死体で呼ばれた勇者の物語
久しぶりに単発ネタを……。
その日、衝撃を受けた。
キキィィ――ッという甲高い音と共に横からズドン――と。
それに吹き飛ばされた俺は10数mほど吹き飛ばされたと思う。
朦朧とする意識の中で、何が自分に害を為したのか最後の力を振り絞り確認する。
「く、なんだ、よ……。バキュームカー……って、そりゃ、ない、よ……」
せめてトラックにして欲しかった。
それが俺の辞世の句だった。
俺は自身の死体からぬぅっと起き上がる。辺りを見回すと、無残な俺の死体が見える。
あーあ、やっぱ死んじまったのか。今の俺は幽霊というやつなのだろう。
『だが、横転して排泄物があふれ出なかったのは幸いだったかな。クソ塗れで死ぬとあらば、俺は死んでも死にきれなかったな……』
車から急ぎ運ちゃんが駆け出てくるのが見えるが、だからどうした? って感じだな。もう死んじまったし。
その時だった。
俺の足下から強烈な光があふれ出す。
『な、なんだこれはっ!? まさか、天国への召喚か!』
綺麗な天使のお姉ちゃんか、ダイナマイツなボディの死神ちゃんが迎えにくるとばかり思っていたのだが、どうやら違うようだ。さすがにこの展開は予想してなかったぜ。
『いや、待てよ……。まさかコレは――ッ!?』
その言葉を言い終えるより前に光が俺を包み込む。
ぐっ、吸い込まれるっ!?
もがき、抵抗するも、身体が何一つ自由にならず、俺は地面の中に引きずり込まれてしまう。
行き先は地獄。そうだ、そうに違いない! 地の底は地獄と決まっているのだから。
しかし、俺には何一つ悪いことをした覚えがない。無実の断罪というものなのだろうか。くそっ! こんな事ならばもっと悪いことをしておくべきだったかな!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おお、成功だ! 成功したぞ」
「これでワシらの悲願を」
「ええ、皆様。よくやってくださいましたわ」
三者三様、おっさん、ジジイ、おねーちゃんの声が響く。
光が収まるなり俺は瞼を開く。するとそこには聴覚が捉えたとおりの人物が佇んでいた。
「こ、これは――っ!」
「ば、バカなっ! こんな事があって……」
「ヒ、ヒィィィィッ! し、しししし死体」
おっさんは絶句し、ジジイは頭を抱え現実逃避をし、綺麗なおねーちゃんは腰を抜かしワナワナとしている。
ま、そりゃそうだよな。目の前に急に死体が現れればビックリして当然のことだ。俺だってそうならないとは言い切れない、それが俺の死体だって事実を除けば。
とはいえ、俺も情況がよく分かってないんだけどな。地獄に突き落とされたと思ったら、そんな感じじゃねーし。
俺は浮遊しながら周囲を確認する。
辺りは松明が設置され周囲を照らされているところを見ると、電気はないらしい。床は石作り……ていうか、全面石がむき出しになっている。
ざっと見たところ、石で作られた建物の室内ってところかな。空間は少し広いので圧迫感はないのが幸いだ。そうでなければこんなジメジメとしたところは早々におさらばしたいところだった。
が、俺を除けば恐怖以外何物でもないだろう。そんな一室の中に死体とそこから広がる血が真ん中にポツーンとあるのだから。どこの拷問室だって話だ。
その周りには円で囲われた、文字のような何かが刻まれてはいるが、段々と俺の血で塗りつぶされて行っている。
そんなことを確認していると、俺以外の人物に動きがあったようだ。
「ひ、姫さま、お気を確かに」
「そうですぞ。勇者召喚は間違いなく成功したのですぞ。そりゃ、勇者が死体だったというのは誤算じゃったが」
しくしくと泣いている綺麗なおねーちゃん改めお姫様は、おっさんの慰めを受け気を持ち直したところでジジイの追撃を受けて、「ひっ」と小さな悲鳴を上げて気絶してしまった。
そしてお姫様を中心として液体が広がっていく。
『うわぁ~。うわぁ~』
初めて見たよ、お漏らしの現場。しかも綺麗なおねーちゃんのものだなんて。ちょっと得した気分だ。いや、俺にはそういう性癖がないので、うん、気の迷いだな。そうだ、そういうことにしておこう。
そこに羞恥の表情がなかったのは少し残念だったが……。
「姫さま? 姫さま!」
「これこれ、ローム郷。耐えきれずお気を失われた姫をわざわざ起こすこともあるまいて」
「それは――っ、いや、確かにそうですな。して、トーラス翁。この情況いかがなさるおつもりで?」
失禁姫を揺さぶり起こそうとするおっさんもとい、ローム郷をジジイことトーラス翁がいさめる。
「ううむ、さすがにこの事を公表するわけにはいくまいて。されど、王には報告せねばなるまい」
「それは……そうですな。結果は失敗ではなかったものの無残ですからな。まさか、死体が召喚されるとは誰が思うでしょうか」
「うむ、最悪、我らが誅殺したと思われる方が確実じゃろうて」
どうやら俺について相談しているようだ。いや、正確には俺の死体か?
トラース翁の懸念にローム郷が「然り」と頷き、今後の相談を始める。
「本日使われた魔力の喪失は……この勇者さまの死体に補って貰うとして。はぁ~」
ローム郷が床を見つめため息をつく。
「うむうむ。幸いにして勇者殿は死体であるにも拘わらず大層な魔力をお持ちだ。これならば再召喚は可能じゃて。けど、魔方陣の構築は少々厄介じゃのう。ワシらが呆然としてる内に塗りつぶされてしまったわい」
変な文字は魔方陣というものであったらしい。
『魔力に魔方陣、それと召喚か。てことはここは地獄ではない別の何かってことだな』
さっき光に吸い込まれたのは召喚によるもので間違いないだろう。地獄でなかったのは幸いかね……。天国に行く機会は逸してしまったかもしれないが。
まあ、それはどうでもいいだろう。それよりこれからどうするかが問題だ。
どうやら目の前にいる彼らには俺が見えないみたいだ。話を聞く感じでは魔法の様な何かがあるのは分かってるが、それでも俺を見ることは叶わないらしい。
『話が通じるなら、色々と情況が分かる物なんだが……さて」
どうするか。
俺を呼び出した彼らは俺を勇者という。ということは何かの目的があって呼び出したと考えるべきだろう。
――俺が既に死んでいたことだけは誤算であったらしいが……。
……。
…………よし、決めた!
俺は成仏するまでの間、彼らに協力することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの後、彼らは俺の身体を分解――魔力化とか言ってたかな――し、変な球体に押し込んだ。
何か吸われるような感覚があったので、俺はそれに抵抗した。そして自身を全て奪われるのは癪だと思い、あの球体に吸い込む流れを真似して自らに取り入れた。
やがてその作業が終わる。
トーラス翁が満足そうな表情をして懐に入れた後、ローム郷が失禁姫を担ぎ、この部屋を出て行った。俺はそれについて行く。まあ、尾行のようなものだ。もっとも堂々とついて行ったわけだが。
そして向かった先は西洋風のお城だ。どうやら失禁姫は事実お姫様であったらしい。
城門でお姫様が気を失っているので一悶着あったが、ローム郷が「召喚でお疲れだ」と声を掛けただけでそれは収まる。彼が偉い地位にいるのがそれで分かった。
長い廊下を渡り、幾度も階段を上った先に豪奢で大きな扉が待ち受けていた。
そこに王様がいた。
彼らはお姫さまを侍女らしき者に託すと王様に人払いを願い出る。それが叶うと、先ほどの事情を説明する。
「ふむ……召喚は成功。しかし……事実上の失敗か」
「はっ。ですが、幸いにも魔力は十二分に蓄えられております。これならば魔方陣の準備が整い次第、再度召喚が出来ることでしょう」
「如何にも。王よ、死体であったが勇者殿は実に高密度の魔力体であったのじゃよ。ほれ、この通り」
王が嘆くと、ローム郷が朗報を告げそれをトーラス翁が補足する。そしてその証拠を見せつけるようにして俺の死体を吸い込んだ球体を取り出した。
『あれ? さっきはガラス玉みたいな何かだったのに……』
それは虹色に光り輝く、得も言われぬ美しさを持つ水晶だった。
「おぉぉぉぉ。す、すばらしい……」
呆然とそれを眺める王様にトーラス翁は長い髭を手で梳きながら自慢げに語りかける。
「ふぉっふぉっふぉ。これでも勇者殿の魔力の一部ですじゃ。残念ながら全てを吸収することはできなんだわい」
「こ、これで全てはないと申すか?」
王様が信じられないような面持ちでトーラス翁に聞き返すと、それに答えたのはローム郷。歯を噛みしめながら如何にも無念といった様子で告げる。
「はっ、さようです。召喚が成功した瞬間、その10倍はあろうかという魔力があふれ出ました。……くっ、それだけに死体であったのが……!」
「これの10倍だと――っ!」
ふむ、どうやら俺は大層な人物であったらしい。吸われたのはほんの一部だったのにあの王様の驚きよう。
「ざっと推測するに、それで四回は召喚術を行えるところだな」
トーラス翁から球体を受け取った王様がそう言うと、「然り然り」とトーラス翁が肯定する。
それから三人は今後の予定を綿密に立てた。
その合間合間から感じられるのは侵略者への怯え。
どうやら彼らは何者かから戦争を吹っ掛けられているらしい。そこに俺を投入して勝利、あるいは撃退をするつもりだったようだ。
で、最後まで聞いた結果、亡国の危機に瀕していることが分かる。
敵は人間ではなく地の底から現れた悪魔族。人間を凌駕する魔力と強靱な肉体を持つ恐ろしい種族らしい。人間を主食とする天敵のような存在だ。それが何万とやって来たらしい。
こうしている間にも民は少しずつと減っていく。隣国ももうまもなく滅び去ってしまうそうだ。そこで満を期して俺の登場だったはずが――。
『聞けば聞くほど哀れだ。……。いや、バキュームカーに跳ねられて死んだ俺の方が哀れ……なのか?』
類は友を呼ぶってことにしておこう。俺が召喚されたのはそういうで決まりだ!
ならば同士の為に骨を折るのも吝かではない。さっき協力してやってもいいって思ったしな。同病相憐れむだ。たとえ異世界の住人だとしても……。
――幽霊で何が出来るかはわからないがな。
こうして俺は悪魔族をどうにかしようと旅に出た。
悪魔族との遭遇は簡単だった。
空を遊泳していると、あちこちに煙が上がる様子が見て取れる。その一つ一つが襲われている現場であったのだから。
俺は直ぐ近くの煙――村に急ぎ駆けつけると、村人を襲う化け物を見た。
背中からはコウモリのような翼が生えており、耳の少し上にバッファローの様な角があった。それ以外は多種多様で、肌が黒い物、白い物、果ては迷彩服みたいにまだら模様な物もいた。
『これが……悪魔族か――ッ!』
ぶっちゃけ俺はびびったね。これと戦うべくして呼び出された俺はやっぱり哀れに違いない。
『まったく、どうやってこんなおっかない奴と戦えというんだ』
おそらくだが、こんなのとはまともには戦えなかっただろう。いくら特別な存在だったとしても俺は戦う等という行為は未知の物であり、恐怖のあまり無抵抗で殺されるに違いない。そして食われてしまう――と。
『あれ? そう考えると死んで呼び出されたのはまだマシだったのか?』
ドキドキと振るえる胸もなければ、硬直するという肉体もない。なので客観的に分析できる自分に気付く。
けど、幽霊であるこの身に何が出来るというのか! 人間を食べ回る悪魔族は自分に見向きもしない。きっと奴等にも俺が見えていないに違いないっ!
『出来ることと言ったら偵察程度か? だが、それを他者に伝えることも――』
そんなことを考えていると時だった、少女の祈りが心に届いたのは。
『神様! どうか私を――私たちをお助けください』
感じる方向に視線をやる。と、そこには悪魔族に押し倒されている少女の姿が――ッ!
危ないっ! そう思った瞬間、俺は考える事を捨て、脇目も振らず無体を働く悪魔族に迫る。そして殴りつける!
『うらああああァッ!』
が、しかし、やはり幽霊の肉体――霊体というか、俺の身体は悪魔族をすり抜けて行ってしまう。その勢いのまま遂には少女の身体に向かってしまった。唇が合わさるも何も感触は残らず、地中まで潜ってしまう。
『くそぉ、どうにも出来ないか!』
このまま少女が食われてしまうのを指をくわえて見続けなければならないか――と、思ったその時だ! 俺の身体が何かに吸い寄せられて行く。
『なんだ! こんな時になんなんだよぉ!』
向かった先はある一つの死体。心臓をえぐり出されて打ち捨てられた言葉もしゃべれない骸の元だった。
それに俺は重なり――動き出した。
近くに刺さっていた剣を抜き出すと、俺は勢いよく少女を襲う悪魔族に迫る。
少女の腹には爪が刺さっておりもはや猶予は残されていなかった。少女の内蔵がえぐり取られてしまう!
その刹那の差に俺は間に合った。
「はぁぁぁぁあああっ!」
気合いと共に脇に構えていた剣を突き出す。全力疾走に全体重が乗った重い一撃。たとえ利かなくてもせめて少女から突き放す、その想いだけだった。
果たして俺の攻撃は悪魔族の身体を抵抗なく突き抜けてしまう。
感覚は抵抗はなかった。やはりダメだったのか! 幽霊の俺はダメなのか……っ!
そう自嘲したとき、ドスッという音が耳に届く。
音の発生源、後ろを振り返ると、そこには上半身を無くした悪魔族の姿が! よくよく見ると少女を襲っていた敵と同じ肌。そして直ぐ側には「痛い」とうめき声を上げる少女の姿が!
「間に合った……のか?」
いや、まだだ! 少女はケガを負っている。しかも放っておくと死んでしまい兼ねない重傷だ。
俺は本能に近いもので少女に近づき、そして――
「死を憐れみ給え」
――と、少女に手を翳し言葉を紡ぐ。
それは心の内側から出来てきた言霊。世界の異物たる俺だけを現す、たった一つだけの力の象徴にして、それをこの世に表現する魔法の言葉――呪文だった。
死を尊い物として定義し、自然死以外の理不尽な死を拒絶するという俺の無念が形となった固有魔法。それが俺の力だった。
俺の手から光が放たれると、傷つき倒れた少女の身体を覆い尽くす。すると少女の傷が巻き戻っていく。
俺は最後までそれを見届けることなく、次なる敵へと襲いかかった。
敵は多勢に無勢。力の使い方が完全に分からない俺にとっては無謀としか言えない戦いだった。
しかし退くに退けない。俺が逃げ帰ったら誰があの少女を守るんだ! という決意が俺に勇気を与えてくれた。
迫り来る悪魔族に俺は剣を振るっていく。
舞うのは敵の首だけではない。俺の肉塊も飛び散っていく。
けど、痛みは感じられない。心臓無き身体がそうさせるのか、借り物の身体故だろうか……。
――――だからどうした! それが何だって言うんだ!
痛みは危険の信号という。しかし、死んだ俺にとってそんなのどうでもいい、些細な問題だ!
仮に間借りしている人間が生きているならば配慮しなければならないが、こいつは既に死んでいる! 心臓を抉られて生きてる奴なんて、そんなの人間じゃねぇ! いたとしてもそいつは悪魔族がなりすましてるに違いないんだ!
つまり、身体に配慮する必要など何もなかった。
それに――痛みを感じないならば返って好都合。動けるならば何も問題は無い!
俺は防御を捨てて、ただ『殺す』という意志込めて剣を振った。そして全ての悪魔族を切り捨てた後、使っている肉体に五体満足なところは何処もなかった。
最後の敵はとても強かった。
一撃で粉砕できる雑魚とは違い、武術のような何かを使って俺の攻撃を受け流してきた。その隙に俺は殴られてしまう。
ただでさえ傷つき脆くなった身体は、そいつの拳や魔法で砕け散っていく。最終的に自爆覚悟でツッコんで、漸くにして相打ちという形に持って行けたことは幸いか。
生き残りは少ないだろう。村として、集落としての機能は失われてしまったはず。――けど、少ないながらも命を守れたことを誇りに思う。
俺は満足げにその生を終えた。
再び宙に浮かび上がった俺は――。生き残ったことを喜び合う村人と、驚異を打ち払い、死して立ち続ける英雄を称える声を後ろにして次なる戦地へと赴くのだった。
以来、俺は俺という存在を一度も称えられることもなく戦地を巡る旅を続ける。死体に憑依する力と生者に対する、死の否定する魔法を手に持って。
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憑依した身体には魔法は利かなかった。それはそうだろう。既に死んでいるのだから。つまり、俺以外を対象とする魔法だったという訳だ。
しかしながら、生きてさえいれば確実に復元出来る魔法は絶大だ。なので、俺は――ある日を境に極力無事な身体に潜み、頼りとする仲間と共に悪魔族と戦うことにした。
幾ら死なないと言っても、俺は戦いの素人。後衛に回り補助に回った方が明らかに効率的だったのだ。
それから様々なパーティを編成し、武術を教えて貰いながら悪魔族と戦う日々が続く。――時に俺の魔力で召喚された勇者と共に戦うなんてことも。
『けど、みんな死んだ』
そう、敵は強すぎた。一撃で粉砕されれば、たとえ死を拒絶しようとも無駄だった。もう、既に死んでいるのだから。
あの時俺が戦った連中など、雑魚も雑魚。先兵というにはお粗末すぎる存在。要するに民間人みたいな存在だったのだ。強かったボスキャラっぽいのでさえ、ガキ大将レベル。
呼び出された勇者も三人、四魔将と呼ばれる強敵との戦いで散っていった……。
もはや勇者は一人きり。彼女は一人、人類の最後の都市に結界を張り続けて動けない。いや、人柱となっている。
事実上勇者は壊滅したも同然だ。残りの人間が魔力を集め、更なる勇者を召喚しようとしているが、正直な話、間に合うかどうかも分からない。
出会い、死に別れたのが何人になるのかも、もう、数えていない。悲しいという感情もあるが、それ以上にそんな暇など俺にはなかった。
俺は一人、何度も身体を壊し何度も乗り換えた。その日まで積んだ功夫はたとえ一人でも敵の精鋭を打倒出来るようになっていた。
が、しかし四魔将のような強敵相手ではとても及ばない。
そんなとき、俺は自身が悪魔族の死体に憑依できることに気付く。
以前は出来なかったはずだ! ――とするならば、俺の能力が高まっていたのか!?
それに気付いた俺は再び防御を捨てた戦いを始める。
人間よりも強靱な肉体を持つ悪魔族はその戦い方と実にマッチした。しかも敵の身体なのだから、殺せば幾らでも用意できることが何よりも効率的だったのだ。
転戦を繰り返した結果、俺は遂に四魔将全てを討ち滅ぼす。そして地上に構える悪魔元帥を倒し、全ての元凶を絶つために悪魔族が出現したという大穴に飛び込んだ。
そこは蟻の巣も斯くやと言わんばかりの巨大なダンジョンだった。
そして現在――。
俺はダンジョンの奧、最果ての間で俺はある一人の男と会合していた。
そいつは、黒髪黒目。『2-C 多賀谷』と書かれた青いジャージを身に纏っていた。年の頃は14。明らかに子供、しかも中学生と分かる出で立ちだった。
「やあ、ボクのダンジョンにようこそ」