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Break Childs  作者: そうしょう
5 交わる二つの血について
27/61

27 素朴な村にて


王都に向かう途中の村、シアーレ。平凡で小さい村ではあるが、他地域との交流も盛んで、決して豊かではないものの、かといって貧するわけでもない。田んぼも多く、綺麗な水が流れているのも特徴的だ。大分王都に近い場所ではあるが、騎士団の姿もほとんど見れない。それは、他からの抑圧を嫌うという村の方針の為らしい。

「お待たせいたしました~」

陽気な声と共に運ばれてきたアイスコーヒーとミルクがそれぞれに置かれる。笑顔で受け取ってから、そっとレピートはコーヒーを引き寄せ、頬杖をつくレイスの前にミルクを置いた。

一呼吸の沈黙。

「………あのさぁ、思うんだけど前にもなかったこれ?」

正面に座る二人の中央部分から、ロズは一人、緑茶を啜りながら呟く。

レイスは肩を竦め、レピートはいつものことだというようにコーヒーを両手で抱えた。

村に入った一行は、たまたま補給タイミングでもあること、それに日も暮れだした時間帯であったため、一夜をここで過ごすことにした。食材や薬の補給などはプレネスとティに任せ、ロズもまた宿を取りに訪れていたのだが、早々に情報収集を切り上げたレピートとレイスと合流し、今に至る。

「情報収集どうだったの」

「全然、これっぽっちもないです」

「え、えぇ………」

堂々と言い放ち収穫がなかった、と言い張るレピートに、ロズは頬を引きつらせた。ここは王都に近い村だ。よって、王都に入る最後の情報収集の場となる。のに、何の情報もないとすると、無手で戦場に行くようなものだ。

そう思っていれば、レイスが思い出したように付け足した。

「今、三日間だけ王都では祭りが行われているらしい。…何だったか、国王が座して2年を祝うものだったか…」

「二年前、国王が代わっているからね。…そして、現国王の指示の元、吸血鬼狩りは勢いを増した」

吸血鬼狩り。プレネスを狙う者。

そこで、はたとレピートは目を見開く。

「って、吸血鬼狩りが居るかもしれない…ですよね、大丈夫、ですか」

「うん?大丈夫ではない…かもしれないけどね。何とかなるよ。まさか、王都で吸血鬼が堂々と入ってくるとは思いもしないだろう。それに、入ってしまえば戦闘に陥った瞬間に民を巻き込むことになる。国王としては大層厄介なことだろう」

「それに、今が祭りの最中ならタイミングが良いな。警戒は強いだろうが、同じぐらい旅人も多い。…入り込む隙が容易い。まぁ、甘くはいかないだろうけど」

「な、何だか悪い事しているような気分になりますね」

レイスが付け足した言葉に頷きながらも、レピートは苦笑した。ロズも小さく笑みを零す。

…それから、小さく息を吐いた。

目ざとく、レピートは囁く。

「体調良くないですか…?」

ロズは何度か瞬きをしてから、大丈夫だよ、と笑って見せた。

そこへ。

「…あの、すみません。旅のお方、ですよね…?」

おどおどしい物言いで、一人の女性が近づいた。


一方、物資の供給を行っていたプレネスは荷物を抱えて宿に向かっていた。隣にはティも居る。

「悪かったわね、色々回っちゃって」

「プレネスは意外と買い物好き…?こんなピンとか…」

「それはお土産よ」

他愛もない会話をしながら歩いていると、段々と道には人が少なくなっていた。夜も近くなれば、闇が深くなる。夜の魔物は危険だから、滅多なことで人も出歩かない。

何の前触れもなく、ティが立ち止まった。

「どうしたの?」

「プレネスは、吸血鬼なんだネ」

ひぅ、と風が吹いていた。

プレネスは紅の瞳を僅かに細める。ティの背には青い羽がうっすらと見えるようだった。


かつて、ピクシーと吸血鬼は殺し合った。

壮大で、血も凍るような、大戦を行ったのだ。

ほんの20年前に。


「…ティ、貴方も、大戦の」

「…よく覚えていないんダ。大戦のこと、大戦の最中。気が付いたら、僕の記憶の中では終わっていタ。それでも、そこには痛みと絶望と、怒りと憎しみがあっタ。それだけは鮮明に覚えているンだ」

それから、吸血鬼は姿を消したのだ。

禍根を残しながらも、元凶は地から失せた。吸血鬼狩りにより、大地に残った者達もまた、滅びの道へと辿っている。

「ティは、あたしが憎いの?」

殺気を滲ませたプレネスの問いに、ティは首を振った。

それだけで、気配は霧散する。

「だったらいいわ。…あたしは、今は血を吸えない、人間よりも劣った吸血鬼。今はロズの為に、そしてレピートの為に旅に居るだけ。ティがあたしたちの邪魔をしなければ、それでいい。吸血鬼とか、ピクシーとか、もう」

どうでもいい。

疲れたのだ。

ティは静かに、囁いた。

「…そうだネ。」


きっとあの大戦は、無意味でしかなかったのだ。


二人は再度、歩きはじめた。

待っているであろう人たちの元へ、一歩一歩、踏みしめて。

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