19 お前がしたいように
「コアを守らないと、…国が、世界を変えてしまう……つくりかえる…って、どういう風に、だ?」
助け舟を出すように、レイスが口を挟めばぬいぐるみは首を横に振った。
「詳しいことはボクも分からないみ…でも、コアはマナの塊………いずれにせよ、全てが集い使われてしまえば、地殻変動どころの騒ぎじゃないみ………」
「その前に、俺達がコアを奪取、守り、国に渡さないようにする………で、そのあとはどうする?」
「ボクにはコアを確実に封印する方法を持っているみ。さっきの展開術の応用み…ただ、使用できるのも一回きりで、全てが揃わないと………」
そうか、と思う。コアは一つでも多大な力を持っているのだ。できればすべて、封印したい。大方そういうことなのだろう。
レイスが、レピートを見詰めた。赤い、赤い瞳がレピートの意思を覗かせる。
「…お前は、どうしたい?」
尋ねるように。
問い詰めるように。
それでも、尋問とは違い、優しく、先を促すように。
レピートは考える。
レピートは、ここまで、ずっとレイスが守ってくれたように、今度は自分が誰かを守れる自分で在りたいと願った。コアを探し、奪われたものを獲り返し、元の場所へ返す。それで、終わると思っていた。
今の話を聞いて、きっと、これは「それで」終わるような話ではないのだ。もっとずっと、深くて、難しい。
「…難しい事、よく、わかんないです」
だから、自分の気持ちに素直になることにする。
自分が何をしたいか。
何が、できるのか。
「全部全部、鵜呑みにするわけではないです。国がそんなことをするなんて、信じられないです。…だから、だからこそ、真実を知りたい」
旅を始めると決めた時は、理由なんて、どうでもいいと思った。
ただ、コアが奪取され、不幸になった人を見てしまった。動物を、見てしまった。ここまでの道のりで、コアの不安定さに怯える人々や、ツイルバードのようなものを見てきてしまった。
真実を知りたいのだ。
どうして、こんなことをするのか。
「人づてとかじゃなくて、私の目で、知りたい……だから、コアを探します。封印とかは、とりあえず後回しにして。コアを探して、守ります。」
ダメですか、と師を仰ぐように見れば、レイスは何度か瞬きをして、目を瞑った。赤い瞳は閉ざされ、唇が言葉を紡ぐ。
「…好きにしろ、お前がしたいように」
「はい、します!」
笑顔で頷いた。決心は決まった。ただ、見守っていたロズが小さく笑い声を漏らす。
「じゃあ、ついていこうかな。ねぇプレネス」
「いいんじゃない?コアの事とか、正直スケール大きくなってきた感はあるけれど、どうせあたしたちに目的はない。」
「ということだし、今まで通り付き合うよ」
ロズとプレネスの言葉に何故かむせび泣いたのはぬいぐるみだった。どうして涙が零れるのだろうと不可解に思いながら、レピートははたと思いつく。
「名前、付けなきゃですよね。不便ですし」
「ぬいぐるみじゃだめなの?」
「だからぁ!ぬいぐるみじゃないみーーーー!!!」
へらりと進言するロズにぬいぐるみ――ソレは喚き散らす。しばし考えて、じゃあ、とレピートは口を開いた。
雪が降り積もっている。教会に目を向ければ、賑わいを強めていた。いずれ見つかるのも、時間の問題だ。プレネスは目を眇めて、チクリと痛む胸に目を細めた。
あの少女、ツイッセと名乗った彼女。
…大戦の、生き残りなのだ。
地獄絵図の、おぞましい大戦の―――生き残りなのだ。
「………全く、残酷ね」
忘れたくても、忘れることができない思い出は、雪に溶けてくれやしないのだ。