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Xenoverse:EX  作者: 葉月はつか
Side story
6/21

第34.5話(第67.5話) 隣に居るべき人

 ネットワークというものは広大な、果ての無い海の様で、情報という名の波は時として脅威となり得る。

 テレンティアとの戦を終結に導いたとされ、一躍時の人となった鳴鳥。

 彼女の容姿は愛らしく、性格は謙虚でいて、時としてハッキリとした意志を貫いていて。

 当人自身の魅力もあってか彼女は注目を浴びる事となり、彼女についてはネットワーク上で様々な情報が広まっている。

 ある事ない事を書き込まれるのは当然として、中には目も当てられないようなものも存在していた。


「なんだ、この雑コラは……」


 ジルベルトが見つけたアングラなサイト。

 そこにはアイドルや女優などのあられもない姿が掲載されていて、そのどれもが顔と別人の身体を接合したもの、所謂アイコラであった。

 技術自体は高度でいて、本当にその者が素肌を晒しているかのように見えるものなのだが、ジルベルトが雑コラと言うのには訳があった。


「(……いくらなんでもこの胸は盛り過ぎだろう)」


 その方が見栄えが良いのは男として理解できるが、当人を知っている身では呆れて物も言えなくなり、クオリティの低くて有害なデータはこの世から抹消した。

 アランが鳴鳥へと自分の名前を検索しない方が良いと助言した後日、フラヴィオとの約束を果たす為に向かっているヴィルト・ルイーネへの移動中に、ジルベルトはアランと共にネットワーク上に潜む有害な情報に目を光らせていた。

 消しても意味はない。この宇宙全体を繋げるネットワークとなると果てのないもので、増殖する方が速く、追いつける筈がない。

 一応ネットワーク上にもパトロールするようなシステムや人員も居るのだが、それらは事件性の高い情報を優先とし、いわばアイドルのような存在に対する書き込みは有名税として見過ごされがちであった。


「……と言うか、こいつ等はアイツに夢を見過ぎだろう」


 次にジルベルトが見つけたのは鳴鳥を相手とした妄想小説で、その中で彼女はずいぶんと都合のいい女になり果てていた。

 確かに。気配りは出来て、誰にでも優しく、料理は上手くて……。

 これまで過ごした中で決して口にはしないが、ジルベルトには鳴鳥の良い所が見えなくもない。

 だがその良い所を上回って彼女には厄介な部分が。

 誰かを助ける為に我が身を顧みない所など、共に任務に就く身としては勘弁して欲しいのであった。


「やはりほとぼりが冷めるまでは時間が掛かりそうですね」

「……放っておくしかないか」

「そうですね……。……まぁ、この勢いを抑える方法が無いわけでもありませんが」

「何だ? 言ってみろ」

「それは――――」


 アランが提案した現状を変える案。

 それはジルベルトにとって了承しがたいものであって、思い切り顔を歪ませて否定した。


「俺がアイツの恋人だと触れ回るだと……!?」

「ええ。ちょうどほら、こことか。貴方との事を勘ぐる様な記事もありますし」

「それも消しておけ」

「はは……。そこまで過剰に反応する事も無いのに」

「いや、俺は別にどうでもいいが、アイツが嫌な思いをするだろう」

「……分かりました。そういう事にしておきます」


 へらへらと笑うアランに対しジルベルトの表情は険しく、不機嫌さは拭えないようで早く消してしまえとせっつく。

 睨まれても全く動じないアランは笑みを絶やさないまま鳴鳥とジルベルトとの仲を疑う記事を削除しつつ、それならば他の者との噂を流すかと言った。


「他の者?」

「居るじゃないですか。コンラードとか」

「アイツか? ……それは無いだろう」


 鳴鳥の隣に居るのがコンラードだとすると……。

 そう想像してみたジルベルトだが、あり得ないとすぐさま否定した。

 コンラードは決して口にはしないが、彼が鳴鳥の事を好いているのは周知の事実で、知らないのは鳴鳥くらいなものである。

 お調子者でもある彼ならば鳴鳥の為となると喜んで引き受けるだろう。

 そして鳴鳥もコンラードに対しては悪く思っていない筈で、偽装に付き合わせるような真似を心苦しく思うかもしれないが、コンラードが大丈夫だと言えばどうにかなる。

 この組み合わせなら上手くいきそうではあるが、ジルベルトは見た目的に良くないと言う。


「犬っコロは見た目が頼りないだろう?」

「それは……まぁ。見くびられる可能性はありますね」

「だろう? どうせなら並んでいて違和感が無く、寧ろ似合いであるかのような相手を……――――」


 そこまで言いかけて思い浮かんだのは久城の姿であるが、彼はテレンティアの戦いにおいて鳴鳥の目の前で命を落としている。

 アリーチェの話によると鳴鳥は久城の事を好いていたらしく、更には鳴鳥のARKHED(アルケード)に残されていた戦闘記録の中で彼女想いを言葉として知る事となった。

 そして相対する久城の想いにも気づいたジルベルトはあったかも知れない今を脳裏に過らせた。

 すれ違いさえなければ鳴鳥と久城は結ばれていた。

 二人が並んだ姿は絵になり、文句はない。

 それでも、久城はもう姿を現す事は無い。

 ジルベルトは過らせたイメージを振り払い、どうするべきかを考えた。


「フラヴィオさんに頼むのはどうでしょうか?」

「はぁ!?」

「タイミングも良く、これから彼に会う事になるでしょうし」

「それはそうだが……」


 暗い考えに引き込まれつつあったジルベルトを現実に引き戻したのはアランの推薦であった。

 ARKS(アークス)の人気レーサであるフラヴィオ。

 彼とは以前、テレンティアとの戦を前にして助力を求めに会いに行き、ひと騒動あった訳だが、その際鳴鳥を気に入ったような節があり、祝勝会の場でも鳴鳥に言い寄っていた。

 彼の場合、コンラードとは違い鳴鳥と並んでいてもおかしくはない。

 フラヴィオも名が売れていて、有名人同士なら納得する者も多いだろう。

 だがその分、懸念する事があった。


「アイツには熱狂的なファンが多い。今度はナトリが槍玉にあげられて、誹謗中傷に晒されるだろう?」

「確かに、そうですね」

「……ったく。もっといい案は無いのかよ」


 やれやれと肩を落としたジルベルトは気分を変えようと新しい煙草を取り出して咥えて火をつける。

 やはりチマチマと潰していくか、放置するしかないのかと諦めかけていたが、その必要は無いとアランが言った。


「いつまでもイタチごっこを続ける訳にはいきませんし、ナトリさんの端末に仕掛けをしましょう」

「は……? 今なんて――――」

「ナトリさんの持つ小型通信機とタブレットに制限を掛けると言う訳です」


 根本的な解決にはならないが、鳴鳥が目にすることは無くなるだろうとアランは言い、ネットワーク経由で簡単に処理をしてしまった。

 これで取り敢えず鳴鳥に有害なものを見せずに済むが、ジルベルトは額に青筋を立ててアランを睨み付ける。


「おい。それは何時から思いついていた」

「いえ。これはあくまでも最終手段ですから。他の者の端末に触れられないように気を配らなければならないですし」

「……チっ!」


 にこやかに笑うアラン。

 その笑みで自分がおちょくられていたのだと気が付いたジルベルトだが、彼にからかわれるのは日常茶飯事で、今更怒った所でどうにかなる訳ではない。

 盛大な舌打ちをしたジルベルトはブリッジを出て行ってしまった。


「アラン。船長を構うのも程々にしておけ」


 操舵師であるスティングはこれまで口を挟まず見守っていたが、ジルベルトが退出した後にアランへと苦言を呈した。


「そうですね。誰が隣に居るべきなのかは当人たちが決めるべきですしね」

「……? ……何か企んでいるのか?」

「いいえ。僕はただ、行く末を見守るだけですよ」


 そう言ってアランは笑い、何事もなかったかのように職務へと戻った。




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