17 取り込み
「………え?」
術式が、跳ね返された?
目を瞠る中で、ふいに大蜘蛛が吹き飛ばされた。轟音を立てて雪の上を転がる大蜘蛛はそのまま森の奥へ突き飛ばされていく。はっと顔を上げれば、斜面を滑りながら駆け寄ってくるロズと、体を震わせながら近づいてくるプレネスの姿があった。レイピアを背負って蜘蛛の咆哮を向くロズが口を開く。
「やっほー何、あれ」
「……大蜘蛛」
「いや見てわかるよ」
レイスが座りこんで息を吐く。返答に呆れたようにロズが肩を竦めていた。どうやら、走り回っている内に外に飛び出していたようだ。街の中ではあるが、辺境の場所なのだろう。地下を進んだ先がちゃんと外に通じていて良かった。
一方で、プレネスは小首を傾げる。
「…何かの術式の残骸があるけれど」
言葉に我に返ったように、ソレが体を震わせた。
「な、何が起きたみ?!!術式が跳ね返されたみ!!!」
「ええええ何こいつきもい喋った…」
ぎょっとしてロズが暴言を吐き出せば、ソレは怒ったように声を荒げて「きもいとは何だみ!」と言い返す。
――そのとき、唸り声が響き渡った。
一筋縄ではいかないか、と一行は息を詰める。
レピートは自らの短剣を見詰めた。確かに、マナが弾き飛ばされた感覚があった。今までにない力が湧き出すような感覚が、一瞬にして霧散したのだ。
ちらりとレイスを見れば、黒髪に塞がれて表情を窺うことができなかった。
「…さて、レピート戦える?」
プレネスの問いかけに頷いて、レピートはレイスに言った。
「…師匠、あの、さっきの…」
「…………後から、な」
言いづらそうなレピートの瞳に、レイスの赤い光が映る。それだけで、どうしてか、レピートのざわついていた心が落ち着いた。
「はい!」
「来るみ~~~~!!」
まるでソレが合図をしたかのように、蜘蛛が飛び込んで―――飲みこまんとするかのように大口を開いて、こちらに降りかかってきた。プレネスが早口で詠唱を終える。
防護術が結界の如く一行を包み込んでから、ロズが地を蹴って足の一部を薙ぎ払った。
「うぉ、かったいな!」
「それ私もさっきコメントしました!」
「あはは、被っちゃったね」
さっきのゴーレムよりも硬化は上―――そう分析しながら、ロズはうまい事足を踏みつけ足場にし、空へ飛びあがる。空中で身を捻り、刀身に風のマナを込めた。
「――流・二の星!」
「蓮陣!」
上から叩きこめば、同時にレピートが連撃を叩きこむ。固い、けれども妨害にはなる。それでも、叩きこんだ風撃も大したダメージにもならないらしい。
何ていう魔物だ。
まずいな、とロズは息を切らし、
「…………何だ?」
ふと、蜘蛛の額に――額だろう部分に、何かが挟まっているのが見え、怪訝気に顔を顰める。ロズ、とレピートの声が響き、慌てて体を捻れば、スレスレで足の一本が貫いていった。厄介だ。
「どうしたんです?!」
「何か、ある!……白い、これ………」
は、とぬいぐるみが叫んだ。
「こいつ、この魔物、コアを取り込んでるみ!!!」