21 雪降る街を去る
「それで、次のコアの目星はあるんです?」
数時間後。
結局レピートに付き合っていたらしいロズが疲れたような表情で立っている。プレネスは欠伸を噛みしめ、僅かな休息でも十分疲れは取れたようだ。レイスはまだ部屋から出てこないが、もう少しすれば来るだろう。その前に、とレピートはラックに尋ねた。
「ボクにはコアの探知機があるみ。……ここから西に、反応が一つあるみ」
「だからあんなとこにいたんですね………」
「場所は大体しか分からないのが辛いみ…」
んん?とロズが首を傾げた。
何か引っかかることがあったのか、考え込み、ああ、と思いつく。
「コアって、ガーディアンが守っているんじゃなかった…?」
「あ、師匠!遅いですよぅ!」
欠伸を噛みしめて、伸び切った髪をそのままにレイスが顔を見せれば、レピートは短く切りそろえてある茶髪を振り回して大げさに出迎えた。出迎え代わりのタックル。「うぐっ…」と短い悲鳴をあげるレイスに若干苦笑しながら、プレネスはロズに尋ねる。
「何か言った?」
「へ?あ、あ…うん、まぁ、いいか………」
「じゃあレイスもそろったし!出発するみーーー!」
疑問を抱きながらも、過ぎたことだと思い直し、ロズは歩き出した。
背には未だ、雪が降り注いでいる。
…
……
………
「―――チッ」
舌打ちをして、苛立ち気に気配を探る。あの、爆発的な感覚が既に途絶えている。――ない。
油断していた。吸血鬼にばかり、気を取られ過ぎたのだ。
「ああ、もう!!!」
ツイッセは髪を乱しながら、怒りを堪え切れずに言葉を荒げた。
「「コアの回収は、最優先――――と、伝えたはずだが」」
更に、油を入れてくるかのように聞こえてくる声にやはり苛立ちが増した。通信機越しにツイッセは怒鳴る。
「うっさいわね、引きこもりに言われたくないんですけれど!」
「「引きこもりじゃない!」」
「はー?お城でのーんびり護衛なんて引きこもりじゃない!」
「「のんびりはしてないし雑務を任せられているだけだが………それに、俺も出るつもりだ。状況が変わりつつある」」
はあ?と地面を踏みしめながら、ツイッセは顔を歪めた。
既に逃した吸血鬼へ兵は放ってあるものの…果たして、追い詰めれるのか。それよりも先に確保命令が下っているのだ。
「「コアの回収を急げ。」」
「……分かってるわよ」
そうだ、これは失態。
この街で見つけた――白いコア。透き通った純度の高いマナの塊。ガーディアンを片付け、止めに入ってくる教会の神父も術で封じた。そうして手にしようとしたのに、途中で蜘蛛の魔物が奪い取っていったのだ。
まるで、何かに使役されているかのように。
「……気になるわね。魔物が、まるで意思を持って奪っていったみたいだった」
通信機を切って、ツイッセは考え込む。
そちらも、調べた方がいいのかもしれない。
知らない所で―――どこかで、暗雲が立ち込めているような。もちろん、ただの錯覚かもしれない。ツイッセは透き通った美しい羽をはためかせて、空を見上げる。灰色の空だ。何気なく手を伸ばした。先も見えなくなるような、昏くて、深い空。
「……アタシたちが、あの方が、世界を変えるんだ。そうすれば、きっと………」
ただ、雪の中に、かつて何もかもを大戦に奪われた少女の言葉は溶けていく。