続く。やがて、再び車は動き出した。

門を潜っても、まだ、安心はできない。賑やかな雰囲気を感じ取りながら声を押し殺して進んでいく。

―――ようやく止まり、光が差し込んだ。

「もう大丈夫だぜ、おたくら」

に、と笑いかける男に頷き――肩越しに見えた世界に、目を輝かせた。


祭りだ。

一面華やかに飾られ、空には催しだろう風船や花吹雪も舞っている。晴天がひしめく空を自由に鳥が羽ばたいていく。

沢山の出店や、多くのヒトが集まっていた。ピクシーと人間が笑い合い、子供たちは無邪気に走り回っている。


「………すごい」

今まで寄ったどの町でも、ここまでの喧騒はなかった。人々が笑い合い、手を叩き、生き生きと呑んで食っている。

驚愕に、それ以上言葉が続かないレピートの肩を叩いて、レイスは宿屋に引っ張った。


それぞれ違う台車に乗り合わせていた他のメンバーも、無事に集合場所、つまりは宿屋にて集まることができたようだ。特に吸血鬼であるプレネスへの緊張はかなり募った様で、疲れたように肩に手を当てている。

「ここの王様ってどんな人でもお会いしてくれるんでしょう。どうせ会えるなら、単刀直入の方が良いわね。」

「らしいネ。何とも寛大な王様ダ」

肯定しながら、ティはそわそわと窓の外を見ていた。その様子に、レピートは尋ねる。

「ティもお祭りはじめてですか?」

「ちょ~~~っと違うんだけド…ねぇねぇ、どうせお祭りは今日まで、せっかくだから明日王様に会うことにしなイ?」

「!わたし、お祭り堪能してみたいです!!」

元気だなぁと目を細めるレイスの視線を受けながら、レピートが手を大きく振るえば、ロズは苦笑して頷いた。プレネスも異存はないようだ。

「じゃあ各自、だネ!」

「あんまり目立った動きはしないよう……っていねぇし」

「はや?!」

言いかけるより先に、ティの姿は消えていた。キョロキョロと周囲を見渡してもいない。感心したようにロズが瞬きをする。

「風より早い………」

「あたし、宿で休んでいるわ。ロズはどうするの?」

「どうしようかなぁ………気分転換に歩いてみるよ。その…騎士団とか、間近で見てみたい、のもある…」

後半部分は声を潜めて、ぼそりと呟いたロズにプレネスは噴き出した。う、と睨み付けるロズにプレネスは笑みを隠そうともせず、浮かんだ涙を指先で拭う。レピートとレイスが理解できないと言う表情を浮かべれば、プレネスは説明してくれた。

「ロズは元々騎士団志望だったもんね」

「ええっ、その我流の剣でですか?!」

「その性格でか…?」

「うっ、うるさいなぁ!っていうか性格って何?!人格の否定しないでくれない?!」

ロズが耳を塞ぐように首を振り、叫び散らしてから、レピートもレイスが誰を差しているのか気付いた。

もうずいぶん昔のようだ。初めて見つけたコア、獲り返せなかったコア。間一髪、レピートを助けてくれた金髪の騎士。

「…シプロさん、どうしているんでしょう」

「さぁな。が、どっかで野垂れ死にするようなやつじゃなさそうだったし、生きてるよ」

「そうですねっ!」


――貴方達に何か危機的なことが起これば、必ず駆けつけよう。約束する。


かっこいい女性だった。堂々として、振る舞いも凛々しく。レピートも、あんな風に。

(強く、在りたいです)

「っていうわけだから、イッテキマス!」

「ふふ、いってらっしゃい。二人は?」

ロズが早足で去っていく。

プレネスの問いかけにレイスが欠伸をした。それが答えだ。

「…あんまり暗くなる前に帰って来いよ」

「わかってますよぅ!子供扱いしないでください!」

レピートもまた、外のにぎやかな世界へ―――足を踏み出した。


出て行った面々を見やってから、プレネスは二階へ促す。既に取ってあるベッドへダイブすると、あー、といううんざりしたような声が零れ出た。

ぴょこり、と話に入れても貰えなかったラックは顔を出す。

「ラックはどうするの?」

「コアの気配を探しにいくみ」

「仕事熱心ねぇ…」

ぱたぱたと飛んでいく後姿に、とうとうふたりっきりになった、とプレネスは体を起こす。

レイスは向かいのベッドに腰掛け、揺らめくコアを取り出した。白いコアは透き通る美しさでレイスの掌に乗っている。プレネスは眉を寄せた。

ここにいてもわかる。マナの塊、圧倒的な威圧感。今は術でマナのこぼれを押さえているものの、解放すればあっという間にマナ中毒になってしまう程だ。

「問題は山積みね。王様に会うにしても、よ。早速コアが云々言い出せばすぐに捕まりそうだし」

「………コアは五つ……内二つは俺とティが。一つは…式神使いが。」

「…グルートの一人に、式神使いがいる話を聞いたことがあるわ」

グルート。

聞きなれない単語にレイスは眉を寄せる。その反応に気付いたらしいプレネスが続ける。

「あたしもロズから聞いたんだけど。今の王にはグルートと呼ばれる控えの四人が居るみたいなの。それぞれ、≪盾≫、≪剣≫、≪心≫、≪生≫を司るらしい。多分だけど…式神使いさんは、≪生≫」

「…吸血鬼狩りのトップなら入ってそうだな。≪剣≫か、≪心≫か」

「…多分、≪心≫よ。≪剣≫なら、騎士団団長辺りじゃないかしら。残る≪盾≫…」

見当もつかない。盾、というぐらいだから、恐らく―――最強の守りのことを差すのだろうが。

何にせよ、グルートと呼ばれる連中がコアを探しており、なおかつコアを既に手に入れている可能性は高い。

そのうえ、一つは確実に向こうに渡っている。

「…残り二つ、か」

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