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空似

作者: アーモンド
掲載日:2011/08/31

 俺が刑事になってから、早くも7年もの歳月が流ていた。最近になって、よく印象に残った事件は何かと聞かれることがある。だが俺は、その問いに答えられない。そんなのは当たり前の事だ。どの事件も、俺にとっては生涯忘れることのできない、忘れることを許されない物ばかりだからだ。当事者にとっては、少なくとも人生を大きく変えてしまう様な事を俺たちは事件と呼ぶ。だから少なくとも俺は、事件に大きいも小さいも印象に残るも残らないもないと考えている。最近の若い奴等がどうかは分からないが。

 そんな俺でも、自分が初めて担当した事件の事は特別な思い入れがある。それは、俺がまだ派出所勤務から警視庁の捜査一課に抜擢されて間もない頃の事だった。それなりに期待もされていたし、何より、俺自身のやる気も押さえられないと言う時期だった。梅雨場独特の天候のお陰で、その日も朝から雨が降っていた。一番下っぱの俺は、過去の事件の資料だかを整理していた。天下の捜査一課と言えども、事件が起きなくてはこうした資料の山などとも格闘する。だが、その日は違っていた。



 降りしきる雨の中、俺は外を歩いていた。冷たく疎ましいはずのその雨を、初の捜査と言うことで、気持ちが高揚していた俺には、妙に気持ち良く感じられた。だが、たどり着いた現場では、そんな気分も一変してしまう様な光景が広がっていた。狭い部屋の中には、被害者が暴れた痕跡が痛々しく残っている。畳には爪痕が、木で出来たテーブルは足が折れている。一体この部屋で何が起きたのだろうか。これ程までに荒れた現場を見たことの無かった俺にとって、想像など到底出来やしなかった。

 被害者は「高橋かおる」、二十代前半の女性。死因は、首を縄で締め付けられたことによる窒息死。仕事は会社の受付を担当していた。交際中だった男もおり、至って普通の生活を送っていたと言う。そこで俺たち警察が最初に目を着けたのが交際相手の「河野隆平」だった。動機は痴情の縺れによるものと見ていた。


 河野は白だった。犯行時刻、河野は自宅近くのコンビニの監視カメラに映っていた。つまり、アリバイがあった。これにより捜査は難航を極めたのだった。犯行現場の騒然さとは裏腹に、この事件には手掛かり、証拠が少なすぎた。唯一の証拠は犯行に使われた縄だけだった。それにも指紋は着いていない。警視庁始まって以来の難事件だと言う声も上がっていた。マスコミ各社では「眠れる森事件」などと挙げられた事もあった。それは被害者が白いドレスの様な服のまま殺されていたからだ。殺した後、犯人が着替えさせたと思われることから、犯人の思考は極めてサイコな状態であると言われた。だが俺には、そうは思えなかった。イカれた人間に証拠を残さないような犯行が可能なのだろうか。俺の見解は「警察への挑発」であった。


 だが、事件は以外な形で幕を下ろしたのだった。河野が自主してきたのだ。「あの女に殺される、自主するから警察で保護しろ」と言う形で。俺を始めとする刑事達が唖然とする中、河野は犯行について語り出した。白いドレスを着せたのは警察への挑発ではなく、河野の趣味でやったそうだ。聞いていて何度か殴りかかりたい気持ちになったが、先輩方が目で制してくれたお陰で踏み止まれた。そして、河野の話は次第に可笑しな方向へと傾き始めたのだった。夜な夜な白い服を着た女が自分の部屋に現れ、河野の首を絞めるのだという。俺たち刑事は半信半疑で河野の話を聞いていたが、鬼気迫る河野の様子から、やむを得ずに裁判の日まで警察が保護することになった。


 次の日、河野は死んでいた。首には両手で首を絞められた痕が残っていた。



 あの日、河野の身に何が起きたのか分かる人間は居らず、自殺として片付けられた。釈然としない終わりを迎えた俺の初の事件。こんな形の終わりかたしか出来なかったせめてもの償いと言う気持ちから、俺は毎年あの事件の起きた家へ通じる道に花を添えるようになった。

 この物語を読んでいただき、ありがとうございます。この作品は前回の「道中」という短編と繋がっている話なのですが、今回はよりホラーに近い仕上がりになっています。

 全三部作と言う構成を考えているので、良ければこの次の話も見てください。


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