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7 ルートきたか!?

 

 

 

 この教会は、遠くに見えた冬の(コールド)魔法王国(マジックキングダム)に繫がっており王家専用の逃げ道らしい。

 

 教会の崩れた天井を見上げると、今、頭上には太陽が昇っていた。

 

 ――そのせいでリザレディアは古びた教会で、天井から差し込む光を浴び、まるで祈りを上げる聖女のようにキラキラと輝いて見える。

 

 ただ、この世界を照らす太陽は、オレの知っている太陽と少し違った。

 

「さっきから気になってたんだが、あの太陽の前と後ろに付いてる黒い点はなんだ?」

 

 そう、輝く太陽の前後に黒点が見える。そしてその黒い影は、前にいるのが馬車で、後ろにいるのが狼の形に見える。

 

「ああ、アレは太陽を馬車で引く(ソール)と、それを追いかける巨狼(スコル)ですね」

 

 へぇ、太陽って引けたんだ。

 

「生まれた時に太陽(ソール)と言う名を付けられた(ソール)は、神々の怒りに触れてしまい、罰として太陽と月を馬車で引いているんです」

 

 変な名前付けられて、悲惨な人生を歩むことになるのは神も同じなのか。

 ちょっと同情した。

 

「後ろの巨狼(スコル)はフェンリルの子供です。因みに、月のほうにも(マーニ)がいて、巨狼(ハティ)が追いかけていますよ。馬車を引く神を、巨狼がサボらないように監視してるんです。監視と言っても、目の前の肉を追いかけているだけなんですけどね。フェンリルの子供達はドンドン大きくなって、大きくなると、あんな感じになります。面白いですよね」

 

 面白くはないだろ。(ソール)(マーニ)必死だろ。

「ああ、そうやって太陽を引く(ソール)が疲れて、月を引く(マーニ)に追いついた時に日食になるって言うアレか」

 

 ファンタジーだ。

 

 

 

 いつの間にか俺はリザレディアお姉ちゃんの上に座って、頭を撫でられていた。

 背の高いお姉ちゃんは足も長い。フトモモフェチの俺の解析眼がこの足は極上の美脚だと告げる。

 俺はフトモモをなで回しながら、お姉ちゃんの大きな胸に頭を埋める。ふわっ、と心地好く沈む。『もう、甘えん坊さんですね』とお姉ちゃんは細い腕で俺を抱きしめてくれる。

 

「うむ、苦しゅうない」

「ふふ、それは良かったです」

 

 やけに収まりがいい。座られ慣れている感がある。何となくこんな風に過ごしてきたのだろう。うらやまけしからん。仏に感謝しよう。俺専用の特等席ゲットでござる。

 

「私、ずっと王子とこんな風に暮らしたいと思っていたんですよ?」

 

 え、告白された?

 

 光が照らす温かなベンチで、彼女は優しげな声で言った。

 

「ねぇ、王子。このまま、何処か遠くへ逃げませんか? 彼らが幾度襲ってきても、私が貴男の盾になります。何度でも、何度でも、お守りします……だからっ! お願いだから、自分はもういいなんて、一人で幸せになれなんて……言わないで下さいよぉ……」

 

 ポタリと、俺の頭の上に、滴が落ちた。

 俺の頭に回した彼女の手が震えている。

 俺には、彼女が何をこんなにも悲痛に訴えているのか良く分からない。けれど、彼女を見ていると、どうしてこんなに心が痛いのだろう?

 ま、元の持ち主(外の人)の事情なんて知ったことではないんですけどねっ!

 

「あ、ごめんなさいっ。こんな事言われたって困りますよね? 記憶がないんですもんね。話の続き、しましょうか」

 

 俺は元王妃の息子としてガートランドで幽閉されて育った。

 宛ら『亡国の王子』と言った所だ。なので地位も権力もない。

 そんな俺を狙っているのは、ゲイル王とシグニャンの息子のスィン王子だ。

 シグニャンのお陰で何回も死亡フラグを脱してきた俺だが、今回はガーラント王家もスィン王子も本気らしい。

 スィン王子は、俺より三歳年上、十七歳の王子だ。

 十七才にして既に騎士団長だ。

 王子は、十歳から五年ほど森に武者修行しに行った。通常、王子は騎士となって近衛の指揮官を任され経験を積み王に叙任するのが慣例であり、その為の行儀見習いの修行だった。

 そうして修行を積んで帰ってきたスィンは、失われたはずの『神剣ノートゥング(温泉チケット)』を携えていた。

 ちょうどその頃、ガートランドの国力は充実していたため、神剣を手に入れたスィンは魔法騎士団の指揮官として幾度も遠征を行い、武勲をあげ、二年で最強精鋭である『近衛騎士団長』となった。実力で近衛団長を倒し、登り詰めたとも言われる天才剣士だ。

 最近のガートランド国土拡大の破竹の進撃に、指揮官として多くの貢献をしている。

 では、なぜそんなスィン王子に俺が命を狙われたのか?

 いや、逆に、なぜ今まで暗殺命令が出ながらも、俺が生きていられたのか。

 

 それは俺が特別な子供だったからだ。

 

 冬の(コールド)魔法王国(マジックキングダム)は、名前の通り魔術師が多い。

 国民の半数以上が簡単な魔術くらいなら使える。

 魔術は純粋な武力であり、統治力でもあるため、優秀な魔術師と交配を重ねた王侯貴族は特に魔力が強い。

 そんな王族の中には、『贈物(ギフト)神技(スキル)(神からの贈り(ギフト)と称されるほど価値の高いスキル)』を先天的に得ているモノも生まれる。が、ギフトを得られるのは数代に一人だ。持って生まれることは希で、才能があっても隠れて発現しないことが多い。

 

 だが、この国の魔術師達は研鑽を重ね、魔術によるギフトの付与を可能とした。

『ギフト付与の秘術』

 莫大な魔力を必要とするため、秘術が使えるのは年に一回程度だ。

 おいそれとは使えない秘術な上に、誰に使っても必ずギフトが開花するワケではない。

 この秘術は、上級魔術師を何人も集めて、時間を掛けて溜め込んだ高い魔力を、対象に送り込んで強引に潜在能力を呼び覚ますというやり方のため、必ず成功するわけではないし、魔力適正が低いモノにはむしろ破滅を呼ぶ。

 故に『魔力の才能が高い者』ほど優先的に、ギフト付与の秘儀を受けることが出来る。

 王家は魔力適性が高い為、10才になるとギフト付与の秘儀を行う。

 城壁に並び立つ塔の防護魔術も、数代前のギフト持ちが作り出したモノだ。良質なギフトには国防級の能力さえある。

 そうして、幾度王家が変わろうと、この機構で連綿と『王国』を維持し続けてきた。

『魔法にも似た奇跡の力で国を統治する』

 これが、この国が魔法王国(マジックキングダム)と呼ばれる所以(ゆえん)である。

 

 

 

 ジークフリートはシグニャンの推薦で、ギフト付与の秘術を受けた。

 破滅した王家とはいえ、ヴォルスング家の血を引く者ならば、ギフト付与の成功確率が上昇すると考えられたのだ。

 反対意見もあったが、今更ジークが反旗を翻したとて揺らぐガートランドではない。

 ジークは秘術を受け、そして、成功した。

 

 しかし、これが後にジーク暗殺へと繫がるきっかけとなる。

 

 ジークが得た能力。

 それは、これまで授けられてきたどのギフトよりも特異な能力。

 

「術を掛けた『相手の全能力値が二倍になる』秘術です」

 

「はぁっ!?」

 

全能力値(ステータス)が二倍? って事は何か? 例えばレベルが10だったら、20になったりするのか?」

 

 このゲームの成長率は概ね一律だ。ステータスはレベルに正比例しているため、レベルが二倍なら、全能力値も二倍ということになる。

 

「そうです」

 

 そのギフトは『倍化の秘術』と呼ばれた。

 

 この国では、全く戦闘能力のない一般人がレベル5だとすると、

 

 下級兵士・レベル10

 一般兵士・レベル20

 熟練兵士・レベル30

 下級将校・レベル40

 上級将校・レベル50

 

 と上がっていく。

 

(因みにこのゲームはレベル=純戦闘力とは限らない)

 

 だが、王子のギフト『倍化の秘術』を使えば、

 下級兵士レベル10は一般兵士レベル20に、

 一般兵士レベル20は一般精鋭レベル40に、

 熟練兵士レベル30は上級将校レベル60に、

 強化することが出来る。

 

 たった数ヶ月で、何十人もの能力の突出した兵士が量産できることになった。

 それは、まさに『ギフトの秘術』にも匹敵するほどの能力だった。

 

 だが、ゲームでは最高レベルが99でカンスト(カウントストップ)している。

 

「なら、レベル90だったらレベル180に限界突破したりするの?」

「いえ、そうはなりません。術には制限があるのです。術が使えるのは、『王子のレベルより二倍低い相手に対してのみ』です」

 

「つまり、俺のレベルが20だったら、レベル10の相手をレベル20に出来るって事か? で、俺がレベル90だと、レベル45の相手を90まで上げられる?」

「おそらくそうです。実際にそれ程の高レベル強化はやったことがないので分かりませんが」

 

 仮に俺がカンストしてレベル99になっても、48までの相手にしか掛けられないのか。

 

 

「ちなみに、リザレディアのレベルって幾つ?」

「私は、41ぐらいです」

「ぐらい?」

「レベルはおおよその目安ですので正確には把握できません」

「ステータス見えないのに、なんで自分のレベル分かるの?」

「自分の実力はある程度把握していますし、相手の力量も観察すれば分かります」

 

 聞けば、彼女達は自分のステータスを正確な数値で見る事が出来ないらしい。だけど、何となく分かるらしい。

 まあ、俺には自分のレベルさえさっぱり分からないのですが。

(ちょっと頑張ってみたけど無理でした)

 

 仮に、ジークのギフト『倍化の秘術』でレベル41のリザレディアをあげるなら、王子のレベルが82以上ないといけないのか。

 ……どう考えても無理だな。よくいっても俺のレベルは十~三十ぐらいだろう。

 

「大丈夫ですよ? 王子は私が必ず守って見せますから」

 

 ふわり、と抱き締められた。良い匂いがする。

 

「リザレディアは、どうして、そんなに俺の事を?」

 

「5年ほど前に、宮廷魔術師だった父が死に、父を妬んでいたモノに嵌められて、私は奴隷に堕ちました。けれど、ちょうどそれを王子が助けてくれたのです」

 

 リザレディア・アルベリヒはハーフダークエルフだ。

 父親は人間で、高名な宮廷魔術師カロ・アルベリヒ。

 ヴォルスング王族付きの天才宮廷魔術師だった父カロ・アルベリヒは、優秀であるが故に家臣達に疎まれていたらしい。彼らの奸計で父親を失い、途方に暮れていたリザレディアを見て、彼女を助けなければ秘術を使わないと、ジークが国に取引したらしい。

 

 俺、知らぬうちに奴隷エルフを手に入れていただなんて!

 知らない内にゴールしてたじゃないか! 俺!

 やっと気付いた。リザレディア、貴方が私の奴隷エルフだったのですね。

 

「だから、私にとって、王子は大切な主です。王子はもうすぐ15才、成人になります。……そうしたら、成人の儀もさせて頂きますね」

「せ、成人の儀?」

「はい、王族は、成人になったら女性を知る事も仕事の内ですから……だから、王子が大人になったら、その、私を……自由にして、良いんですよ?」

 可愛らしく首を傾げるリザレディア。

 

 は……は……ハーレムルートキター!!

 

 

 

 


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