29 この世界に、産まれては
「…ッ」
蔓の猛攻を避けて、気が付けばどこを歩いているか分からなくなっていた。そもそも、森の地図を持っているプレネスは現在共に行動していない。迷子、である。
苦笑を浮かべて、ロズは腰に手を当てた。まあ、一人じゃないだけ、幸いと言ったところだろうか。
「どうしようか、レイス」
「道なら分かる」
「え?」
レイスは軽く手首を振るった。ふわりと浮かび上がった赤色のマナを視認すると同時に、ぽつぽつと光が繋がっていく。
これは、と二度三度瞬きをし、納得した。
「ラックの展開術?」
「咄嗟にプレネスと繋がっておいた。ラックはプレネスに投げつけておいたからな…」
「…レピートとは絶対に繋がったりしないのにね」
思わず毒を含んで言えば、レイスの足が止まった。
あ、と、ロズは口を噤む。が、すぐに口を開き笑みを浮かべた。
「気に障った?ごめん、忘れて」
「…合成獣を気にしているのか何なのか知らねぇが、いい加減にしておけ」
ロズの瞳が揺らいだ。
レイスは赤い眼光で、睨み付けるようにロズを見る。
一瞬だけ笑みを消したロズは、すぐに同じように笑みを浮かべて、素知らぬ顔で「なんのこと?」と尋ねてみせる。
深々と、レイスは息を吐いた。
「…なに、何なんだよ…」
何が言いたいの、――ロズの中に焦りが生まれだしていた。レイスと話していると、心を見透かされているような感覚に陥って、不安で、怖い。感情が沸々と湧き出て、言葉にできないまま飲みこまれる。
焦って、言葉が滑る。
「…合成獣、つまりそれって、僕らみたいな、他種族で生まれた化け物なんでしょう?恐ろしいよね、怖いよね…そんなものが、この世に居るなんて」
「怖くないだろう」
「……っ、いつか、無意識にも誰かを傷つけるんだよ、きっと。記録にもあったし、合成獣は生み出してはいけないものだった、って…」
「それは人為的につくられたからだろう」
「―――子を作るのだって、同じことだ!」
思わず怒鳴り声になっていた。
足元の茂みが、ブーツにすりつぶされた嫌な音を立てる。ロズは拳を震わせて、きつく唇を噛みしめる。
憎い、憎い。
――きらいだ。
ロズは、自分が嫌いだった。
ハーフであり、どっちのもつかないわが身が、嫌いで、仕方がない。
それでもそれを、レイスに怒っても仕方ないのだ。自分が悪い、と、ロズは気まずく流れ出した空気を取り消すように深呼吸をして、普段通り笑みを作ろうとした。遮るように、レイスが言葉を紡ぐ。
「昔………昔、黒髪に赤い瞳は災厄の象徴だという風習があった」
「………?」
たどたどしく、レイスは言葉を続けていく。
黒い髪を揺らして、赤い瞳を細めて。
「産まれてはいけない、邪悪な生き物だと。…だけど、ある人はこういった。
……この世界に、産まれてはいけない命なんてないんだ、と。」
ほんの少し、懐かしむように。それは、ロズが初めて見る表情だった。決して良い事ばかりではなかったのだろう、それでも、懐かしむ記憶は、悪いものではなかったのだと十分伝わってきた。
「だから、ハーフだって、…何だって、産まれてはいけないものはないと、俺は思う。合成獣も、魔物も。道を間違えているだけだ、何らかの方法があれば、それは人に害をなさないものになるだろう。化け物なんかじゃない」
「……優しいけれど、残酷だ。…でも、きっと、レイスに教えてくれたその人は…素敵な人なんだね。今、その人は…?」
レイスは小首を傾げる。
ややあって、ぽつりと吐き捨てた。
「死んだよ」
随分と前に、付け足された言葉に、ロズは何も言えない。木々が風に揺れる音がうるさいぐらい響いていた。
細められた赤い瞳がゆっくりと閉じられ、思い出したように、付け足された。
「――――俺が殺した」
「え?」
訊き返そうとした瞬間、レイスが突然早足に歩き出した。徐々に駆け足に変わっていくのを、慌ててロズは追う。
「どうし…」
「展開術が途絶えた」
吐き捨てられた言葉に、展開術で繋がっていた赤いマナが道を選ばず霧散する様を見て、ロズもまた事態を察する。
「プレネス達に、何かあった…?!」




