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Xenoverse:EX  作者: 葉月はつか
Side story
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第7.5話(第14.5話) 鳥籠の少女

 商業船アルヴァルディ。

 かの船には一目で分からないが数多くの武装がされており、いざとなれば護衛無しに単体で立ち回り戦える戦力を供えていた。

 アルヴァルディが武装を平常時は格納しているのは船籍が星団連合軍にあるからで、特務部の任務として使用されているからであった。

 危険種の討伐から潜入調査、指名手配犯の拘束と様々な任務に就く特務部。

 その為アルヴァルディには独房が備えられ、拘束した者はそこへと放り込まれる事となる。

 ちなみに独房と言ってもベッドは固くなく、シャワーも完備、トイレも個室で。

 それらは全て清潔に保たれていた。

 今現在、アルヴァルディの独房内に居るのは人畜無害そうな少女であって、とても犯罪に手を染めたり、暴れて手の付けられない程に凶暴そうでもなかった。

 では何故彼女が独房にぶち込まれたのかというと、それは彼女が向こう見ずな性格で、困っている人が居たら見過ごせないタチで、そのせいでこの船の船長の怒りを買ったからである。


「俺がナトリさんの世話っスか?」


 言いつけを守らず暴走した少女、鳴鳥。

 彼女の世話を任されたのは彼女がアルヴァルディを抜け出す手助けをした者、コンラードであって、彼女の世話は罰として与えられたものであった。


「食事を運ぶのと、それから、アイツに一応常識を学ぶように資料を渡しておいたが……。サボっていないか定期的に監視しとけ」

「りょ、了解っス!」


 独房には監視カメラがある。

 それで様子は覗けるのだが相手は年頃の少女であって、四六時中生活を覗き見るのは流石にやり過ぎだろうとマリアン達に咎められ、ジルベルトは致し方なくコンラードに定期監視を命じた。

 話し方は丁寧であって礼儀正しいようであるが、鳴鳥は言う時はハッキリと言い、人助けをしたいという信念を簡単に曲げはしない。

 そんな彼女はジルベルトにとって厄介な存在で、できればこれ以上振り回されたくないと、ウンザリとしていた。

 これ以上関わりたくないというジルベルトに対し、コンラードは上機嫌のようで。

 面倒な役回りを押し付けられたというのに彼の口端は緩み切っていて、目元も笑うのを必死に堪えているようであった。

 鳴鳥の事は任せて欲しいと、何時にも増してハキハキと答えたコンラードは意気揚々とブリッジを去る。

 彼のウキウキとした気持ちを隠しきれていない背中を見送ったジルベルトは訝しげにしていたが、アランは困ったように笑い、コンラードの状態を説明する。


「何だ? あの気持ち悪い笑みは……」

「何時もの病気ですよ」

「病気ってまさか……」

「そのまさかです」


 惚れっぽい性格のコンラード。

 どうやら鳴鳥は彼のストライクゾーンのど真ん中らしく、そんな彼にとって鳴鳥の世話を焼けるのはご褒美と言っても他ならない。

 いう事を聞かず時折強く反発して、世話を掛けさせるような厄介者で。

 そして何より色気の無いスタイルのどこに惚れるのだと、コンラードはロリコンであるのかと、彼の趣味を疑うジルベルトだが、アランは異を唱える。


「何だ? お前もあんな跳ねっ返りで、幼児体型が好みなのか?」

「そうとは言っていませんが、一般的に見て容姿は可愛らしく、誰かの為にと奔走する姿は健気じゃないですか。あの年頃であそこまでしっかりと自分が出来ている子はそうそういませんよ」

「……お前は良い所しか目に付かないんだな」

「船長こそ、粗ばかり探しては円滑なコミュニケーションは取れませんよ」


 そんなのはお断りだと、できれば早く厄介払いしたいとさえ思うジルベルトは既に山となった灰皿に吸殻を突っ込んだ。






 一目で見て気になった少女、鳴鳥。

 彼女の世話を任されたコンラードは独房に鼻歌交じりでスキップしながら向かっていた。

 何時もなら拘束した者の世話など御免被りたい所であるが、今日ばかりは相手が相手だけあって楽しみな位である。


「(牢屋に無実の罪で囚われた少女……。お約束な展開としては看守に対して色仕掛けで……――――)」


 妄想を繰り広げるコンラード。

 そもそも鳴鳥には色気というものが備わっていないのだが、彼の妄想力は逞しくもあり、女慣れしていない彼ならば手を取られてだけで動悸は止まらなくなる。

 そして何より彼の想像を掻き立てるのは、鳴鳥が言ったある言葉であった。

 

「(何でもしてくれるっていう約束、交わしているんっスよね……!)」


 アルヴァルディから飛び出す際、鳴鳥は見逃す代わりに何でもするとコンラードと約束を交わした。

「何でも」と言われれば男であれば如何わしい事も思いつくが、そんな事を頼めば嫌われてしまうのは当然であり、そもそもコンラードにそんな度胸は無い。

 彼が要求できるのはせいぜい手を繋ぐ程度である。


「(何をしてもらうか……。むむむ……っ、これは一生に一度のチャンスかもしれないっス!)」


 いざという時にあがってしまい、手を拱いていて想いを告げる前に他の男に掻っ攫われたりしてしまう日々。

 それは今日で終わりだと、この絶好のチャンスを逃すまいと気持ちを引き締め、にやける顔も整えて鳴鳥が囚われている独房を訪れた。


「あれ?」


 扉の向こう側に居るのは女性であって、とりわけ重い罪でもない彼女にはプライバシーが守られる為、返事を貰ってからでないと立ち入れない。

 当然として覗き窓も閉められており、中の様子は窺えない。

 そういった状況で呼び鈴を押しても反応が無いのはおかしなことで、コンラードは首を傾げつつ考えを巡らせた。


「(はっ……! もしかして今、シャワーを浴びているとか!?)」


 そう思い至るが、シャワールームやトイレにも音声だけのインターフォンが付いており、返答は可能である。

 今手が離せないのならばそう答える筈だが何度か押しても返答はなく、沈黙を保ったままである。


「(も、もしかして中で倒れているんじゃ!?)」


 疑うという事を全くしないコンラード。

 彼は獣人種であって匂いを嗅ぎ分けたり、鋭い感覚を持ってはいるのだが、それは気になる女性の前では役立たずで、警戒せずにドツボに嵌る。

 相手が鳴鳥だったから良かったものの、これが犯罪者となると慌てて部屋に入ったコンラードは気絶させられて脱獄を許しただろう。


「ナ、ナトリさん……!?」


 返事をしなかった鳴鳥はベッドにうつ伏せで倒れていた。

 やはりただ事ではなかったのだと、青ざめた顔でコンラードは鳴鳥に近づき、そっと肩に触れて揺すって意識があるか確認を取った。


「……うぅ……ん……」

「…………へ?」


 瞳を閉じたままの鳴鳥。

 彼女は実に幸せそうな表情でいて、口からは涎を垂らしていて……。

 要は眠りこけているだけで、血相を変えていたコンラードは一転してへたり込んだ。

 呼び鈴を鳴らしても起きないほど深い眠りに就く鳴鳥。

 転移事故に巻き込まれて母星から見知らぬ土地に飛ばされ、盗掘者達との戦闘にも巻き込まれて。

 自ら飛び込んで行ったとはいえ、賊に遭遇したりと心休まるときは無く、ぐっすりと寝入ってしまうのは致し方ない事であった。


「(ふー……。何にせよ、良かったっス)」


 鳥籠の中で眠る小鳥のような少女。

 安らかな寝顔は見ている方も穏やかにさせて、ついつい見入ってしまう。

 暫く鳴鳥の寝顔を観察していたコンラードだが、はたとこの状況を顧みて異常な事態だと把握する。

 今の鳴鳥は無防備でいて、あれだけ呼び鈴を鳴らしても起きないという事は相当深い眠りに落ちている。

 それならば少々触れた所で目覚めはしなくて、先程軽く揺すっても目覚める気配はなかった。


「(い、今なら……、何でもやりたい放題……)」


 こんなチャンスは滅多に無い。

 普段から男所帯であるアルヴァルディに女性が居る事すらも珍しく、この機を逃せばいつ触れられるか分からない。

 それでも寝込みを襲うなど人として最低の行為で、本当に相手の事を想うのならばやってはならない行為である。

 だがそれ程意志が強くないコンラードには目の前の少女の誘惑に勝てそうもなく、身体が勝手に動き出してしまった。


「(す、少しだけ……。あ、頭を撫でるくらいは普通のスキンシップ……っスよね……)」


 サラサラとした栗皮茶色の髪は柔らかそうで、良い薫りがしそうで。

 思わず触れたくなる衝動には抗えず、手は伸びて行き、あと少しで届きそうになる。

 が、急に寝返りを打った鳴鳥に驚き、コンラードは慌てて身を引いた。

 触れられるかもしれないという期待と気づかれたのではと焦る気持ち。

 それらで鼓動は早鐘を打ち必死に平常心を保とうとするが、眉根を潜めた鳴鳥の寝言にコンラードは茫然とする。


「――――……ジル……ベルトさん……の…………意地悪……っ」


 夢の中でまでジルベルトに対し反抗する鳴鳥。

 確かに彼女の言う通りにジルベルトの態度は辛辣でいて、意地悪と思われても仕方が無い程で……。

 それでも夢の中でとは言え、今の鳴鳥はジルベルトの事を考えているようで、そこに自分は居ないのだと悟ったコンラードは気持ちの昂ぶりが収まってきた。


「(今はまだ……。手を繋ぐのも、髪に触れるのも、ちゃんと仲良くなってからじゃないと意味が無いっスよね)」


 そう考えなおしたコンラードはブランケットを身じろぐ鳴鳥に掛けてあげ、明かりを落として部屋を後にする。

 惜しい事をしたかもしれないと後ろ髪を引かれる思いでもあるが、触れる事はこの先の楽しみに取っておこうと、これからどんどんと距離を詰めていけるように頑張ろうと、気持ちを新たに職務へと戻った。

 なお、彼が鳴鳥をデートに誘えるのは当分先の話で、二人きりの外出は更に先の話になる事を当人は勿論知らずにいて。

 頭を撫でたり手を繋いだりなどは夢のまた夢であった。




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