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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

命懸けで彼女を守る!

作者: JFZ

「先輩、もしかして緊張してます?」


いつもの笑顔で、彼女が話しかけてきた。飛行空母の格納庫内にいた俺の側に来ると、無邪気に微笑んだ。


「戦闘前はいつも緊張するさ。」


俺は何故か彼女とは目を合わせられず、いつも強がりを言ってきた。


「やっぱり怖いんだぁ!」


「お前に言われたくない!第一、俺の側に来るなと毎回言ってるだろ!しっ、しっ!」


「何、強がってるの、バカみたい!」


「馬鹿で結構!お前と同類だと思われたくないからな!この、ブス!」


「本っ当に、その意地っ張りな所は昔と変わってないですね!それと、もう二度と私の事を「ブス」と言わないで下さいね!セクハラで訴えますよ!」


顔を紅くして怒った彼女は、キッと私を睨み付けてその場を立ち去ろうとした。

「そうそう、これだけは言っておきますけど、みんなの前では私の事を「隊長」として扱って下さいね!」


と、自分の事を`隊長´だと念押しして去って行った。


確かに彼女は私の士官学校時代の後輩だ。しかし、彼女は私と違い非常に優秀で、数々の戦功を立ててきた。今ではすっかり立場が逆転している。

ナツミ・カルスト大尉

彼女の本名だ。

我々国防軍が地上に降下してから、彼女はピンク色を基調としたパワードスーツに搭乗し、数多くの反乱軍兵器を粉砕した。そのため、彼女は敵味方から

「紅い妖精」

と揶揄される程の凄腕パイロットとまでなった。


ピンク色のパイロットスーツを着こなす彼女は、仲の良い女友達からは親しみを込めて「ナッキー」と呼ばれているが、俺からしたらどちらも照れくさい!と言うよりも、俺から彼女に話しかける事も少ないからだ。

だからいつも、さっきみたいにぶっきらぼうな会話になる。最も、気が強く、男勝りな彼女だから余計にああなるのかも知れない。


西暦21XX年、世界は統一国家を樹立していたが、一部の抵抗勢力が宗教や民族間の問題は解決されまいまま紛争の火種が世界中に分散していて、その中でも強力な勢力は


『反乱軍』


『解放軍』


を名乗り、紛争を激化させている。


世界中の幾つかの場所で無人の戦闘機やパワードスーツに身を包んだ歩兵が熱い戦いを繰り広げている。


そして今、俺達の部隊は何十機もの編成で北米から反乱軍の本拠地であるアマゾンに侵攻している。反乱軍を鎮圧するための大編成だが、度重なる攻略の失敗で戦力を消耗し、アジアに配属中の俺まで反乱軍鎮圧に駆り出された。お陰で、彼女に再開したわけだが、まさか、彼女の部下にさせられるとは思わなかった。ま、俺は未だに中尉のままだから、当然の事なのだが。

数年振りの再開ではあったが、彼女の変わりない笑顔の他に、今まで感じたことのない不安が俺を支配していた。それは、出発前のブリーフィングから始まった。話は、昨日のブリーフィングに遡る。


「反乱軍拠点陥落まであと少しだが、戦況は我が方に不利に傾いている。著しく戦力を消耗した我が軍は、反乱軍より少数で戦闘を行うしかない。よって、君たちが前鋒として、アマゾンの反乱軍を叩いてもらう」


作戦将校の説明を聞いていたその時だった。


「私にいい案があります!」


そう言って立ち上がったのは、彼女ことナツミだった。


「降下後、私が単機で敵陣深く突入します。その後に他の兵士が後続し、間に挟まった敵パワードスーツを撃破します。」


おお…と、場内の兵士がどよめいた。今まで、紅い妖精の異名を持つ彼女はこの囮専門の作戦で敵パワードスーツを撃破して来たし、他の誰もがそれを知っていた。だが、何故か俺だけがそこに一抹の不安を感じた。


「待って下さい!」

俺はすかさず反論した。

「確かに、大尉は今までこの作戦で敵パワードスーツを撃破して来ました。しかし、今回は完全に敵の本拠地です。どんな罠が待ち構えているかも知れないのに、囮作戦は危険です!」


しかし、彼女は私に反論した。


「中尉、戦闘に危険は付き物です。それとも、危険な作戦を前に怖じ気づいたのですか?」


「な、何!」


思いをよらなかったセリフに一瞬言葉を失った。その後すぐに作戦将校から


「今回はカルスト大尉の発案を採用する。いいな。」


「お待ち下さい!この作戦では彼女が非常に危険です。」


俺はなりふり構わずこの作戦を却下するよう訴えた。しかし、それを一番に反対したのは彼女だった。


「中尉、この作戦はたった今決定されました。あなたもそれに従って下さい。」


「死ぬ気か?危険だ!」


「従いなさい!」


気の強い彼女は声を荒げて俺を制止した。この場はそれに従うしかなかった。


これが、昨日からあった不安の始まりだった。

この作戦はまもなく発動される。こうなったら、戦闘中は俺が彼女を守るしがない。


「10分後に敵拠点上空、降下兵は搭乗せよ!」


艦内放送が鳴り響く、いよいよか!俺は白色の愛機に乗り込み、女性整備員から最終チェックの内容を受けた。一通りの説明を受けた後

「ナツミの事、頼みますよ。」

女性整備員はそう言い残してデッキから離れた。やはり、みんな彼女の事を心配していた。


そして、飛行空母のハッチが開き、眼下にアマゾンの密林が広がった。

「降下開始!」


先に降下したナツミに続き、深緑の地獄へダイブした。いよいよアマゾンの戦いが始まる。予想以上の対空砲火が容赦なく俺達に襲いかかる。途中、何機もの味方空母や降下兵が撃墜されるのを見た。

「久し振りの戦闘だ!」

私にとっては1ヶ月前のアジア戦線の防衛戦以来だ。あの時は敵を1機逃しただけの勝利ひ終わった。今度も勝利で終わらせてやる。


「中尉、大丈夫ですか?」


私より先に降下している彼女ことナツミが私に無線で呼びかけた。


「大丈夫ですよ。」


「じゃあ、私に離れすぎずに付いて来てくださいね!」


「はぁ~、これが美人なら喜んで付いて行くけどな。」


「今、何て言った!」


やばい、また彼女を怒らせた。


「いいえ、別に。」


「真面目にして下さいね!」


正直言って、反乱軍の対空砲火より、怒った彼女の方が怖い…下手したら降下後にビンタかな?と、自分の落ち度に嫌悪した。


「情報の通り、奴だ、白い奴め!この前の怨みを晴らす!覚悟しろ!」


密林の中から、俺に対する激しい嫌悪感が渦巻いていることに、俺は気付いていなかった。


「あ、あれは`紅い妖精´か、奴まで一緒とは…フッ、妙案が浮かんだぞ!待ってろよ、白い奴!」


俺への憎悪の主は不敵な笑みを浮かべると、彼のパワードスーツに乗り込んだ。


それと同時に、対空砲火の悪夢を乗り越え、俺と彼女はアマゾンの密林に降り立った。


「みんなは?」


激しい対空砲火の犠牲になった仲間を案じながら、彼女が訪ねた。


「4分の1は殺されたかも知れない、今は正確な数を掌握できない。」


俺は今の状況を彼女に伝えた。あと、さっきの俺の言葉に怒ってないかヒヤヒヤした。


「わかりました、予定通り、私が囮になります!」


「わかった。」(ふぅ~、怒ってないみたいた。)


今更止めろと言って止める彼女ではない。直ぐに、彼女は全速力で密林の奥深くに消えて行った。しかし、その光景に、俺は今までに感じたことのない焦燥感に駆られた。


「何もなければいいが…」


拭えない不安を抱えつつ、俺は残りの仲間と共に彼女の後を追った。

しかし、俺達の目の前に、10機以上の敵パワードスーツが襲いかかって来た。


「何て数だ!」


無造作に襲来する敵兵を撃破するのにはそう時間はかからなかったが、それより、単機で乗り込んだ彼女の事が気になった。

しかし、これが俺と彼女を陥れる罠だったと、このあとすぐに憎悪の主から教えられるのだった。「何で?何で私には来ないの?」


囮となって密林を突き進む彼女ことナツミも、今までにない状況に不安を抱いていた。


「まさか、罠?」


そんな彼女に無線の声が入った。


「大尉、無事か?」


それは、俺の声だった。何とか敵パワードスーツの大群を仲間と共に倒した後だった。


「私は無事です。そっちは?」


「こっちは無事だ。たった今、パワードスーツの大群と交戦したがな。」


「中尉、無理しないでね。」


彼女が心配そうに話しかけた。しかし、その気遣いがこそばかった俺は


「自分の事を心配しろよ!」


と、ぶっきらぼうに答えた。


「何よ、意地っ張り!人が心配しているのに!」


正直言って、彼女が俺の事を心配しているのが物凄く嬉しかったが、やっぱり俺は素直に受け取れない。

俺の返事に不機嫌になった彼女は無線を切り、更に前進した。

その時、彼女の目の前で何かがキラッと光った。


「何?」


みるみるうちに何か黒いものが大きくなり、彼女のパワードスーツに命中した!


「キャアアア!」


激しい衝撃と共に、彼女の悲鳴が無線越しに届いた!


「どうした?大丈夫か?」


俺は彼女の安否を気遣い、無線越しに怒鳴った。


「分からない…いきなり撃たれた。」


どうやら、彼女の視界の外から何者かが攻撃して来たようだ。


「ナツミ、とにかくこっちに戻れ!」


嫌な予感が的中した。彼女に対する罠なのか?とにかく、彼女を一人にするのは危険だ!彼女をこっちに戻そうとした。だが…


「キャアーッ!」


再び、無線越しに彼女の悲鳴と爆発音が聞こえた。


「ナツミ!とにかくこっちに来い!」


「何?いろんな方向から撃たれてる!怖い!」


「待ってろ!今行くぞ!」


「先輩、助けて!」


複数の敵から一斉に攻撃されているようだ!俺は彼女を助けに前に出ようとした。

その時、再び、敵パワードスーツの大群が俺達に押し寄せて来た。


「畜生、こんな時に!」


「中尉、ここは俺達に任せて、カルスト大尉を助けて下さい!」


他の仲間が俺と敵とを切り離し、彼女の救出を促した。


「頼む!」


俺はこの場を離れ、一目散に彼女の元に向かった。


「ナツミ、大丈夫か?ナツミ!、返事しろ!」


俺が何度叫んでも彼女からの返事はなかった。その時、彼女のパワードスーツは度重なる砲撃にさらされ、その場に倒れ込んでいた。


内部で気を失った彼女に何者かが迫っていた。

破壊された彼女のパワードスーツのエスケープドアを何者かが開けた。中には、気を失った彼女ことナツミがぐったりと気を失っていた。


「死んでないな。お前は大事な人質だからな。」


独り言を呟きながら、その男は彼女を担ぎ出した。


その時、俺は彼女の元へと急行していた。


`無事でいてくれ!´


どうしようもない不安が的中した。彼女に何かあれば…今までに体験したことのない程の焦燥感、

何でこれが分からなかったのか?

はやる俺の心の中で激しく高ぶる俺がいた。

そのうち、レーダー前方に動かない機影を確認した。


あれか?


俺は`動かない機影´の元に着いた。やはり、その機体は彼女のパワードスーツだった。


「ナツミ、無事か?」


俺は内部を覗き込んだ。そこには誰の姿も無く、彼女のヘルメットが側に無造作に転がっていただけだった。


無事に逃げたのか?俺は当たりを見渡した。


「…!」


左側に何かの気配を感じた。そこには反乱軍のパワードスーツが立ちはだかっていた。私は反射的にマシンガンを構え、直ちに射撃出来る態勢を取った。その時!


「よく見ろ!こいつがどうなってもいいのか?」


そう言いながら、敵は何故か木の幹で出来た十字架を私の前に突き出した。

どういう意味だ?

困惑する俺だったが、その十字架に違和感を覚えた。

カメラを拡大すると十字架に人の模様が描かれている、否、誰かが十字架に磔られている。あのピンク色のパイロットスーツは、まさか…


「逃げて、先輩!罠よ!私の事はいいから、早く逃げて!」


十字架に磔られているのは彼女だった。


「誰だ!」


これまでにない怒りが俺を支配した。


「貴様は私の事を覚えていまい、しかし、私は心底憎いお前を一時も忘れていない!」


声の主はパワードスーツ前部装甲を開け、十字架に磔られた彼女を突き出した。


「この女はお前をおびき寄せるための人質だ。生きて返してやる。」


「今すぐ彼女を解放しろ!」


しかし、その男は自分のヘルメットを取りながら、彼女に銃を突きつけた。


「黙れ、1ヶ月前のアジア戦線で俺を倒そうとした奴が!」


アジア戦線?あの時逃げ出したのが奴か!

「あと少しで俺を殺そうとしたお前が俺の敵だ!ここがお前の墓場だ!」


「何だと!」


「先輩、逃げて!」


俺達を狙う憎悪の正体が姿を現した。1ヶ月前、俺がいたアジア戦線で反乱軍との小部隊との小競り合いがあった。

最中、俺が敵指揮官のパワードスーツにトドメを刺そうとしたが、すんでのところで奴は仲間を置き去りにして逃走し、残りの敵兵は全滅した。

その時逃げ去った奴が眼の前にいる。

然も、彼女ことナツミを人質にしてだ。


「彼女は関係ないだろ!今すぐ離せ!」


銃を持った右手で彼女の顎を掴み、自分の方に向けながら、男は言った。


「お前はあの時、俺の部下を殺した。そして、俺まで殺そうとした。この女は人質だ。俺の言うことに従ってもらうまでだ!」


その時、彼女はキッと睨み付けながら、男の顔に唾を吐き付けた。


「さわるな、変態!」


彼女なりの必死の抵抗だった。

刹那、男が左拳を力の限り振り下ろし、彼女の顔面を殴った。


「キャッ!」


「止めろ、彼女に手を出すな!お前の相手は俺だろ!」


男は、顔を手で拭いながら


「お前達はまだ自分の置かれている立場が分かってないようだな!この女を解放する条件を言ってやる!お前は俺と決闘しろ!そして、お前が勝とうが負けようがこの女を解放する。」


どういう意味だ?彼女を人質にする意味が今一つ分からなかった。


「バカが、こういう事だ!」


そう言い放つと、男は素早く自分のパワードスーツの前部装甲を閉じ、戦闘態勢に入った。

その時、左手に十字架を持ち、俺のパワードスーツの前に突き出した。


「えっ…!」


俺と彼女は同時に、彼女が人質になった真の理由を知った。

`人間の盾´

つまり、俺がいかなる攻撃をしても奴は十字架を盾代わりにする!俺が攻撃したら彼女の命がない!こんな卑劣なやり方に俺は今までにない怒りをぶつけた。


「汚いぞ!彼女を殺す気か!」


「誰も女を殺すなんて言わんぞ。お前が俺に手出ししなければ良いだけの話だ。」


「だったら俺を今すぐ殺して彼女を今すぐ解放しろ!」


「私に構わず逃げて!」


為す術がない中で、彼女を解放しろと怒鳴るものの、俺の言うことを聞き入れる奴ではない筈だ。もし、俺が何らかの攻撃を仕掛けると、奴は必ず十字架を前に突き出す。間違いなく彼女は死んでしまう。


「さあ、どうするんだ!今すぐマシンガンでこの女を蜂の巣にするか?」


俺はマシンガンや手榴弾等の武器をその場に捨てた。


「先輩!私の事は放っといて逃げて!」


彼女の叫びが虚しくアマゾンのジャングルにこだまする!


絶対絶命の状況に何も為す術も無かった。

(彼女だけでも助けなければ…)

焦りと苛立ちが俺を責め立てる。


「決闘の幕開けだ!」


奴のビームライフルが俺のパワードスーツの左足の関節外部を撃ち砕いた。その衝撃が機体を揺さぶった。


「止めてーっ!」


十字架に磔られている彼女が涙を流しながら叫んだ。


「さあて、次は…」


奴が俺を撃ち抜こうと照準を合わせていた時、密林の中から何かが飛び出して来た。俺は反射的にジャンプした。飛び出して来たのはバズーカ弾だった。


「よく気付いたな!この周りに仕掛けをしておいた。この女は気付かなかったがな。」


「どこまで汚いんだ、貴様は!」


「何とでも言え!ここに来る前に反乱軍のパワードスーツ隊に遭っただろ!あれも俺が誘導したのさ!女を人質にする前の時間稼ぎにな!」


「何!」


この男の狂った本性を知った。自分の欲求を満たすためなら人が幾ら死んでも構わない!こんな卑劣な奴がいるのか!

しかし、人質にされている彼女を助けられない自分にも苛立ちを隠せない。


「先輩!このままだと先輩が殺される!だからすぐに逃げて!」


十字架に磔られている彼女が必死で俺に呼びかける。


「この女、お前に惚れてるのか?だったら助けないとな!」


奴が十字架をを突き出しながら、俺に歩み寄った。何歩か進むと、密林の中からマシンガンが放たれ、十字架の真下に炸裂した。


「キャアーアア!」


炸裂した衝撃が彼女を十字架ごと揺さぶった。


「止めろー!」


「簡単な事だ!お前がそこから動かなければ良い。」


「何?」


奴が再びビームライフルで俺のパワードスーツの左肩を撃ち、左肩の装甲を粉砕した。同時に、密林の中からバズーカとマシンガンが大量に放たれた。


「うわーっ!」


「イヤー!もう止めてーっ!」


「良いザマだ!」


集中砲火を浴び、パワードスーツのバックパックや各部、俺の身体に相当のダメージを喰らった。動かすのがやっとの状態だ。


「お願い、もう止めて!もう気が済んだでしょう!」


彼女が必死で奴に語り掛けていた。


「人質は黙って見てろ!こいつを始末してからお前も殺してやる!」


彼女を人質に取られ、なおかつ機体も破壊されかけた。さっきの集中砲火の衝撃はこの機体と中の俺に強烈な衝撃を与えた。どうやら俺の怪我は相当酷いようだ。段々と体が痺れて行った。

万事休すか…「先輩、ごめんなさい、私の為に…死なないで!」


十字架に磔られている彼女の声が聞こえたが、カメラも破壊された今では外部の状況が分からない。それに、意識も朦朧として来た。手や足に力が入りにくくなっていた。


「女に憐れんで貰う気分は最高か?」


奴の声も薄れて行く意識同様に、かすれて聞き辛くなっていた。


「お願い、もうあの人に手出ししないで!私はどうなってもいいから、殺さないで!」


彼女も必死で奴に語り掛けるが、申し出を素直に聞き入れる相手ではない。


「紅い妖精も、何も出来なければただの雌豚だな!ざまあ無いな!お前はそこで何も出来ずに泣き叫べ!」


「そんな…」


今まで気丈に戦い続けて来た女戦士のプライドを引き裂く一言だった。奴はどこまで意地汚いのだ!

薄れ行く意識の中で、俺は反撃する糸口を見いだそうとした。俺は死んでも彼女を助ける!その執念だけが俺を動かしていた。


「先輩、ごめんなさい、私、先輩を助けられない。」


彼女の涙声はパワードスーツ内に鳴り響いた。だからこそ、俺は彼女だけでも助けてやる!だが、どうすれば…


「そろそろトドメを刺してやる!ビームサーベルで貴様の胸を突き刺してやる。覚悟しろ!」


(遂に最期か…)


一瞬、観念した。


(胸を突き刺す…そうか、これがチャンスか!)


奴の攻撃パターンに、俺は唯一のチャンスを見いだした。最も、失敗すれば終わりだ。ならば、この機会に賭ける!

そして、奴はビームライフルを手放し、右手で右側のビームサーベルを抜刀した。


「これで終わりだ!」


「止めてーっ!」


「うおぉぉぉーっ!」

奴が俺のパワードスーツの胸部を突き刺す直前、俺は前部装甲を外して視界を確保すると同時に、一瞬怯んだ奴のビームサーベルを振り下ろせないように奴の右手首を掴んだ。奴は左手にナツミを磔けている十字架を持ったままだからあっさりとビームサーベルを奪えた。俺は彼女から奴を遠ざけるため、直ぐに右手で十字架を地面に突き刺し、まだ動く右足を踏み出した。そして、両手で奴から奪ったビームサーベルを奴の頭上にかざした。


「死ぬのはお前だ!」


「や、止めろー、ギャアーッ!」


渾身の一撃は見事にビームサーベルで奴の頭上からパワードスーツを串刺しにした。

やっとの思いで、このクソ汚い奴を倒した。奴はガクッと膝をつき、大地にゆっくりと倒れ込んだ。やっとの思いで倒した奴のパワードスーツが爆発しないのを確認し、俺のパワードスーツは力尽きた。パワードスーツの緊急開放装置を作動させ、俺は外に出た。この状態からすると、さっきの反撃も奇跡だったかも知れない。俺は十字架に磔られている彼女の所に行き、彼女を縛り付けている手枷と足枷の縄を外した。


「先輩!」


彼女は泣きながら俺に思い切り抱きついて来た。その反動で、俺は彼女に抱きつかれたまま後ろに倒れ込んだ。

その時、彼女は俺の体の異変に気が付いた!

俺の背中の、パイロットスーツからにじみ出ている赤黒いものに気付いたからだ。


「な、何これ?」


「…血だよ。…奴との決闘で、ハァ…、かなりやられたかな…。俺はもう駄目だ。」


彼女を助けた時、それが俺の限界だった。意識も薄れ、もう、身体に力が入らない。


「そんな…イヤよ!死なないで!」


「とにかく、お前は…ここから一人で逃げろ…、ここから南に…行けば、味方の救護所がある…、かくまって、もらえ…俺は…、置いて行け。」


「イヤ!先輩を置き去りになんて出来ない!」


「だから…、俺は、もう駄目だ…だから…、お前だけでも、助かるんだ…。」


「そんなのイヤッ!出来ないよ!」


「…ごめんな、お前の事を守ってやれなくて、…あんな危険な目に…合わせて…、ごめんな。」


「何で?先輩は私の事守ってくれたし、助けてくれたじゃない!」


「…ナツミ、さよなら。」


俺の記憶はそこから無くなった。全ての意識は消え、身体をピクリとも動かせなくなった。これが`死´と言うものなのか?


「イヤー!」


彼女が幾ら泣き叫んでも、俺は何も返す事が出来なかった。彼女は手をグッと握り締め、延々と泣いていた。


「死なせない。」


彼女はポツリと呟いた。


「死なせない。私が先輩を助ける!」


彼女はスッと立ち上がり、自分のパワードスーツ目掛けて走り出した。


「私は隊長よ!どんな事があっても部下は助ける!」


彼女は先の戦闘で破壊されたパワードスーツに乗り込み、再び始動させた。


「私が先輩を助ける!」


彼女はパワードスーツを俺の側に付け、俺を抱き抱えた。


「私だって、私だって!」


俺を抱きかかえながら、彼女は一路、味方の救護所に向かって進み出した。


気が付くと、どこかのベッドに寝かされていた。


「先輩!」


彼女が泣きながら俺を見つめていた。


「俺は、死んだのか?」


「ううん、先輩、助かったのですよ!先輩が意識を失ってから私が先輩を運んだんですよ!」


彼女の話しだと、意識の無くなった俺を運んで、味方の救護所まで連れて来たらしい。それから北米に戻るの負傷者を載せた輸送機で治療を受け、このベッドに寝かされているそうだ。

俺は、彼女に助けてもらった事にこの上なく嬉しくなったが、同時に、根拠の無い恥ずかしさも感じた。


「あの時、俺を置いていけと言っただろ!無茶するなよ!」


何故か、心に無い言葉が俺の口から出た。途端に彼女から笑顔が消え、ガックリとうなだれた。


「要らん事しやがって!」


何故、恩人にこんな事を言うのか自分でも分からなかった。

その時


「粋がってんじゃないわよ!」


彼女の鋭く激しい平手打ちが俺の左頬を打ち付けた。


「私がどんな思いで先輩を助けたのか分かってるの?ねぇ、私の事を守ってくれた先輩を助けたのに、そんな文句を言われるの?バカ!」


彼女は泣きながら俺を睨み付けた。俺は彼女の怒りと、自分に対するもどかしさで何も言えずにいた。


「これだけは約束して。」


彼女は話を続けた。


「もう、無茶はしないって。」


「無茶って、あんな無鉄砲な囮作戦の方が無茶だろ。」


「部下が上司に口答えしない!上司の言うことを黙って聞く!」


彼女は俺の台詞を遮り、話を続けた。


「約束して。」


「…ああ。」


俺は黙って右手の小指を彼女に差し出した。すると、彼女は俺の右手を両手でギュッと握り締めた。


「死なないでね。」


彼女の瞳からこぼれる涙が俺の右手に落ちる。


「ゴメン、泣くなよ。」


俺は、やっと彼女への詫びの一言が言えた。


「ところで先輩!」


再び俯いた彼女が尋ねた。


「先輩が意識を失う前、私の事「ナツミ」って言ったでしょ。」


彼女が突然、笑顔に戻った。


「し、知るかよ。」


「だって、言ったもん!私、覚えてる。先輩が始めて私の事をあだ名で呼んでくれたし。」


やられた…俺がナツミに気があることがバレた。


「関係ねぇよ。」


「またまたぁ、照れちゃって。」


負けた、完全に負けた。

`紅い妖精´、彼女は戦場ではそう恐れられているが、俺だけが知っている最強の武器は、この無邪気で屈託の無い笑顔だ。流石に勝てん。自分より年下の、しかし、気が強いけど優しいナツミの方が俺より上手なんだなと思い知らされた。いつまでも笑顔を絶やさない彼女が側にいるだけで何故だか心が落ち着く。


正直、こいつがこんなにカワイイとは思ってもいなかった。まだまだ俺の知らないナツミがそこにいる、こいつにはもう勝てないのだろう。本来の俺の性格なら絶対に認めたくないところだが、無邪気に微笑むナツミの笑顔を見ると何故だかそんな気が失せてしまう。


この先も、ナツミに翻弄されるのも悪くないかな?

そんな気持ちが俺の中に芽生え始めた。


肝心の反乱軍鎮圧作戦だが、終始、戦闘機、爆撃機やパワードスーツ等、物量に勝る我が国防軍が戦闘では優位に立ったものの、南米はアマゾンの戦場から遠く離れた北米から一々部隊を空輸し、いたずらに戦力を消耗してしまい、戦線を維持できないまま、攻略失敗となった。

この数日間だけで数多くの将兵がアマゾンのジャングルに散った。

結局、この戦闘の残した意味が何だったのか?誰も答えを見い出していなかった。

亡くなった兵士の英霊には申し訳ないが、今の俺にとってはアマゾンでの勝敗はどうでも良いことだ。

それより、俺にとって欠け甲斐の無い大事な人が笑顔で俺の側にいる。

暫くはこの安堵感に包まれていたい。



御拝読、ありがとうございます。

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