24 世界の真実
「歌詠詞の術………ねぇ」
コンコン、とロズは壁を叩いてみた。特に何の変化もなし、感覚もしない。
「…破れるもんなの?」
「うう、それは分からないみ………」
「役立たずなぬいぐるみだなぁ…」
「だからぬいぐるみじゃないみ!!!」
ロズの零した言葉に猛反発するラックを他所に、同じようにペタペタ壁を触りながら、レピートは隣に立つレイスを見上げた。
視線を受け、赤い瞳がレピートを向く。
「師匠でも何か分かんないですか」
「歌詠詞の術は歌詠詞にしか感じ取れない。歌詠詞以外のやつがどう察しようとしても無駄だ」
「そういうもんですか…」
ふらり、と。
ティが壁に手をやった。眉を寄せ、耳を澄ませる。そのまま壁に耳を寄せた。
「…何か、歌が聞こえる…」
「えっ」
慌ててレピートも同じようにしてみた。しかし、何も聞こえてはこない。聞こえるのは、ここに居る人物の息遣い程度だ。
音、歌は聞こえない。
察したらしいレイスが言葉を紡ぐ。
「…歌は歌えそうか」
「………うん、繰り返しているだけダ。歌えるヨ。」
ティが息を吸う。
やがて、かほそく、静かに歌が流れ出した。ティの唇から紡がれる歌は、優しくて、心地よい。思わずレピートは目を閉じて、聞き惚れた。
拙い歌ではあった。普段使わないような場所から歌を、≪声≫を出しているのだろう。
プレネスが小さく息を呑む。
「これは、解除呪文………?みて!」
ティの前の壁が音を立て、崩れていく。左右にはけていくそれに、慌ててレピートは体を離した。轟音を立てながらも、その間、ティの歌は途切れない。
ようやく、短くはあったが、永遠に聞き惚れていられるような歌が終わったのは、全ての壁が消え去り、目の前に階段が出来てからだった。
「…はぁっ…」
玉の汗を拭い、ティが咳き込む。
腕を組み、ロズは感心したようにぼやいた。
「これは凄い…」
「階段………行ってみる?」
プレネスがレピートを向く。レピートはティを見た。少年は尚、肩で息をしていたが、レピートに向けて微笑んだ。
行こうと告げる瞳に、レピートは頷いた。
階段を昇った先には、パネルが広がっていた。
「ま、またパネル………僕機械系苦手なんだよね…」
うんざりしたようにロズは立ち止まる。レピートもうんうんと頷きながら同意した。
ティとプレネスが機械に近づき、それにラックが加わる。あーだこーだと言いながらパネルを見詰める二人を他所に、ふとレイスは左のパネルを見やった。
青いモニターだが、赤いランプが一際目立つようについている。
「………古代文字?」
つい、300年程前まで使われていた文字だろう。レイスは眉を寄せながらも手を動かした。いつの間にやらレピートとロズも三人に加わり、静けさがレイスを包んでいた。
また、パスワード画面。
レイスはしばし考えた後、自身の名を入力する。
「…また、通るのか」
認証の文字が苛立たしくなってきた。しかも、今度は古代文字で、だ。
広がったデータに、レイスは食い入るように目を瞠った。
「………なんで、こんなもんが………」
息を呑み、背筋が凍る思いがした。これは、
ダメだ。
咄嗟にランプを押した。強制的なシャットダウン。画面は暗くなり、レイスはどこか安堵したように息を漏らした。
そこに記されていたのは、世界の真実だった。
400年前、勇者一行が成した、世界の真相だった。
「…こんなの、俺が知っていいもんじゃねーわ………」
思わず苦味を噛みしめる。400年前の真相?真実?自分が知ってどうするのだ。当事者は既に皆、居ないのに。一体誰の為にデータとして残したと言うのだ。
データ保存者の名前は刻まれていた。
Osuka――≪オスカ≫。
「…貴方が、誰の為に残したのかは知らない…から、データは、…壊さないでおく。」
いつか、本当に知るべき誰かの為に。
レイスは、封印魔法を施し、世界の真実に蓋をした。




