5 転生しました(祝) 巨乳との邂逅
俺は、赤い絨毯の敷かれた床の上で死んでいた。
「う、……うう」
全身が痛む。いや、ヘルにぶっ飛ばされたからではない。俺の転生先の肉体がダメージを負っていたのだ。痛みがある、と言う事は転生(というか乗っ取り)は成功したらしい。
立ち上がって体を見回してみる。
白い上等な貴族っぽい服が所々焦げているが、体に大きな外傷はない。ちょっと動いてみたが、全身を軽く打撲した程度だ。
うん、問題ない。今の俺には痛みさえ新鮮だ。
手足の長さを見た所、年齢は中学生くらいか? まさかドワーフとか止めてくれよ。ヒゲはないようだ。自分の顔は確認出来ないが、きっとイケメンなのだろう。信じよう。
久しぶりに吸う空気にも味があることを感じて、俺は大きく息を吸った。
「ゴホッゴホッ」
噎せた。やけに煙っぽいな。
そう思って周りを見れば、ここは破壊された教会のようだ。
「なんだこりゃ」
『なんだこりゃ』とは異世界に転生したら故郷とのギャップに思わず呟かねばならない第一声の感嘆詞である。
さっきの『う、……うう』も同様の異世界必須台詞である。
……って言うかホントに何だこれは、ちょっとした惨事だ。
小さな教会は半壊していた。
礼拝用の長椅子はへし折れ、太い支柱や外壁は砕け、ガラス窓はひび割れ、見上げれば天井部分の塔は崩れ落ち、青空が見えていた。
まるで対戦車ミサイルでもぶち込まれたかのような惨状だ。まだうっすらと煙が立ち上っている。
一体何が起こったのか。そもそもここはどこだ。そして俺は誰だ。
外を見るために窓を覗く必要も無かった。
ごっそりと天井ごと砕け落ちた壁の隙間からは、大きな森が見えた。
ここは山の上の教会のようだ。
森を抜けた一キロほど先に、円形の塀に囲まれた城下町、その中央に聳え立つ城が見えた。
そう、城だ!
ネズミの国のシンデレラ城よりも何倍もでかく、しかも郡立している!
雲間から差し込む太陽の光がカーテンのように揺らめき、白と青の城を燦々と輝かせている。
「すげぇ、冬の(コールド)魔法王国だ」
恐らくここは九つの世界の一つ、『人間の世界』だ。
『冬の(コールド)魔法王国』はその中の五大国の一つとなる。
やっと、ああ、やっぱりラグナレクオンラインっぽい中世ファンタジー世界なんだ、と納得した。
城下町を囲む円形の塀には、何本もの高い塔が立っている。塔の魔術に守られた結界都市は、隕石の直撃さえ阻むという。
よし、きたど異世界! 来てやったど!(ドヤァ)
それっぽいに景色に出会えて感動する。
でもこの『冬の(コールド)魔法王国』も、概要だけは似ているが、俺の記憶にある王国とはかなり違う。
俺の知るのは二次元の適当にデフォルメされたネトゲ世界だ。この現実世界とは全く違う。
ヘルや死者の館を見てもピンと来なかったくらい、ここはリアルなのだ。
つまりここは、精密で広大な本物の別世界だ。
大抵の建物は記憶にあるプロ廃人を極めし俺さえも、こんな教会は知らない。
それも当然か。時間が流れているのなら、世界は動き、人は盛衰し、建物も生まれ変わる。全ては次々と新しく生まれ変わっていく。
つまり、――神は言っている。俺にこの世界を冒険しろ! と。
俺の知っている『ラグナレク世界』が、この世界ではどの時点なのか想像も付かないが、知っている世界の筈だと油断していると、足を掬われかねない。
なにせチョロいぜとか思ってたらフルスイングされる世界だしな。
「よし、気を引き締めていこう」
周りには誰もいなし、さっきから物音一つしない。当面の危機はないようだ。隕石でも落ちたのか? べ、別に俺がフルスイングされて突っ込んだからとかじゃないんだからね!
そう思って目を下ろした床の上に、耳の尖った女が倒れていた。
繰り返す、『耳の尖った女』が倒れていた。
俺の中で警報が鳴る。
『ウィーンウィーン、エルフ警報発令! エルフ警報発令! 直ちに現場へ急行せよ!』
俺は駆け足で、吹き飛んだ礼拝堂の影に隠れていた『耳の尖った女』に近づく。
自分が小さいせいか、女は背が高く見えた。175センチくらいありそうだ。
「これが本物のエ、エル……でかっ!」
――その胸は、エルフというにはあまりにも大きすぎた。大きく、瑞々しく、撓わに実り、そして魅力的すぎた。それは正に爆乳――即ちダークエルフであった。
「ダークエルフたんキター! ……だとっ!」
早い。異世界来ていきなりダークエルフとは展開が早過ぎる。なんいうご褒美。
髪の長い女ダークエルフは、仰向けに寝ており、大きな胸が天に突き出している。ふむ、ロケットおっぱいという奴か。
その形の良い胸が、微かに上下している。息はあるようだ。
全体を見ても特に外傷はないようだ。露出度の高い黒革と、高そうな臙脂色の外套を身に付けている。服もそう汚れてはいない。露出の多い白い肌が、少し瓦礫の煤で汚れてしまっている。
顔を見れば、息を飲むほど美しかった。
通った鼻筋と気の強そうな眦、聡明で、気品のある顔立ちだ。
腰まで届く白い髪、青白い肌は氷のように美しい。外国のモデルのような大きな胸とスラリと長い脚、ダークエルフのお手本のような女だ。
「くぅ……桃源郷、我見出り! 感謝っ!」
白い髪を一部頭頂で纏め上げ、右前に垂らした前髪。
その美しさに暫く呆けたように見取れてしまった。
こんな美人を、こんな間近で拝める。これだけでこの世界に来た甲斐があった。
仏教徒なので仏辺りにでも感謝しておくか、適当に祈ってパート悪魔やヘルに届いたらイヤだしな。南無南無。
俺は一瞬迷った。いきなりここでメガネを使うべきか? いや、そうじゃない。賢明な萌え豚ならチラリズムは理解して頂けるだろう。
俺はデザートは後に取っておく方だ。
それにアレは童帝には刺激が強すぎる。まずは健全な手を繋いだり、お話ししたり、そう言う健全な……おっといかん。
巨乳ダークエルフは気を失っているのだ。
「彼女を助けないと」
助けないと、と俺はおもむろにカチャカチャと自分のズボンを下ろして下半身を丸出しにした。
バッター振りかぶって、一気に三角ベースにダイブ! って違う!
気を失っているんだ。そう、これは人工呼吸の出番ですね!
ゲヘヘ、ファーストキスから始まる二人の恋のヒストリーとか、胸熱でござる!
ンチュー……ってそれも違う!
落ち付け俺。
これは巧妙な罠だ。襲ったらおまわりさんこっちです→逃亡フラグが立つぞ!
クリスマスの二の轍は踏むな。落ち着け、俺はやれば出来る萌え豚だ!
呼吸はある。彼女を起すんだ!
起して今の状況を聞きたい。お話ししたい。お友達になりたい。デートしたい。結婚したい。ハーレム一号になって欲しい。そんな欲望を強靱な精神力でもって抑えつけながら、俺は膝を付いて、人差し指でつつくように、女に触れてみる。
ツンツン、たゆんったゆんっ。
「……デュフッ! 乳揺れでござる。乳揺れでござる」
いかん、欲望が抑え切れていない!
……でも、もうちょっとだけ良いよね! この子気を失ってるから今なら抵抗されないよね! ちょっとだけ! 先っちょだけだからっ!(ゲスの極み)
俺はドキドキしながら、調子に乗って形の良い巨乳を鷲掴もうとして右手を伸ばし――まあ、大きすぎて鷲掴めないでゴザるのだがww――触れると白い肌に指がぐにゅっと沈んでゆく。
「おっおっ、すごく柔らかいお!」
ここが新大陸か! そうか、ついに上陸してしまったのか。俺が第二のコロンブスだったのか! よし、では第二のコロンブス(左手)出動、隣の大陸を目指せ!
むにゅ。
ふぁ、柔らかい!
そういえば、昔おっぱいの感触が耳たぶと同じだと俺に教えたバカは何奴だ! それはアルデンテだ! だがこれはあの時俺が必死になって触っていた耳たぶの感触とはまるで違う、なんというか、これは温かくて、柔らかくて、ふわふわな、まるでそう!
……巨大なマシュマロのようだ!(小並感)
いかん、ちょっと意識が飛んでた。魂半分抜けてた。
意識がない女性になんてことをしているんだ俺は! 恥を知れ! 早く彼女に看病を! こういう時は確か……揺らして起す!
「大丈夫ですか! 大丈夫ですか!」
俺は女を揺すって起す為に、激しく乳を揉みまくって体を揺らした。
たゆんったゆんっ。仕方ないんだ! ぶるんっぶるんっ。あくまで彼女を起すための……。ぽよんっぽよんっ。……不可抗力なんだっ!
はあぁっ! 柔らかい!
俺はあまりの柔らかさの興奮に我を忘れて、巨乳に顔を埋めてみた。
潜水しマース。
「オゥフ……これはなかなか……コポォ」(至福の潜水中)
柔らかくて白い胸の波が、ダイブした俺の頬を包む。そのまま鼻を谷間の奥に突っ込み、顔を左右にブンブン揺らす。たぷんったぷんっ。
オレは必死に彼女に呼びかけた。
「ブルゴッ、フガッ、フォカヌポゥ(大丈夫ですか! 大丈夫ですか!)」
生まれて初めての双房との邂逅。はわわ、生クリームに包まれているかのようでござる。パッフンパッフンだ。さて、パフパフと言う単語を俺の脳内辞書にも登録するか。
『パフパフ』=『ダークエルフさんの中、温かいナリ~』で登録完了、と。
人生で一番やって見たかったこと最上位が経験出来た。ああ、もう死んでも良い。
――と思ってフと上を見れば、
――谷間で遊んでいる俺を、
――訝しげに見ているダークエルフたん(超絶美人)。
目が合った。
曰く、ダークエルフは俺にこう問うた。
「……あの……さっきから、人の体で、何をしてるんですか?」
「ぶ、ぶひぃいいいい!!! お、起きてた!? ち、違うのでゴザる! 不可抗力でゴザる! 拙者、気を失っていた貴殿をお助け仕ろうと……うう! おまわりさんだけは止めて~、お願いします~っ!」
情けなく土下座して懇願する俺。
当然だ、端から見れば、『キモヲタがズボンをズリ下げて興奮しながら、気を失っている超美人巨乳ダークエルフの胸に鼻を突っ込んでフゴフゴやっている図』じゃないか!
俺だったらそんなうらやまけしからんキモヲタ市中引き摺り回して死刑にするね!
誰だそんなゲスは!
ワタシです!
頭を床になすり付け懇願する俺。
「そんな、私に頭を下げるなど、お止め下さい王子」
ダークエルフは蕩けそうなハスキーボイスで俺に囁くと、俺を起き上がらせ、パンパンと俺の膝を払ってくれた。
「……え?」
俺は困惑した。
だが、彼女は俺を見て安心したように、極上の笑みを浮かべ、掠れた声で俺に言った。
「ああ、良かった。王子……生きていたのですね。……王子っ!」
ガバッ!
ダークエルフ(神ボディ)は、細い両腕を俺の頭の後ろに回し、ふわりと俺を抱き締めた。
ムニュリと俺の顔を柔らかな胸が包み込む。
長い髪がふわりと揺れ、すごく良い匂いが鼻孔を擽る。クンカクンカ、良いにおいだおっ!
神は言った、『光あれ』と。
今まさに、光はここにあった。
え、なに? 俺……許された? お触りでおまわりさん無し? それどんなイケメン? 俺、ホントにイケメン王子になれたの? え、なにコレ実は超名作ゲー? なにこのご褒美。
これもうエンディングでよくね?
――俺、もう、ゴールしても良いよね!