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Xenoverse:EX  作者: 葉月はつか
After story
16/21

Summer days 4

 数カ月ぶりに逢う事が叶った鳴鳥とジルベルト。

 任務の合間を縫って休暇を申請して、はるか遠くの地球まで合いに来てくれたジルベルトだが、彼は風邪を引いてしまいデートは中断となる。

 本来ならばお互いに残念に思う所であるが、申し訳なく思うのはジルバルトだけであって。

 鳴鳥は気に留める様子もなく、寧ろ彼の看病が出来る事を嬉しく思っているフシさえあった。

 ジルベルトは断ったものの、こうと決めた鳴鳥は頑固でいて自分の意見は曲げず、結局朝まで一緒に、その上同じベッドで一夜を明かす事となる。

 シャワーを浴びて、髪も乾かし終えた鳴鳥。

 彼女がそっとベッドへと近づくとジルベルトは渋々といった表情でブランケットを捲り、彼女を招き入れた。

 ジルベルトが鳴鳥を遠ざけたかった理由。

 それは風邪をうつしてはならないという事が第一であったが、第二には一晩中我慢を強いられるからである。

 遠慮がちにだが身を寄せてくる鳴鳥。

 彼女からはシャンプーか、ボディーソープか、とにかく良い匂いがしてきて、ジルベルトの理性を崩そうとしてくる。

 当然として鳴鳥は自分が惑わしているなど思いもよらないようで、ただ傍に居られるだけで嬉しいのか、頬をほんのり色付かせて、目を細め、口元を緩めていた。


「……本当にすまないな。こんな体調でなければ色々としてやれたんだが」

「いえ、気になさらないで下さい。それにしても色々とは……?」

「例えば――――」


 そう言いながらジルベルトは手を伸ばし、横抱きに鳴鳥の身体を引き寄せる。

 すると今まででも充分に近くなっていた距離は更に縮められ、触れ合う面積は広くなり、温もりがじんわりと伝わる。

 身体に差し支えるからと言われて拒まれるかと思いきや鳴鳥は抵抗せず、寧ろ身を預けるように胸元へと顔を埋める。

 本当は引き寄せた後に色々な場所を撫でまわそうかとジルベルトは考えていたのだが、愛らしい姿を見せられれば下手な真似は出来ない。

 彷徨っていた手が落ち着いた場所は鳴鳥の頭で、撫でつけると彼女は嬉しそうに目を細めた。


「……こんな事しかしてやれないな」

「こんな事、じゃないですよ。こうして傍に居られて、私は凄く幸せです……!」


 それだけで十分なのだと言う鳴鳥。

 やはり情欲にまみれていたのは自分だけかと思い、情けなくもあったジルベルト。

 それでもここまで無垢な姿を見せられれば手を出そうとする気はそがれ、ムラムラとした劣情も収まった。


「……お前は無欲なんだな。そこは俺も見習わないと」

「無欲なんてこともありませんよ。ずっと逢いたくて、こうして触れて貰えるのは嬉しくて……。その、何というか……未だにこういう事に慣れていないせいか、今でもいっぱいいっぱいで、それ以上を考える余裕が無くて……」


 欲が無いわけではなく、今でも精一杯で余裕が無いのだと鳴鳥は言い、ジルベルトのように余裕が持てたらと思っているようだ。

 けれどもそれは鳴鳥の勘違いであると、ジルベルトは否定した。


「俺に余裕があるように見えるのか?」

「はい。……違うのですか?」

「恥ずかしながら、違うな。……今でも耐えているんだぞ」


 そう言いながらジルベルトは頭を撫でていた手を滑らせ、鳴鳥の顔の輪郭を辿りつつ親指で柔らかな唇に触れる。

 その仕草で彼が何を我慢しているのかを悟った鳴鳥は頬を赤く染めるが、申し訳なさそうに伏し目がちになった。


「お前がそんな顔をすることは無いんだぞ。体調管理を怠った俺が悪い。これは自業自得だ」

「で、でも、ジルベルトさんが体調を崩したのも、任務が続いていて休む間が無かったからですよね?」

「それは――――」


 確かに鳴鳥が言う通り、今回体調を崩した原因は先の任務に因る所が大きい。

 それでも鳴鳥に心配は掛けたくなく、あくまで自己管理がなっていなかったのだとジルベルトは言い、何度目になるのか分からない謝罪をした。


「心配を掛けさせたようですまないな」

「謝る事なんてないですよ。私はこれまで何度もジルベルトさんに助けて貰っていますし……。今日の事だって、少しでもジルベルトさんの力になれたのなら嬉しいです」

「少しだなんてもんじゃないさ。お前が居るだけで俺は――――」


 死と隣り合わせになる任務でも、どんな危機に陥ったとしても、愛する者がいるから生きる事を諦めずにいられる。

 立て続けに任務に就いて疲れていても、体調を崩そうとも、その声を聴けば、その姿を見ることが出来れば疲れや気怠さを忘れられる。

 何もしていなくても鳴鳥という存在はジルベルトにとって力となるものであって、なくてはならない存在であった。


「そんな……、私がだなんて……っ。で、でも、私にとってもジルベルトさんは大事な人で、こうしていられるだけで良くて……――――」

「こんな情けない姿を晒しても、か?」

「情けないだなんて……っ。人だったら誰もが風邪を引いたりしますし、それに、これは言っても良いのか微妙ですが……」

「ん? 何だ……? 言ってみろ」


 言葉尻が萎んでいき、目線を外す鳴鳥。

 何か言い難い事があるようであって、怒りはしないから言ってみろとジルベルトは続きを促す。

 すると彼女は躊躇いがちにポツリと本音を溢した。


「その……、病気で苦しんでいる人を前にして言うのもなんですが……。今のジルベルトさんは何だか……――――」

「俺が?」

「……か、可愛いですし……っ!」

「…………は?」


 怒られてしまうと思ったのか、鳴鳥はすぐさま冗談であると言い、誤魔化そうとする。

 一方でジルベルトは茫然とし、鳴鳥の言葉が理解できていないようであった。


「俺が可愛い? 一体何を言って……」

「で、ですから、今のは冗談で……っ」

「……それはつまり、弱っている者に対する庇護欲からそう見える訳だな」

「冷静に分析しないで下さい……っ」


 弱っている姿を可愛らしいと思うのが理解できない訳でない。

 実際の所、ジルベルトも今に至るまでで鳴鳥のそのような姿を目の当たりにして庇護欲に駆られてしまった事もある。

 それでも自分は30も半ばを過ぎた齢であって、オジサンと呼ばれてもおかしくはなくて。

 そのような者に対して可愛いとはどういう事だと、ジルベルトは鳴鳥の感性を疑いかけた。


「……や、やっぱり、怒っていますか?」

「いや、怒ってなどいない。ただ、そうだな……」


 身構える鳴鳥に恐れることは無いのだと言う代わりにジルベルトは口端を緩め、彼女の頭を撫でつける。

 可愛いと言われるのは不本意であるが、そう思われるような失態をしでかしているのは自分であって、相手の感性を疑うよりも我が身を省みなければとジルベルトは思い直す。


「(俺もまだまだだという訳だな……)」

「ジルベルトさん……?」

「いや、何でもない」


 決して頼りないと思われた訳ではないが、やはりカッコ悪い所は見せたくはない。

 自分の弱さを誤魔化す様にジルベルトは鳴鳥の額に唇を寄せて、その小さな身体を抱きしめて目を閉じた。

 取り留めもない話をしていても充分に満たされた気持ちなのだが、言葉を交わさなくても心地よく感じられる。

 抱きしめて、抱きしめられて、こうしていつまでも話しをしていたいが、ジルベルトは具合を悪くしていて、早く休んだ方が良い。

 今まで長々と付き合わせてしまったかと気づいた鳴鳥は申し訳なさそうに謝り、就寝の挨拶をしようとした。


「ん……? 俺はまだ眠くなどないぞ。睡眠なら夕方に十分とったからな」

「でもまだ熱は下がっていませんし……。明日の朝、朝食の用意を頑張りますから、ジルベルトさんもしっかりと身体を治して下さい」

「……その事を持ち出されれば言い返せは出来ないな」


 やれやれといった表情のジルベルトは大人しく休む事にしたらしく、よれていたブランケットを掛け直す。

 そしてもう一度、鳴鳥の額にキスを落として「おやすみ」と就寝の挨拶をして目を閉じる。


「おやすみなさい」


 枕元の明かりを落として、暗闇に包まれる室内。

 触れている肩からは熱が伝わり、穏やかな寝息は耳に届いている。

 やはり疲れていたのか、ジルベルトは程なくして眠りに落ちたようで、鳴鳥はその寝顔を覗き見ていた。


「(ジルベルトさんは寝顔も可愛いんだけど……。寝ている時なら本人は分からないかぁ……)」


 いくら獰猛な動物でも、寝ている姿というものは無防備でいて愛らしい。

 何時もは眉間に皺が刻まれている事が多くて、口はへの字でいて。

 まさに仏頂面なのだが、今では眉間に皺は無く、口元も緩んでいて、人畜無害な様子であった。

 彼は否定したがやはり可愛い所はあるのだと再確認した鳴鳥。

 満足気であった彼女だが、薄く開いた口に視線は注がれ、何とも言えない気持ちになりつつあった。


「(……無欲、なんてことは無いんだけどなぁ)」


 確かに今でもジルベルトに翻弄される事が多い鳴鳥。

 何かを望む余裕などないと言い張ったが、こうして彼が眠っている時、離れていて一人きりの夜などは色々と、はしたなくも感じる欲が膨らんでくる。

 風邪を移してはならないと気を遣ってか、ジルベルトは口付けを唇にはしなかった。

 それは思い遣っての事であって、本来なら喜ぶべき事なのだが、鳴鳥は物足りなさを感じてしまうのである。


「(……キスだってしたいし、それ以上の事だって……。ただ、恥ずかしくて言えなかったり、行動に示せないだけであって、本当は――――)」


 規則的な寝息を立てているジルベルト。

 彼は不死の力を得ていた時とは違い、普通に睡眠もとるようになっていて、今は狸寝入りではないだろうと思われる。

 その姿は無防備でいて、今ならどんなことをしても咎められることは無い。

 そもそもジルベルトならば鳴鳥が何をしようが呆れつつも許してくれるだろうが、ニヤニヤと笑ってからかってくるのは想像できる為、起きている間はこちらから手を出しにくい。


「(……少しくらいなら、良いよね)」


 いけない事だと分かっていても止められない。

 鼓動が激しく脈打つが、落ち着かせるためには欲望の赴くままに行動するしかなかった。


「(早く良くなってくださいね……)」


 具合が良くなるようにという想いも込めた口付け。

 軽く触れただけでも鳴鳥にとっては自分からした初めてのキスであって、それだけで十分に満たされてしまった。






 二人で迎えた朝。

 ジルベルトよりも早く目覚めた鳴鳥は彼を起こさないように気を遣いながらベッドを抜け出し、身なりを整えて朝食の準備に取り掛かる。

 具合が良くなれば昨晩のような病人食でなく手料理を沢山振る舞うと約束したが、眠ったままのジルベルトの体調は傍目では分からない。

 取り敢えず朝食も食化に良いものを、生野菜でなく温野菜のサラダ、昨晩煮込んでいたミネストローネ、優しい味わいのミルクリゾットと。

 本当はもっと品数を増やしたくもあったが、病み上がりに食べ過ぎるのも良くないと思い、品数は少なくしておく。


「――――相変わらず、起きるのが早いな」

「あ、ジルベルトさん。おはようございます」

「おはよう」


 のっそりと起きてきたジルベルト。

 動きはゆっくりとしていて、ぼうっとした表情だが、それは寝起きであるからで、体調が悪いという訳ではなさそうだ。

 鳴鳥が手を伸ばして額に触れてみると昨日のようには熱くはなく、熱は下がったようである。


「具合はどうですか?」

「この通り、良くなった。……お前のお蔭だな」


 その言葉は本当らしく、無理をした様子はない。

 ホッと胸を撫で下ろす鳴鳥の頭をくしゃっと撫でつけたジルベルトは看病の礼を言い、口端を緩めた。


「もうすぐ朝食が出来るので」

「それじゃあ顔でも洗ってくる」

「はい……っ!」


 体調も良くなり、食欲も完全に回復したようで、ジルベルトは朝食を残さず食べた。

 スープとリゾットはお代りをするほどで、やはり風邪は完治したようである。

 朝食を終え、鳴鳥はキッチンにて洗い物を、ジルベルトはシャワーを浴びにバスルームに向かう。

 鳴鳥が片付けを終えた頃、丁度ジルベルトも汗を流し終えた。


「チェックアウトまではまだ時間があるな」

「そうですね。えっと、どうしましょうか?」

「そりゃ、決まっているだろう」


 そう言うや否や、ジルベルトは鳴鳥の身体を軽々と抱え上げ、ベッドにゆっくりと下して身を横たえさせる。


「ジ、ジルベルトさん……?」

「我慢を強いたようですまなかったな」

「わ、私は別に、我慢など……」

「そうなのか?」


 慌てて鳴鳥は起き上がろうとするが、繋がれた手を押さえられ、浮きかけた背中が再びベッドに沈む。

 こういった事を全く期待していなかった訳でなく、寧ろ望んでいたくらいであって。

 素直に受け入れるべきなのだが、やはりいつまでたっても気恥ずかしさは拭えない。

 思わずついて出た言葉は否定的なものであったが、ジルベルトには全て見透かされているようであって、彼はニヤニヤと笑い鳴鳥の上から退こうとしない。


「寝込みを襲うくらいなのにか?」

「え……!?」


 どうやら昨晩の事は気付かれていたらしい……と言うよりも、何時ぞやのようにジルベルトは狸寝入りをしていたようだ。

 恥ずかしさからか鳴鳥は頬を紅潮させていて、そんな顔は見られたくないと目を瞑り顔を背ける。


「恥ずかしがることは無い。前にも言ったが、お前から触れられるのは嬉しいんだぞ」

「は、はい……」

「それで、お前はキスだけで満足なのか?」


 意地が悪い問いかけ。ジルベルトからしてみれば無理強いはしたくないから同意を得たいのだろうが、鳴鳥の口から言わせたいという気持ちもあるのだろう。

 余裕の笑みのまま答えを促すジルベルトに対し、鳴鳥は頬を膨らましてねめつけつつ誤魔化そうとする。


「……病み上がりで、お体に障りますし」

「いや、身体はもう大丈夫だ。それよりも我慢する方が身体に悪くてな」

「そ、そうですか……――――ん……っ」


 余裕そうに見えた表情。

 だがジルベルトも我慢の限界に達していたらしく、焦りが見え始め、それは行動として示されて徐々に顔が近づく。

 首元に埋められた顔。唇が触れる感触。段々と荒くなる息遣い。

 首筋を下から上へと順にキスを落とされ、頬に、額にと唇が何度も触れるが、鳴鳥の唇には決して触れない。

 やはりまだ、彼は答えを欲しているようで鳴鳥が素直にならないとこのままお預け状態が続くようだ。


「ジルベルトさん……っ」

「ん……? ……どうした……?」

「――――……しい……です……」

「良く聞こえないな」

「……して、欲しいです……っ」

「何をだ?」

「…………き、キスを……っ」

「キスなら今でもしているだろう?」

「それは……! その……っ、そうですけど……」


 頬はこれ以上無い程に赤く染まっていて、目元には薄っすらと涙を浮かべていて。

 流石に冗談が過ぎたと気付いたジルベルトはこれ以上言葉を引き出そうとせず、優しく頭を撫でつけ、唇を重ねた。


「悪かったな……」

「わ、私の方こそ、その……素直になれなくて……」

「いや、まぁ、お前は今のままでも良いんだ」


 鳴鳥は直ぐに考えを表情に出してしまう為、言葉にしなくとも何を望んでいるのか大体わかる。

 それでもやはり無理はさせたくなく、何が嫌なのか、何を望むのか、本人の口からジルベルトは聞き出したいようだ。


「……恥ずかしながら夢中になると周りが見えなくなるからな。嫌な時は叩いてでも抵抗して欲しい。……それから、俺ばっかりが良い思いをしているような気がしてだな……」

「そんなことは無いです……! ……私は充分幸せですから……」

「本当に?」

「はい……っ。あ、でも……」

「でも?」

「意地悪はほどほどにして下さい」


 やはり先程のはやり過ぎてしまったと、咎められてしまったジルベルトは素直に謝り、そして彼女が望むものをもう一度。

 今度は深い口付けを交わした。




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