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Xenoverse:EX  作者: 葉月はつか
After story
14/21

Summer days 2

 星団連合軍本部があるアストリアから離れ、星の海を航海しながら任務に就く日々を送るアルヴァルディの一行。

 別次元、マギイストの侵攻を食い止めた後、星々が蘇るのを見届けてから彼らは休息もそこそこに通常の任務へと戻った。

 ARKHED(アルケード)という大きな戦力を失い、ジルベルトは不死の力も失った。

 今では他の兵と同様にARKS(アークス)にて戦場に赴く事となった彼だが、戸惑うことは無かった。

 もともとARKS(アークス)の操作に長けていた彼だからこそ、大きな力を失ったとしても臆することは無かったのだろう。

 これまでと同様に任務をこなす毎日。

 男所帯であるアルヴァルディには華が無く、食事も味気ないインスタントばかりで、皆は口には出さないが、かつてこの船に居た少女の事を想い、懐かしむ気持ちでいた。

 死と隣り合わせの任務をこなしつつ日々を過ごす中、ジルベルトの元へ一つの任務が舞い込んでくる。

 今回の任務は荒事ではなく潜入捜査で、行き先は後進惑星となっていた。


「……これは?」


 ジルベルトの元へと送られてきた今回の任務の資料。

 その中の一つに紛れ込んだのかと思われる位に不釣り合いなものがあり、彼は眉をひそめた。

 任務の内容は後進惑星にて不法滞在をする者を捕える事で、その者の所在を確認した理由は一つのデータであった。

 上官であるヘニングも今回の任務については少々呆れ気味でいて、それでもいい機会だと、これを口実にひと時の休暇を楽しんでくるといいと彼は言った。


「(相手はさして戦力を持たない楽な相手だと聞いていたんだが……)」


 任務地の星、アストリアから遠く離れた辺境の星。

 その蒼い星は地球と呼ばれ、その中でも小さな島国である日本という国の首都へジルベルト達は降り立った。

 ターゲットが潜んでいると目される場所に赴いたのはジルベルトとマリアンとコンラードで、アランとスティングはアルヴァルディにて海中で待機となっている。

 暗い海の底で待機よりも外に出た方がマシであると思っていたマリアンは現地に着いてから後悔し、ジルベルトもウンザリとした表情を、早くもこの場を立ち去りたいとさえ思い始めていた。

 本来なら海の傍で、潮風が香る場所で。

 遠い先に見える逆三角形を四つ並べた建物も興味が惹かれる形なのだが、そんな事はどうでもよくなる程に人が溢れていて。

 まさに人混み。人がゴミのようでいて、むせ返る様な人の熱気にジルベルトとマリアンは早くもギブアップ寸前であった。


「おぉ! ここのブースはロボット作品を扱っているんっスね」


 既にグロッキー状態のジルベルトとマリアンとは違い、コンラードだけは何故か元気そうで、彼はこの会場にて行われるイベントのカタログを熟読していた。

 よくよく思い起こせばコンラードは休みとあらばジャンクパーツに溢れた蚤の市に出かけたりと、人混みには慣れているようで、このような状況下でも平然としていられるようだ。


「(早く終わらせてしまいたい……)」


 長蛇の列に並び、まだ始まらないのかと苛立ちを感じ始めていた頃、アナウンスが流れ、盛大な拍手が始まる。

 取り敢えず周りに合わせて拍手をするジルベルト達だったが、地獄はここから始まった。

 開場と共に雪崩れ込む人、人、人。

 目的地である場所までのルートは把握しており、迷う事はない筈であっったが、途中のブースに並ぶ列が突き出していたり、我先にと急く者やふと立ち止まる者も居て、人波に揉まれた結果、ジルベルト達は見事にはぐれてしまった。


「(ったく、アイツらときたら……。仕方がない。俺一人で向かうか)」


 このイベントに参加する不法滞在者はさして武力を持ち合わせていないと目されている。

 と言うのもこの国においては小さなナイフを携行する事すら難しく、文房具のカッターナイフですら鞄の中に入っていたら警官に用途を問われる位に厳しく、銃器など持っているとは考えにくいからである。


「……アレは。何だ……?」


 ふと天井を見上げるとうっすらと霞んで見えて、目にゴミでも入ったのかとも思われたが、目を擦って再度見上げるとやはりそこにはモヤがかかっていた。

 それがこの会場を訪れた者達によって発生しているモノだと気付く頃、ようやくジルベルトは目的地に辿り着いた。


「(ターゲットはあれか……)」


 昼過ぎ。目的の地点まで到達できたジルベルトはターゲットから少しばかり距離を取り、様子を窺う。

 その者、二十代後半の男性は眼鏡を掛け、パッとしない面でいて、衣服は地味で。

 全くと言って良い程目立ってはおらず、この会場に紛れれば周りと見分けがつかないようないで立ちであった。

 一見すると犯罪者に見えないような、人畜無害そうではあるが、彼は法を破りこの星に住み着いて秘密裏に活動をしている。

 その活動というものはある意味厄介で、ジルベルトとしては小一時間問い詰めたい所であって、故にヘニングはこの任務を彼に振ってきたという訳でもある。

 そろそろこのむせ返る様な空気の人混みともサヨナラをしたい。

 この任務が終われば愛しく想う者に会うことが出来ると気持ちを切り替え、フラグを立てつつもジルベルトはターゲットに近づいて行った。

 丁度最後の一冊が売れてしまった頃。

 簡素なテーブルに居た者は近づいて来たジルベルトに申し訳なさそうな顔を向けた。


「すみません~。新刊は今さっきので完売です。旧刊とグッズなら……――」


 まどろっこしい前置きは無しだと、ジルベルトは単刀直入にターゲットへと身元の確認を行う。

 その言葉はこの国の言葉ではなく、アストリアでの公用語で。

 星団連合に属する先進惑星の出身者ならば分かる言葉であった。

 この国の者には外国語に聞こえたらしく、売り子たちは戸惑ったようであるが、ターゲットである者は目を見開いて、顔を青ざめさせた。


「……え、えっと、外国の方ですかね。わ、わざわざ遠い所を……、ご、ご苦労様です……。し、新刊は売り切れで……――」

「……話を聞きたいだけだ」


 肩を組むようにして引き寄せ、彼だけに見えるようにしたのは小型端末で。

 それには星団連合軍所属である証明が表示されていて、ターゲットはますます表情を曇らせる。

 しらばっくれてやり過ごす事も出来る筈だが、自身が罪を犯していて、ジルベルトからは逃れられないとターゲットは悟ったのだろう。

 大人しく言う事を聞くと震えた声で了承し、傍に居た売り子達に席を外す旨を伝えた。

 会場の端の端。

 袋小路に追い詰められた小動物のようなターゲットは肩を震わせながら、視線を泳がして尋問を受ける。


「まずは名前の確認から。ここではタロー・タナカと名乗っているらしいが、本名はハンス・シュミット……。これも偽名臭いが、本名なのか?」

「そ、そうですけど! 失礼な方ですね」

「失礼だと? どの口が言う」

「ぼ、僕は別に……! ……この星で無許可に資源を採掘したり、生態系を崩したり、政治的介入をして国家を牛耳るつもりもないんですよ!?」


 不法滞在をしていることは認めるが、自分は何らこの星に影響は与えていないと。

 そもそもこの星に降り立った経緯は、不時着によるものであって故意ではなかったと。

 助けに来なかった連合側が悪いのだとハンスは主張する。


「……この星系には一般船籍は立ち入れない筈だが?」

「……そ、それは……っ」

「それに、お前の言う不時着時期であるならばこれはどう説明する?」


 鋭い眼光を向けつつジルベルトが突きつけたのは画像データである。

 それを見せつけられたハンスは言葉を詰まらせ、視線を外し、拭うのが追い付けない程の汗を流す。

 ジルベルトが手にした小型通信機に表示された画像。

 それは少女のイラストで、栗皮茶色の髪でいて、髪型はツーサイドアップで。

 可愛らしく描かれているようだが、頬は紅潮して、悶えているような表情で。

 肌色の面積は広く、更には触手が身体に巻き付いている如何わしいイラストであった。


「この絵に見覚えは……あるよな」

「……うぐっ! ……さ、さぁ。何処のどいつがそんな如何わしいものを描いたのやら……」

「この絵柄、さっきお前が居た場所に在った薄っぺらい本の絵柄とよく似ていると思うがな」

「こ、こういったイラストはよくある絵柄だから……っ! いや~……それにしてもよく似ていますね~」

「……まだしらばっくれるのか?」


 往生際が悪いと。ジルベルトはハンスに迫り、彼は逃げ場を失うように壁へと追い込まれる。

 ダンッと壁に手を付かれて見せつけられたのは文字列で、それは言い逃れが出来ないような証拠であった。


「この漫画の奥付とやらに記されているのはお前が属するサークルとかいう名と同じだろう?」

「…………」

「で、この女は誰がモデルだ?」

「……モ、モデルなど……っ、いません……よ? この作品は創作であって、実在する人物とは関係な――――」

「そうだよなぁ。この女によく似た奴を知っているが、この胸は盛り過ぎだしなぁー」


 同意をしていて、一見するとにこやかに見えるが、ジルベルトの目は笑っていない。

 それどころか彼の背後には怒りの炎がメラメラと燃え立つのが見え、会場は蒸し暑い筈だがハンスは背筋に寒気を感じた。

 星団連合軍に目を付けられたという事は、洗いざらい吐くしかなく、逃れようもないのだが、それでもまだしらばっくれようとするハンス。

 胸ぐらを掴んで脅しを掛けたい所だが、ここは衆目に晒される場であって、派手な真似は出来ない。

 精々顔を近づけて眼光を飛ばすくらいしか出来ないのだが、そこで背後から妙な気配を感じ取った。


「ほらあれ、痴情の縺れ?」「オヤジ攻めのヘタレ眼鏡受け!?」


 少しばかり離れた所でチラチラとこちらを窺いながら騒ぎ立てる女子達。

 悪口を言っているようではないが、彼女達の視線は気にせずにはいられないもので、背中に突き刺さる様である。


「何だ? アイツらは……」

「はぁ……。貴方が僕に近付き過ぎるからですよ。さっきの壁ドンからの至近距離の見つめ合い……。ここにはああいった女性が居るから脳内でカップリングされてもおかしくはありません」


 全ての女性がそうである訳ではないと付け加えつつハンスは距離を取り、状況を察したジルベルトも引きつった表情でそそくさと身を遠ざける。

 兎にも角にも、この会場はジルベルトにとって魔境であるかのように感じられ、一刻も早く立ち去りたい。

 こうなれば尋問は後にしようと、ハンスを連れ出そうとするが当然として彼は頑なにこの場を動こうとしない。


「ぼ、僕は帰りませんよ……! やっとの事でここまで来て、しかも商業の話まできていて……。こんなチャンスを前にここから離れる訳には……っ!!」


 柱にしがみついてでも動こうとしない程にこの場に留まりたいと、戻る訳にはいかないと言い張るハンス。

 彼がそこまで入れ込む物を理解できないジルベルトだが、震えながらも信念を曲げない姿はある者の姿と被って見えてしまい、どうにも無下には出来ない。

 やれやれと溜息を吐くジルベルトはハンスを落ち着かせるように宥めた。


「そのつもりは無いんだがな」

「へ……?」


 そもそも彼は一度も連行するとは口にしておらず、ただ話を聞きたいとしか言っていない。

 必要以上に警戒をしていたハンスだが、彼がそうなるのも無理はなく、後進惑星に不法滞在している者は本来ならば問答無用で拘束される筈である。

 どういう事だと問い詰めようとするハンスに対しジルベルトは書状を、上からの指令状を見せた。


「後進惑星駐在員任命書……? ……僕宛の」

「ああ」

「これはどういう……――」


 後進惑星の定義は他の星へと行き来できる程の科学力、他の種族とコミュニケーションが取れる知能レベル、ある程度の経済水準とされている。

 今現在ジルベルト達が降り立っている地球は後進惑星とされており、それは一番目と二番目の条件を満たしていないからであった。

 現在地球では惑星を飛び立つ技術は有していても、文化圏のある他の惑星までは到達できていない。

 その為他の種族との接触を果たしておらず、後進惑星のままである訳で、本来ならば介入は禁止されているのだが、例外はある。

 それは星団連合に害をなす星、もしくは惑星自体が消滅しかねない環境下である場合で、その際は介入も辞さないのである。


「まさかこの星が……!? そんな馬鹿な……っ」


 そんな筈はないと驚くハンス。

 この星は平和であると言い切れるほどではなく、不安定な情勢の国も幾つかある。

 けれども他の星に侵攻するような兵力も無く、害はないかのように思われるが、考え直せば思い当たる事が無いわけでもなかった。


「核兵器の事を言っているのですか……? 確かにあのエネルギーは土地を汚染するタチの悪い物ですけど、この星が全て焦土と化す可能性は……」

「その件についてはさほど重要視されていない。問題は別の所にあるんだ」


 説明が不得意なジルベルトは少々面倒臭そうに、後ろ頭を掻きながらこちら側の事情を説明する。

 先の戦い。マギイストからの侵攻は秘密裏に行われており、表立って明らかになる以前、数十年も前からエルンストは観測装置オブザーベイションシステムを用い、この世界を観測し続け、人々の営みに介入してきた。

 そして侵略者にとっては法など通じる訳もなく、彼らは後進惑星へと降り立つこともあり、結果として久城はARKHED(アルケード)を得て母星を滅ぼすに至った。


「後進惑星にも、いつまた侵略者の手が伸びるか分からない。全ての星を支配下に置く訳ではないが、何名か、監視者が必要だという結果になってだな」

「それで、僕が……? その駐在員に……」

「ああ。お前の前歴……、軍学校を卒業した上で調査部に属していた事も把握している。趣味に走り過ぎて無断欠勤が続き、仕舞いには蒸発するように姿を消したらしいが……」

「……」


 残念な者を見るような目で見つめるジルベルトに対し、ハンスはバツの悪そうな表情で目線を逸らす。

 やれやれと溜息を吐くジルベルトはその能力、調査部に属していた事と、この星の住人として周囲に溶け込んでいたのを見込んで取引を持ちかける。

 これまでの不法滞在については目を瞑り、今後は正式に。

 星団連合軍からの駐在員として定期的に情報を送る事、有事の際にはいち早く知らせる事。

 それらの職務に対する報酬が払われるなど悪くはない条件であり、断る理由は無いかのように見えた。


「…………原稿が」

「ああ、さっき言っていた商業デビューの話か。それならばこちらの職務で得た金でアシスタントでも雇えばいいだろう? 今はアルバイトをしながら生活をしているとも聞いているが、条件を呑んだ方が生活も楽になるだろう」

「そ、それはそう、ですけど……」

「何を悩むのか知らんが、条件を飲まなければこちらにも考えがある」

「……へ?」


 再び鋭くなる目つき。

 ハンスが首を縦に振らなければ彼は強制的に連行され、この星には他の者が駐在員として派遣される。

 これは交渉ではない、断るという選択肢は用意されていないのだと気付いたハンスはがっくりと肩を落とし、了承するに至った。


「それじゃ、また。日を改めて詳しい話と機材の引き渡しを。取り敢えずこの通信機を渡しておく」

「……はぁ」

「言っとくが、簡単に逃げられると思うなよ」

「に、逃げたりなんかしませんよ!」


 それならば良いと、ジルベルトは小型通信機を手渡したのちに背を向け、立ち去ろうとした。

 遠ざかる姿にハンスはホッと胸を撫で下ろし、自分のサークルへと戻ろうとするが、下がりきった肩をグッと掴まれ、その場に留めさせられた。

 恐る恐る振り返った先。

 そこには笑みを浮かべたジルベルトが立っており、彼が肩を掴んだ力は徐々に強くなる。


「言い忘れていたが、さっき証拠として見せた漫画は今後流通させるな。それから、もう二度とあの女の漫画は描くなよ」

「……え? そ、それは……」

「いいな?」

「あ、はい……っ! もう二度と描きません!!」


 眼光だけで殺せそうなほどの鋭い瞳で射抜かれ、ハンスは何度も何度も頷いて見せ、今後あの少女の漫画を描くことは無いと誓った。


「(……はぁ。この星で、この国で、新たな人生を歩めると思っていたのになぁ)」


 重い足取りで歩くハンス。

 ここはジルベルトにとっては地獄のような場所であるが、ハンスにとっては夢と希望が詰まった場所である。

 自分の作品が認められ、作品を通して想いが繋がる。

 今日もまた、多くの人に自分の作品を手に取って貰え、この上ない満足感を得ていたのだが、そこからの急落に心労は絶えない。

 一応身の安全は保障されて罪に問われることは無いかと思われるが、捨てた筈の過去は捨てられなかったようで、いつまでも付いて来るようである。


「(それにしても、さっきの軍人。誰だったかな……。どこかで見た事がある様な気が――――)」


 出回ってしまった自分の同人誌に描かれた少女に対し妙にこだわる中年の男。

 彼が何者であるのか、ハンスが知るのは程なくしてであった。






 本日の任務をこなしたジルベルト。

 蒸し風呂状態である会場から外に出れば気分も晴れるかと思いきや、照り付ける太陽とじっとりとした暑さは変わらず辟易とする。

 取り敢えず涼める店にでも避難しよう。

 そう考えたが一人で立ち去る事も出来ない。

 はぐれてしまったマリアンとコンラードは何処に居るのかと苛立ちつつ通信機を手にし、所在を確認しようとするが、二人は応答しなかった。


「(……ったく、どいつもこいつも)」


 舌打ちしたジルベルトは知ったこっちゃないと、マリアン達を残したまま会場を去ろうともするが、ここで何か問題を起こせば上官である自分が責を問われると思い至る。

 厄介事を抱える前にと、ジルベルトは小型端末が発信する信号を頼りに二人の位置を特定して向かおうとするが、運が良いのか悪いのか、二人はさほど離れていないエリアに居るようであった。


「(……仕方ない。……手間を掛けさせやがって)」


 内心愚痴をこぼしながら向かった先。

 そこはまた、ジルベルトにとっては異様な光景が広がっていた。

 この国、日本では生まれつき黒髪の者が多く、髪を染めたとしても茶髪や金髪で、緑や赤、青色などは珍しくあった。

 それがこの会場では様々な髪の色をしていて、衣服もこの国の文化からはかけ離れたもので。

 更には大剣などの武器を手にするなど、異界に迷い込んだような気にさせる場所であった。


「(これは……コスプレというものか)」


 この星に来る以前にもそういったものがあるのは知っていたジルベルト。

 せいぜいジャポーネのようなその土地独自の衣服を着て楽しむ程度だと認識していたが、そういったのとは違うようであった。

 ポーズを決める者に向けられるカメラの数々。

 クオリティーが高いというのか、キャラクターになりきる者は多くのカメラを構えた者に囲まれていた。


「(この会場に居る筈だが……)」


 信号を辿った先。そこには人だかりが出来ていた。

 嫌な予感を覚えつつも何があるのかを後ろから覗き見た結果、ジルベルトは硬直した。

 人だかりの中心にいたのは緑髪の、垂れた犬耳を生やす者で、その者はオレンジ色を基調とし、リボンが幾つも付いたフリフリで可愛らしい衣装を着ていて、引きつった笑みを浮かべてポーズをとっていた。


「(他人のフリをしよう……)」


 何かの見間違いだと、そう結論付けたジルベルトは立ち去ろうとするが、中心に居た者に気付かれてしまい、駆け寄ってきたその者に手を掴まれこの場に留めさせられた。


「せ、せんちょお~!」

「ひ、人違いだ」

「そんなわけ無いっス! 助けて下さいよ~! な、仲間じゃないんっスか!?」

「女装趣味がある知り合いは……――居るにはいるが、お前のような奴は知らん!」

「そ、そんなぁ……。酷いっス……っ!」


 ジルベルトは関わり合いになりたくないと、助けを求めるコンラードを振り払って逃げようとした先、そこには多くの女性に囲まれた者の姿が。

 これまた知り合いで、探していた者と遭遇した。


「あら、せんちょ……じゃなくて、ジル。奇遇ね」

「お前はこんな所で女を侍らせて何をしている」

「もう。勘違いしないで欲しいわ。この子達は侍らせている訳じゃなくって――」


 ジルベルトとはぐれた後、マリアンは手洗い場で知り合った者達へと化粧の手ほどきをしてあげた事により意気投合し、今現在彼らと共にイベントを満喫していたようだ。


「は……? 手洗い場で……って、とするとそこに居る女達は……」


 よくよく見ればマリアンの傍に居る者達の中には、女性らしくない骨格の者も居る。

 その事実に気付いたジルベルトは引き気味に、表情を引きつらせて距離を取る。

 一方、コンラードはというと、人波に揉まれた拍子に被っていたフードが外れ、隠していた犬耳が露わになってしまったが、この場ではコスプレだと思われたようで。

 大事には至らず、更には似たような容姿のキャラクターが存在しているらしく、欠員したグループのメンバーに目を付けられ、着替えさせられたようであった。


「取り敢えず、今日の目的は果たした。お前達は楽しむだけ楽しめばいい」

「え……!? そ、そんなぁ……!!」

「分かったわ。それじゃあね」


 呆れ果てたジルベルトはこれ以上付き合っていられないと立ち去る。

 遠ざかり、人混みに紛れて消えゆく背中に放置されたコンラードは涙ながらに手を伸ばして助けを求め、マリアンは笑顔で手を振りジルベルトを見送った。




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