アンバランスな殺邑出身者
気配がない男は意外と目立つ外見をしている。
中肉中背…多少高いか?特に目立つようなこともない黒髪短髪。
一見するとありきたりだが、その目と顔立ちが全部台無しにしている。
血みたいな赤い色の瞳と、怒鳴り声に似つかわしくない美形ぶり。
多種多様な色の瞳がある天では、別に赤目は珍しくないが、彼のは鮮やか過ぎる。
…暗闇で見たら怖そうだな。
「別に怒鳴ることないでしょう、あなたみたいな顔の人は苦労しませんね!」
「はあ?俺に対する第一声が”どこの隊の術師ですか?”だったお前に言われたくないね!」
そう、男は本当に怒鳴り声が似合わない顔だちをしている。
眉間にしわを寄せている様はいかにも好戦的だが、顔の造りは怜悧だ。
眼鏡をかけて小難しい本でも読んでるのが似合いそうな外見でこの性格…。
なにか妙な違和感…アンバランスな部分が目につく。
「…未だに僕には術師に見えます。」
「表出るかてめえ…!」
気配を完全に断っているのを見せられなければ、俺も術師だと判断しただろう。
しかし、術師じゃないというのに男の武器が見えない…。
「…もしかして暗器使いか?」
無意識にこぼれた言葉に男が目を見開いてこちらを見る。
「へえ、…お前誰?」
「創子、相手に名を聞くなら自分から名乗りなよ。」
「うるせえな…つーかお前が呼んだから名乗る意味ねーじゃん。」
「…二人は知り合いか?」
若干、識と名乗った青い男の口調がくだけてる気がする。
となると二人はすでに顔見知りなのかもしれない。
「ええ、僕は補佐部隊”白”で、創子は遠征部隊”茶”に所属してるので、
よく他の隊の応援で鉢合わせするんです。」
4つある補佐部隊の中で白は制御系の術師が所属する部隊。
遠征部隊は東西南北の区域に分かれている4部隊に、どの地域にも派遣される茶。
術師の相性の関係もあるから、
たいていは同じ部隊に同じ術師を就けると聞いていたんだが。
毎度違う部隊に派遣されるという茶とそんなに遭遇するのだろうか…?
「こいつ優等生だけど、周りが修羅場なんだよ。」
「…修羅場?」
まるでこっちの疑問を読んだような発言。
やっぱり創子と呼ばれた男は一筋縄ではいかない存在な気がする。
「男女問わずもてるから、どこの部隊行っても修羅場。
最近じゃ、俺以外の奴と任務が終わるまで口聞かない時すらあるぞ。」
「…数回会話しただけで態度が変わるのが怖くて…。」
…結論、二人とも面倒な奴らな気がする。