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Xenoverse:EX  作者: 葉月はつか
After story
20/21

新たな旅立ち 3

 そんなこんなで結局奈々塚家に泊まる事となったジルベルト。

 二人はそれぞれ入浴を済ませて、鳴鳥の部屋で眠る事となる。


「……その、ジルベルトさん」

「ん? 何だ」

「父が色々と、すみません……」

「その事か」


 覚悟はしていたが、まさかここまで頑固であるとは思わなかったと。

 嫌な気分にさせてしまった事を鳴鳥は詫びるが、ジルベルトはその必要がないと首を横に振って否定する。


「男親というものはそういうものだろう」

「そう、ですかね……」

「そういうもんだ」


 実の所、ジルベルトは過去にも同じ経験をしている。

 それはソフィーリヤと交際していた時の事で、彼女の父、グェンダルには酷く嫌われていた。

 そうなった原因は自分の行いによるものなのだが、それ以前にグェンダルがソフィーリヤを溺愛していたのは多くの者が知っている事であって。

 ジルベルトも彼女と付き合うとどうなるのかは事前に分かっていた。

 その経験があった為にジルベルトは今回の事もそれほどまでショックを受けなかったが、寧ろ鳴鳥の事が気掛かりであった。


「俺は平気だが、お前は大丈夫か?」

「わ、私も平気ですよ」

「本当に?」

「……こうなるかもと予想はしていましたので」


 そうは言うものの、それは強がっているだけであって。

 先行きに抱く不安は伏し目がちな瞳に色濃く出ている。

 根気よく説得していくつもりではあるが、その前に折れてしまわぬように。

 ジルベルトは手を伸ばして自分の元へと鳴鳥を抱き寄せた。


「ジ、ジルベルトさん……!?」

「まぁ、なるようになるさ」

「そうですね……って、ダメですよ! さすがに今日は……――――」


 抱きしめたまま布団に倒れ込むジルベルト。

 彼の腕に包まれるのは幸せな事であって、鼓動が高鳴りもするが、心地よさもある。

 決して嫌という訳では無いのだが、壁は防音されておらず、すぐ隣の部屋には弟の棗が居る為、こういった事を続ける訳にはいかない。


「こうしているだけでも駄目なのか?」

「こうしている……だけ?」

「そうだ」

「それなら……いい、ですけど……」

「何だ? 物足りなさそうな顔をしているな」

「そ、そんな顔、していませんから……っ!」


 図星を指されてしまったが、素直に認める訳にもいかない鳴鳥。

 頬を赤らめていて目線を外し、慌てて否定した事から認めているも同然なのだが、素直になろうとはしない。

 そんな姿を見せられてしまえば抑え込んでいた欲望が沸き上がりもするのだが、ジルベルトは数刻前の鳴鳥の父の姿を思い浮かべて理性を保った。


「……結局、事情を説明する事しか出来なかったな」

「そうですね……。あの、そこで私から一つ案があるのですが……」

「ん? 何だ?」

「母と棗は今日の話も理解してくれたようですし、後は父を納得させるだけなので……」

「外堀を埋めるという訳か」

「はい」


 今回ジルベルトが鳴鳥の家族に会いに来たのはこれまでの事を説明するのと、もう一つ。

 これからの事を話さなくてはならないからであった。

 事情を明かすだけで難航したのだから、今後どうするのかを伝えれば尚康は今日以上に取り乱すだろうと容易に想像できる。

 これ以上ジルベルトには迷惑を掛けられないと、そう考えた鳴鳥は話がスムーズに進むよう提案をしたわけだが、本当なら家族が皆揃った場でこれからどうしたいのか、想いを伝えたい筈であった。


「それで、いいのか?」

「はい。そうする方が良いと、今日の事でよく分かりました」

「気を遣わせてしまったようですまないな」

「そんな事はありませんよ。寧ろ今後も父が気分を害するような態度を取ってしまう事を先に謝っておきます」

「お前が謝る必要は無いさ。……まぁ、なるようにしかならないだろうし、そこまで思いつめる必要もない。いざって時にどうするかは……決まっているだろう?」

「そう……、ですね」


 ジルベルトが口端を緩めると、彼につられたようで鳴鳥も口元が緩む。

 不安は完全に拭えたわけではないが、ここで二人が思い悩んでいても事態が良くなる訳でもない。

 今日はこれ以上考えるのを止めてゆっくり休んだ方が良いと、鳴鳥は自分のベッドに戻ろうとするが、それは腰に回された腕によって阻止された。


「このままで良いだろう?」

「やっぱり、そうなりますか……」

「嫌なのか?」

「い、嫌ではないです……っ。こうしていられるのは凄く嬉しいのですが……」

「どうした? 遠慮せずに何でも言って良いんだぞ」


 鳴鳥がジルベルトと一緒に、彼のすぐ隣で就寝する事は初めてではない。

 それでもやはりいつまで経っても慣れることは無く、ぐっすりと眠りに就くには時間が掛かってしまう。

 出掛けたり朝早く起きたり、疲れてくたくたである時はすぐに眠れるだろうが、今日は先程の事もあって目が冴えてしまっている。

 嬉しくもあるのだがせめて抱き寄せたままでなくて普通に並んで眠りたいと。

 面と向かってそのまま言うのは気が引けて、遠まわしにお願いをする。


「えっと……この体勢のままで眠るのはしんどくないですか? ……腕とか」

「問題ない。……お前は落ち着かないのか?」

「いえ、そんな事は……っ。でも、なんだか抱き枕になったような気分で……」

「抱き枕?」


 空のベッドへと少しばかり身を捩って目線を向ける鳴鳥。

 そこには長細いクッションが、黒色で獣耳が付いた微妙な表情の猫型抱き枕があった。

 もしよければ貸しましょうかと言う鳴鳥だが、ジルベルトは迷うことなく断る。


「俺はお前が居るからいい」

「わ、私は抱き枕なんかじゃありませんよ?!」

「ああ、知っている。だが、抱き枕にはこんな事はしないだろう」


 そう言って額にそっと口付けを落とすジルベルト。

 不意打ちを喰らってしまった鳴鳥は火が点いたかのように頬を赤らめてあわあわと慌てふためくが、ニヤッと笑うジルベルトの姿を見て冷静に、彼をギロリと睨み付けた。


「今日は抱きしめるだけだと言いましたよね?」

「そうだったか?」

「そうです!」

「固い事を言うなよ……」

「じゃ、じゃあ、キスまでなら……、いい……です」

「お前はそれだけで良いのか?」

「い、今はそれだけで……、良いんです!」


 結局なし崩しに。キスだけで済まなくなるのは何時もの事で。

 鳴鳥は二重の意味でドキドキとさせられてしまい、眠れぬ夜を過ごした。






 朝陽が差し込むオフィスビルの一室。

 出社時間にしてはまだ早く、室内に居るのはただ一人の中年男性であって。

 くたびれた様子の彼は遠い目をしてデスクに置かれているスマートフォンを眺めていた。

 そこに映し出されるのは家族との思い出で、子ども達の成長を収めたもので。

 カメラで撮ったデータをいつでも見られるようにとスマートフォンに移していたのであった。


「はぁ……」


 口から零れるのは深い溜息。

 昨晩から何度も吐いており、気が沈むばかりで良くないと妻にも注意されたのだが、それは止めようと思っても簡単には止められはしない。

 奈々塚尚康が朝早く出勤したのは、朝早くから娘と顔を合わせるのが気まずく、そして娘が連れて来た男の顔を見たくは無かったからだ。

 コソコソと逃げ回るようで実に情けないと自覚はあるのだが、やはり現実は受け止めきれずにこうして今に至る。


「あれ? 課長、早いですね。もしかして何か問題でも?」

「……ああ、お早う、三橋君。いや、問題など無いよ。ただちょっと、朝早く目覚めてね……」

「そう……、ですか」


 何時も早くに出社してくる若い女性社員、三橋。

 彼女は自分が一番ではなかった事に驚き、そして朝早くから沈み切った重苦しいオーラを纏う上司に驚いた。

 業務上において何かトラブルでもあったのかと思われたが、それにしては慌てた様子もない。

 そこまで深刻な事態であるのかとも考えられるが、そうなら誰も駆けつけていないのはおかしい。

 一先ずコーヒーを入れて尚康のデスクまで運んだ三橋は、そこで彼が気を沈ませている原因がなんとなく分かってしまった。


「娘さんがどうかされたのですか?」

「ああ……、実はね……昨晩――――」


 普段なら家庭の事情など酒の席でも愚痴る事は無いのだが、その日の尚康は打ちのめされきっていて、少しでも楽になりたいと、誰かに同意して欲しかったのだろう。

 前日より溜め込んでいた気持ちを溢し始めた。

 昨晩は娘の高校卒業祝いにケーキを買って早くに帰宅したが、そこに待ち受けていたのは娘が連れて来た男で。

 36歳とかなり年の差があって、職業は一般的なものでなくて危険が伴うもので……。

 流石に彼が宇宙からやって来て、鳴鳥と共に様々な苦難を乗り越えてきた話は出来なかったが、落ち込んでいた理由は理解してもらったようだ。


「そうですか……、娘さんが……。その、それ程性格に難があったのですか?」

「……それが無いんだよ。礼儀は正しくて、本当に娘の事を想ってくれているようで……。これが礼儀知らずのチャラチャラした若者なら簡単に追い返せるんだがね……」


 がっくりと肩を落としてまたもや溜息を吐く尚康。

 男親である彼の気持ちは女性であっても理解できなくもないが、やはり同じ娘の立場としては頑固な父親をもってしまった鳴鳥に三橋は内心同情した。

 ここは諭したい所ではあるが、相手は上司であっておいそれと口出しは出来ない。

 そのうえ今鳴鳥の肩を持つような意見を言えば、ただでさえ落ち込み切っている尚康を更に追い詰めてしまいかねない。


「――――この気持ち、分かってくれるかい?」

「え、ええ。前以て知らせておいてくれるなら覚悟を出来たでしょうし、いきなりというのはあんまりですね……」

「そう……! そうなんだよ! せっかく娘の高校卒業を祝おうとしていたのに、それどころじゃなくなってだね――――」


 その後始業時間まで愚痴を聞かされてしまう三橋だったが、面倒だとも、鬱陶しいとも思うことは無く、寧ろ尚康を哀れに思い、親身になって相槌を打っていた。

 それはこれまでの尚康の行いによるものであって、如何に彼が慕われているかが分かった。

 昨晩より溜め込んでいた鬱憤を愚痴という形で少しは晴らせたのか、始業時刻にはいつも通りの尚康に戻っていた。

 ……かのように思われたが、昼を過ぎ、終業時刻が近づくにつれ段々と気は沈み、上の空になっていった。

 仕事が終わるという事は自宅に帰宅するという事で、家に帰ればまた娘と娘の彼と顔を合わせてしまう。

 この日ばかりは早く終業時刻が来ないで欲しいと尚康は願っていたが、そういう時に限って時間は早く進むように感じてしまう。

 観念し、重い腰を上げて帰路に就こうかとしていた尚康だが、彼は部下達に呼び止められた。


「課長、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ。今日は色々と気を遣わせたようですまなかったね」

「いえ、そんな事は……。それより、今日はどうですか?」

「どうと言うのは……」


 部下達が声を掛けてきたのは飲みの誘いであり、自宅に戻りたくない事情がある尚康にとってそれは有難い誘いであって、断る理由は無かった。

 部下達も尚康の事情を知って誘った訳だが、どうやらその心遣いは良い方に転んだようである。

 酒は苦手でなく、よく飲む方で、酔って部下に絡むなんてことは無く、どちらかと言えば部下から相談を受けて答える事が多い尚康。

 けれどもその日は何時になくペースが速く、浴びるように飲んでしまっていた。

 そして酔っぱらった尚康は絡んでグチグチと愚痴をこぼすのではなく、逆に静かに、さめざめと泣くようであって、泣き上戸のようであった。

 普段は失敗をして落ち込んでいると慰められる部下達が今日は慰める方であって、複雑な気分ではあるようだが、これまでの恩は返しきれない程であって、皆は親身になって尚康の話を聞いている。

 沢山飲んで、沢山気持ちをぶちまける尚康。

 部下達のお蔭で幾分か気が楽になったようだが、飲み過ぎてしまった為、意識はあやふやに。

 悲しみを通り越して気分はハイに。帰り際にはニコニコと笑みを浮かべたままの異常な状態になってしまった。


「課長、大丈夫ですか……?」

「大丈夫……、ああ、大丈夫だとも~!」

「取り敢えず、ここで待っていて下さい。自分がタクシーを拾うんで」

「ああ、頼んだよ~」


 フラフラとした足取り。

 とても危うい様子を見兼ねて部下はタクシーを止めようとするが、少し目を離した隙に尚康は何処かへと行ってしまった。




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