エピローグ
「な、どうなってんだよ!」
突然のことに意味がわからず慌てるダーク。しかし、
「落ち着いてよ。今から調べるから」
メイは落ち着いたように気絶している源十郎を退かすと、コンピューターを調べていく。
すると、目の前のモニターに地図と何かの軌道が表示された。
「なんだこれ?」
「……Nuclear missileって核ミサイル!?」
メイは驚きで声が裏返る。
「は!? ちょっと待て核ミサイルっていうと核だよな? こいつの言ってたことは本当だったのかよ!?」
「こんな時に馬鹿やってる場合じゃないわ。――核ミサイルが今のスイッチでこの場所に向けて発射されてる……飛距離を考えると時間的にはあと十分程度で到着って所かしら」
メイはキーボードを叩き、モニターを見ながら冷静に解析していく。しかし、それでも慌てている方なのか、何度も何度も舌打ちしながら片手で頭を掻いた。
「キャンセルとか出来ねぇのかよ」
「無理。もう発射されたものをどうやって無かったことにするのよ。迂闊だったわ。まさかこの人、こんなことの準備をしているなんて夢にも思わなかった」
「逃げるのは?」
「馬鹿言わないで、十分でどこまで逃げるつもり? 核なんて爆発したら被害はこの街一つじゃ収まらないの……よ」
言い終えるよりも先に、何か思い当たることでもあったのか片手を顎に当て何かを考え始めるメイ。
「あ…………。でもダメか。あれは完成してないし」
一人で思いつき、一人で落ち込むメイだったが、見ているダークには意味がわからなかった。
「あれってなんだよ」
「合体ロボット。あれさえあれば、核を直接掴んで方向転換させれば町も何もかも平和に解決出来る。でもメインのロボットが完成してないからどうにもならない」
「あ~。あの来る前に良平が弄ってたやつか」
「弄ってたぁ!?」
ダークの言葉が聞き捨てなら無かったのか驚愕するメイ。
「あぁ。ちょっと待ってろ。俺じゃわかんねぇから」
ダークはデヴィルブラックから元の姿に戻ると、胸ポケットからメガネを出し掛ける。
良平はメガネのブリッジを上げて位置を修正し、地下施設での出来事を簡潔に説明した。
「…………」
しかし、それが信じられなかったのか、メイは口をパクパク開閉しながらも何も言えないようだった。
「いや、でもそれでシミュレートが成功しているとは限らないし……」
「……大丈夫。あたしがそんな簡単なミスしてるとは思わなかったし、りょ~ちゃんの言ってることが本当なら間違いなく成功してる。だけどそれはロボットの設計図としての完成であって、ロボット自体が完成してるわけじゃない」
メイは首を横に振りながら良平の言葉を否定した。
「でも……もしかしたら上手く行くかもしれない」
「どうするの?」
メイは良平の方を見るとジッと瞳を見つめてきた。良平はその大きな双眸に見つめられ、地下施設で見た映像の言葉を思い出し、急にドキドキしてきた。だが、
「りょ~ちゃん。合体よ!」
「……は?」
良平の時が一瞬止まった。メイの言っている意味がわからなかった。いや、正確にはわかりたくなかったのかもしれない。
「だから、りょ~ちゃんのさっきの話が本当だとしたら、りょ~ちゃんはもうロボットの仕組みをわかってることになる。ということはりょ~ちゃんはメインロボットの代わりになれるってこと。だからりょ~ちゃんに合体してもらえばあの核ミサイルを止めることが出来るってことよ!
「……はぁああ!?」
良平は驚愕した。しかし、確かに出来ないことはない方法だけに絶対無理だとは言い切れなかった。
「お願い! りょ~ちゃんの肩にあたしたちの命もこの町の未来も掛かってるのよ!」
そんな言い方をされたら根っから善人の良平には断ることが出来るわけも無く、力なく頷いた。
▽
良平とメイは急いで鷹峰邸の屋敷の外に出ると空を見上げた。しかし、真夜中の空は真っ暗で何も見えない。
メイはポケットから何かのスイッチを取り出すとボタンを押す。
「準備は良い? 合体の仕方はさっき話したとおり。でも大丈夫。りょ~ちゃんなら出来るって」
だが、良平には返事をする元気も無く深くため息を吐くとメイから離れた。
それでも一度決めてしまったのだからやるしかない。あまりに大きな仕事だけに今まで以上に深く集中する。瞳を閉じる。
メイの家の地下施設で見た合体シミュレーション。
メイに教えられた合体の仕方。
二つを脳内で反芻し、深くイメージする。
――守るべき街や皆の為に……。
良平は目を見開くと、イメージを具現化する。
人間の質量、身体の大きさ。全てを無視して良平の身体が胸の中心に蒼い球体の付いた、白を基調にした巨大なロボットへと姿を変えた。
――まずは第一段階クリア。ここまではさほど難しくない。問題は次だ。
自分の両手を開閉してきちんと変身出来ているかを念入りに確認。すると、良平たちの頭上に五つの機影が姿を現す。
良平はそれを見上げて確認すると、大地を強く踏みしめ高く飛び跳ねる。
「大天空合体!」
かなり恥ずかしいが、メイが言うにはこの言葉を言わないことには5体のジェット機に変形シグナルが飛ばないらしく、良平はヤケクソで叫んだ。
刹那、自分の周りに飛んでいる全てのジェット機が次々に姿を変え始めた。それを見た良平も身体の形を変えるべく意識する。
ドリルジェット1と2が変形、ドリル部分が斜め前に移動し、良平の両足を収納するためのハッチが開く。そこに良平の足先に吸い込まれるようにドッキング。
ライトジェットとレフトジェットがそれぞれ形を変え、肩から先の腕へと変形する。良平の腕に付いていた元の腕はそのまま背後にスライドして背中に回る。開いた胴体に新たな両腕がドッキングされる。
最後に頭上から降りてきたステルスジェットが良平の背中へとドッキングを果たすと、ステルスジェットから飛び出したヘルメットが良平の頭部へと被さり、一直線に伸びていた角が二本に分かれて、綺麗なVの字となる。最後に胸の中央にあった蒼い球体を支えていた両サイドの装置が僅かに開き、それに合わせるように球体が前に出て、蒼白く光を放った。
「…………」
ステルスジェットの推力によって宙に浮き続けている合体した良平の巨体。良平は変わり果てた自分の身体を見て合体が成功したことを知る。合体の際に多少の痛みが両足や胴体、背中に走ったが、今は両手両足が自由に動くことも確認出来た。
『良平。核ミサイルが来るぞ』
ダークの声で我に返り、頭上を見上げると、空にキラリと光る物体がこちらに向かってきているのが見えた。
「あれか……」
良平は自分が合体させられていることへの苛立ちや恥ずかしさを全て目の前の核ミサイルにぶつけるべく空を飛行する。合体ロボットというからかなり扱いが難しいと思っていたが、メインは良平なので、意識するだけで全てのパーツが自分の身体のように思いどおりに動くので、今の良平には大したことではなかった。
核ミサイルと一定の距離を取った場所に停止すると、相手が来るのを身構える。
「ダーク。俺、反射神経とかダメなんだけど……」
『……知ってる。まぁ、その辺は俺がアシストするさ』
「ありがと」
最初に二重人格だと知った時は、めちゃくちゃ嫌だったけど、今思うとダークのような性格の奴で良かったと良平には思えた。これが源十郎のような人格だったらと思うと背筋がゾッとした。
『行くぞ。ファイブカウントで行くからな。5,4,3,2,ゴー!』
「え!?」
てっきり1のあとに来ると思っていただけに良平のタイミング少しずれた。焦った良平は急いで身体を横にして核ミサイルとすれ違う完璧なタイミングでそれを受け止める。しかし、核ミサイルにも推力があり、気合を入れないとそのまま持っていかれそうになる。
『俺の力もお前に貸す! 一気に身体を反転させろ! そのまま大気圏まで行くぞ!』
ダークの声で良平は身体中から力が湧き上がって来るのを感じた。良平はダークに身体を言うとおりに動かすことで答える。喋るだけの余裕が無かったのだ。
ステルスジェットの推力を利用して身体を反転させると核ミサイルの先を上に向けることに成功し、そのまま自分も更に高く舞い上がる。
しばらく浮上を続けると、良平の身体中が凍結を始めた。そのことで両手足と背中の出力が格段に落ちる。
「この辺でいいんじゃないかな?」
『だな。あとは思いっきり上に投げつけたら最後だ』
良平は片手で核ミサイルを掴むと、大気圏へ向けて全力で投げつける。良平の投げた核ミサイルは超高速で空を突き破るとすぐに大気圏まで飛んで行ったのがロボットの視覚になっている良平には確認出来た。
「……アルティメットバースト!!」
大気圏に浮く核ミサイルに向けて良平は叫んだ声が、夜空に響く。刹那、胸の球体が青白く光ると、更にそこに光が収束していく。巨大ロボットに合体した良平の究極技だ。
一点に収束した光は、大きな轟音と衝撃を残して一直線に核ミサイルへと飛んでいく。
通常、大気圏に投げつけただけではその場で爆発することない。そのまま放置すると重力で落ちてくるのでまったく意味がないのだとメイから説明されていた。
そしてそれを破壊するには自分が影響を受けない超遠距離からの攻撃で破壊しなければいけないのだという。それを可能にするにはこの技しかったらしい。
大声で恥ずかしい名前を叫ぶことに抵抗があった良平だったが、その甲斐あって核ミサイルはメイの予想どおり、大気圏で花火のように盛大に爆発した。
良平はその爆発が地上で起こらなくて本当に良かったと思えた。
地上付近まで戻ると合体を解除、五体のジェット機は再びメイの地下施設に戻るために飛んでいった。良平はそのまま地面に着地すると、すぐに元の人間の形に戻る。
「ふ~上手く行って良かったよ。ダークがカウント早めた時はどうしようかと思ったけどね」
『仕方ねぇんだ。あれにも意味がある。反射神経弱い奴がカウントどおりにやったって遅れるのが関の山だろ。だからわざと早めたんだよ』
「……だったら最初に言ってくれたら良かったのに」
『それは言ったら意味ねぇだろ』
ダークはそう言って笑った。それに釣られて良平も笑った。
こうして良平とダークの異常な日常は終わった。
▽
フライパンに卵を落とすと姉の分の目玉焼きを焼く。
「おはよ~」
するとタイミング良く姉も起きてきた。良平は冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注ぐと寝起きの姉に渡した。
「おはよう。朝食もうすぐ出来るから待ってて」
姉は生返事を良平に返すと牛乳を持ってリビングの席に着いた。
事件から二日が経っていたが、世間ではまったくと言っていいほどニュースにはなっていなかった。
ニュースになったことと言えば、鷹峰源十郎が自宅で目を覚ますと記憶を失っていて、しばらく病院で治療を行うことになったということと、大気圏で核が爆発した時に起きる高高度核爆発というので色々な機械に異常が発生しているということだけだった。
記憶を失うと言うのは普通なら悲しいことだが、源十郎に限っては失ってくれた方がまた変なことを考えなくて良いのかもしれないと思えた。
高高度核爆発に関しては大気圏で核ミサイルを爆発させてしまったことに問題なのだが、メイが言うにはあの状況ではあれが最善だったということらしく、その現象もすぐに回復するというのを聞いて良平も少し安心していた。
良平は姉の分の朝食を作り終え、身支度を整えて家を出た。
いつもの時間のいつもの通学路。あの異常な日常ではない普通の日常が戻ってきた……。
「おっはよ~。りょ~ちゃん!」
後ろから良平を襲う重圧と聞き慣れた声。明らかにメイだ。
「おはよう。重いから降りてくれ……」
朝から嘆息する良平。メイはメイで女子に重いとか言うなと喚いているが、いつものことなので良平は適当に聞き流すことにした。
メイは事件が終わったあとも学校で先生を続けていた。どうやら生徒に勉強を教えるのが面白いらしくしばらくは続けると言っている。
「あ、櫻井さんおはようございます」
メイの話を無視しながら歩いていると目の前の角から正宗が姿を現した。
「おはよう。もう生活には慣れた?」
正宗は父親が入院してしまったと言うのと、丘の上の家はどうやら嫌らしくて、良平たちの近所に家を借りて、そこに住むことにしていた。
「はい。昨日の夜から姉さんも来てくれたので、二人ですから大丈夫ですよ」
正宗はそう言って可愛らしい顔でニコッと笑った。
そして一番気になるところだった響子のことだ。
「待ちなさい、正宗。ハンカチ忘れてるわよ」
正宗の後ろから白髪の響子が慌てて飛び出してきた。
「あ、櫻井君。おはようございます」
「おはようございます……」
鷹峰響子の精神は元に戻っていた。髪の毛に関してはメラニンの欠如が問題らしいので、生え変われば問題ないだろうということだった。それに関しては髪の毛を染めれば今までどおりなのではないかと良平は思ったのだが、響子は精神が崩壊していた時のことも覚えているらしく、そのことを忘れないために生え変わるまではそのままでいたいのだそうだ。
「櫻井君。あの……」
響子は恥ずかしそうに頬を朱に染め、片手で唇を押さえる。良平は一瞬首を傾げたが、彼女のその行為で鷹峰邸でダークがしでかしたことを思い出す。
そう。記憶を全部持っているということは、あのキスのことも覚えているということだ。
「あ……」
「私は初めてだったんですから、せ、責任取って下さいね」
響子は顔を真っ赤にして急いでスカートを翻しながら踵を返すと、学校へと駆けて行った。
「お~。じゃあ櫻井さんは僕のお兄さんになるってことですね」
「ま、正宗君まで!」
正宗は二人の間柄を察したのかニヤリと意地悪そうに笑って、姉を追って走って行く。
「はぁ~。僕にどうしろって言うんだよ……」
「……りょ~ちゃん」
良平は、その声に背筋がゾッとして全身に鳥肌が立った。声の方を見ると、メイの鋭い視線が自分へ向けられている。
「今のはどういうことですか?」
「あ、あのメイ……さん。なんか敬語が痛いんですけど」
「あたしはどういうことかって訊いているんですけど? 質問を質問で返さないで下さい」
メイは一歩も引く気がないといった様子なので、良平は深くため息を吐くと、逃げることにした。
「あ、りょ~ちゃん待ちなさい!」
背後で叫ぶメイの声が聞こえるが、そんなことを言われて待つ奴がいるわけがないと良平は思った。
『モテモテってじぇねーの』
ダークが面白そうに笑う。まるで他人事だ。
「ダークだって同じ僕だろ! それに鷹峰先輩のは君のせいじゃないか!」
『いいじゃねぇか。お前もあの姉ちゃんに惚れてたんだから』
「惚れてたんじゃない。憧れてたの! ってダークも!?」
『俺たちは元は一心同体だからな』
またダークは笑った。
「待ちなさいってば~」
「あ、櫻井君。浮気は許しませんからね!」
いつの間にか響子も追い越してしまったようで、追いかけてくる人数が増えてしまう。
「も~。勘弁してくれよ!」
異常な日常は終わったとばかり思っていたが、これからもまた変な日常は続くのではないかと良平には思えてならなかった。
初めて「小説家になろう」に投稿しました「良平とダーク」です。拙い文章ですが、ここまで読んで頂いた方々には感謝してもしきれません。
本当にありがとうございました!




