14 氷の少女
2人が落ちていったことを気に留める暇もなく、ロズは目の前の敵に集中した。狙いは、やはり彼女の言う通り―――プレネスなのだろう。
ならば、することは一つだ。
彼女を、守る。
「全く………吸血鬼狩りの連中は、暇なのかな?」
思わず毒づきながら、氷状態のゴーレムを睨み付けた。隣でプレネスが怪訝そうに眉を寄せる。
「ロズ、おかしいわ。…いくらピクシーといえど、氷のマナを自在に扱うなんて」
「……そういえば」
本来、マナは地水火風から成り立っている。枠から外れたもの、所謂氷や雷、それから闇といった類は、並の魔術使では扱うのも難しい。だが、この少女は――見た目は少女である――それを操っているようだ。
声が聞こえたのだろう、ツイッセは鼻を鳴らした。
「生憎、吸血鬼が思うよりもずーーーーっと、アタシたちは進化してんのよ!」
その声が合図であったかのように、振るわれた鞭が床を叩き、氷が吹き荒れる。危ういところでプレネスのシールド系の術が発動した。
戦っても、疲弊するだけだ。
「…ロズ、隙ありそう?」
「あ~~」
くるり、とロズは抜いたレイピアを手の平で転がし、ゴーレムを睨み付けた。
「アレ、なんとかすれば」
「じゃあ、よろしくね」
「任された」
にこり、と端正な顔立ちに笑みを浮かばせるロズに微笑みかけて、プレネスは術の詠唱へ入る。特別長いものではない。舌打ちをして、ツイッセが身を滑り込ませてきた。だが、彼女も接近戦は苦手なはずだ。完成した術でツイッセの技を払落し―――ながら、次の術を展開する。
「二重詠唱!」
忌々しげな声を受けながら、ゴーレムの背後に束縛術を発動させた。奇しくもそれは、レイスと同系統の束縛術であったが――絡めとられたゴーレムの動きが鈍い内にと、ロズはレイピアにありったけのマナを込めた。
「――――流、四つ星!!」
風圧を受けてゴーレムの体がぐしゃりと潰れる。やはり、氷でできた体は脆い方なのだろう。手ごたえは十分、とプレネスを振り向く。
プレネスが頷いて、片手を掲げた。
「―――我が呼びに応えよ、出でよ古風!」
風が瞬く間にプレネスとロズを包んでいく。息を呑み、悔しがるツイッセを最後に、二人の体は風の唸りと共に姿を消した。