所謂反転アンチ
恋。
それはとても凄いエネルギーだ。それさえあれば漢は何処までだって強くなれる。
俺、根虎玲太もその一人だ。
俺には愛して止まない一人の彼女がいる。
その女性の名前は、浮木詩奈。
出会ったのは4歳。付き合ったのは小5。
高1になった今でも続いている。
と言うか、別れようなら俺は死ぬと思う。
マジで。
そんな彼女だが、少々高飛車な性格をしている。
もちろんそれに見合う程魅力的な女性だし、そんな自信家なところも大好きだ。
だからこそ、彼女と付き合うまでは数多の過酷な愛の試練を乗り越えてきた。
例えば、彼女が美味しいご飯を食べたいと言えば、俺は三つ星レストランで修行し、料理を極めた。
彼女が付き合うなら強い男じゃないと嫌と言えば、俺は筋トレやら道場やら不良との喧嘩やらで闘いを極め、地下格闘場で最年少チャンピオンになった。
彼女がブランド物のバックを欲しいと言えば、年齢を偽ってマグロ漁船に乗り、稼いだ金を元手に株で巨万の富を築き、ブランドを買収して彼女好みのバックをつくり贈った。
こうして弛まぬ努力の末、俺はなんとか彼女のお眼鏡にかない、付き合う事ができた。
だが慢心してはいけない。こんな程度で彼女に釣り合うと思ってはいけないのだ。
愛の試練は何時だってやってくる。
高校への進学の時もだ。彼女の志望校(偏差値82)の高校に合格するため、寝る間も惜しんで勉強し、なんとか受かることができた(彼女は何故か不合格になった)。
最近は初心に帰るため、よくマグロ漁船に乗っている。
同僚からはマグロの命を定める者とまで呼ばれている。光栄なことだ。
だがやはり幸せなのだ。
いや一参っちゃうよね。夜中、ふとした時に声が聞きたいからって電話してくるんだよね。可愛いよね?可愛いよなぁ!
それだけじゃない。
彼女の薬指には俺が贈った指輪がある。
これの意味が分かるかな?
そう━━彼女と俺は、将来の結婚を誓いあった仲なのだ。なのだ…のだ…のだ…
そして今日は婚約者の彼女と久しぶりにデートをする約束なのだ。
何時もなら俺は待ち合わせ時間の5時間前には会う場所にいるのだが、今回は大事な話があるから、時間ぴったしに来てと言われた。
大事な話か。
なんだろう。式場探しだろうか。
まさかっお義父さん、お義母さんに御挨拶か!?
....いや、めっちゃ仲良かったわ。俺。
近所だから昔から家族ぐるみで仲良いし。
自分の両親より仲いいまであるな。
最近、お義父さんと二人っきりで釣り行ったし。岸辺だからマグロは2匹しか釣れなかったが。
全く、お義父様の前で恥ずかしい限りだ。
釣ったマグロを捌けないからとリリースしたお義父さんは本当に優しい。
俺は捌けるが。
とにかく、彼女と久しぶり会えるのだ。
彼女とは最近直接会えなかった。
高校は、同じ学校に通えなかったし、最近はずっとマグロを釣っていた。それはもうマグロの値段を変動させるくらいは。
船の上では電話も圏外だった。
そう本当に久しぶりだ。
あっ待ち合わせの店が見えて来た。
━━━━━━━
店はよくある喫茶店。
扉を開けるとカランカランと鈴が鳴った。
店内を見渡すと、大好きな人の頭頂部がボックス席の上で見えた。俺が見間違えるわけがない。
いやーにしても、俺の彼女はツムジまで可愛....誰だ?あいつ。
彼女、詩奈の隣には男が座っていた。
そいつはマグロのソテーを食っていた。
おそらく俺の釣ったマグロだろう。
いかん。驚いてどうでもいいところに気が回ってしまった。
再度、その男を見た。
背が高く、健康的に焼けた肌、煩く輝く金髪、逞しい腕、男らしい顔。
昔、詩奈の言っていた好きなタイプにストライク!スリー!バッターアウト!だ。
嫌な予感がした。
2人は、ひそひそと何かを喋っている。
詩奈がこっちを向いた。俺に気づいたようだ。手招きしている。
「やっと来た。10分前には待ち合わせ場所にいないといけないんだからね。レータ。」
「あっあぁ。悪い。」
時間ぴったしと言ったのはそっちだろう。
でもそんなところも好きなのだ。
だが、今はそんな事を考える余裕はない。
「...それで、話って?
....あと、そちらの人は?」
喉が硬い。少し声が震えているかもしれない。
「.........。」
男は沈黙している。
にやにやしている気もするし、気まずそうな表情の気もする。
「うん。大事な話ってのはねぇ...」
彼女が口を開いた瞬間、ブワッと嫌な汗が身体中から噴き出した。
彼女のイタズラっぽい笑みが、いつもは可愛いはずなのに今は、怖い。
「最近、私たち会えなかったじゃん。
電話も繋がらないことだってよくあったし。」
それはマグロを釣りに釣りまくっていたからだ。だが、俺は彼女とマグロ釣りのバランスを間違えしてしまったのだろう。
彼女はコップの中のジュースをストローで混ぜながら続けた。
「それでさ...ほら、ストーブが動かなくなったら新しくて高性能のストーブに買い換えて暖を取るのが普通じゃん。」
やめてくれ。それ以上聞きたくない。
からだがグラグラする。
耳が遠のいて水の中にいるみたいだ。
「もう、分かるでしょ。」
聞きたくないのに、慣れ親しんだ大好きな声が耳に入る。
すぐに言葉の意味を理解できない。
一文字ずつ噛み砕き、反芻しながら理解しようとする。
「もう....あなたじゃ駄目なの。」
あっ
頭がまっ白だ。何も考えられない。
いや、えっ今何て言った?
やっぱり振られたのか?俺。
そこの俺の釣ったマグロ食ってる奴に?
違う、そっちじゃない。
「ほ、ほんとに別れるのか?」
確認だ。
これでも小さな頃から付き合ってきたんだ。きっと何かのま「えぇそうよ。ほら、 リュウヤもなんか言ってやって。」
「えっ。 俺もなんか言う感じなの?」
「当たり前じゃない。新しい彼氏でしょ。」
新しい彼氏...。そうか...。
「いや、でも流石にそれは...うーん」
「いいから速く。」
「えぇと、玲太君だっけ?
あー君の彼女は貰い受けた。彼女を取り返したくば俺を倒してみろ?」
「ちょっと、最後なんで疑問系なの。もっとちゃんとしてよ。」
なんだよそれ。つまりこいつを殺せば詩奈は戻って来てくれるのか?
こいつを殺すなら難しくないだろう。
でもそれは違うのだ。絶対に。
俺とこの男のどちらもが詩奈を好きならば、詩奈に選ぶ権利があるのだ。
俺は、身を引かなければいけない。
「.....婚約のこともいいのか?」
あぁ本当に無様だ。
頭の中では身を引かねばと思っているのに。
「....当たり前じゃない。別れるのよ。」
俺は今、どんな顔をしているのだろうか。
少なくとも、ここにはもういられないな。
「分かった。....今まで...ありがとな。」
これ以上は喋れない。何かが決壊してしまう。
「それじゃ、さよなら。」
俺は席を立った。
「えっあっちょっと待って!えっと!話はまだ終わって!」
彼女が何かを言っている。
でも聞きたくない。
少しでもここから、彼女から離れたい。
俺は走って店を出た。店を出た後も。
そういえば、彼女の気を惹くために最初に鍛えたのは走力だっけ?
皮肉なことだな。
「玲太っ。」
最後に彼女の俺の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
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どれだけ走ってきただろうか。
まだ身体がグワグワする。
耳がキーンとなっている。
目が白黒の幾何学模様を薄く描いている。
後、目が冷たい。これは多分涙だ。
プルプル....
電話か。
「チッ 誰だよ。」
しょーもないやつなら切ってやろう。
「....優斗か。」
近重優斗。俺の幼馴染で親友だ。
詩奈とのことでよく相談もしていた。
もうすることもないだろうが。
俺は応答ボタンを押した。
歩きながら。
なんとなく身体を動かしていたかった。
「おっでた。なぁレータ。今日暇だったらスポッピャ行かねー?やっぱムリか?どうせ今日もあいつとイチャイチャやってんだろ?」
相変わらず元気な奴だ。
俺は、ちゃんと話せるかな。
「....あっしっ詩奈と、は、わ、...わか、
分か....れた....」
あぁ言ってしまった。
「えっいや嘘だろ。あいつがそんなわけ....てかお前大丈夫か?泣いてんだろ。」
やっぱり俺は泣いていたのか。
「あ゛っあぁ、振゛ら゛れ゛だあ゛ぁぁ゛。
詩奈゛にっ゛振゛ら゛れ゛だあ゛ぁぁ゛。」
あぁマズイ。溢れてしまう。
「おい!本当に大丈夫か?何処だよ今行くから。」
「はぁ、はぁはぁ...ふぅー。ありがと優斗。もう大丈夫だ。少しスッキリした。」
「そ、そうか?じゃあすぐに家に帰って休め。愚痴はその後いくらでも聞いてやる。
にしてもあいつも見る目ないな。お前振るとか。浮気相手は赤楚○二かなんかか?」
「ハハッ。相手が赤楚○二なら仕方がないな。ありがう。それじゃ、またな。」
「あぁまたな。明日はサイゼでも行こうぜ!
元気だせよ!」
ピッ
あいつは本当にいいやつだな。
俺が女だったら惚れてたぞ。
ふぅー少し周りが見えてきたな。
とりあえずここは何処だ?周りも見ずにずっと歩いてたからな。
えーと白線、信号機、そんでトラック。
あ、ここ道路のド真ん「嘘だろ。」
俺にバカでかいトラックが猛スピードで迫ってきた。
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うわーやっちまったなー。
運転手の人にも悪いことしちまった。
俺の完全自業自得だ。
もう身体中の感覚がほとんどない。
血がドバドバ出ている。
助からないな。
周りに人が集まって煩い。
はー俺が死んだらどうなるかな。
父さんや母さんは悲しむよな。
爺ちゃんや婆ちゃんもか。
優斗とのサイゼも行けないな。
高校の文化祭とか楽しみにしてたのに。
もうマグロも釣れねー。
...これはどうでもいいか。
彼女は、
詩奈は悲しんでくれるだろうか。
.....あれ、詩奈のことを考えると
血がドバドバ出ていく......。
血圧が上がってんのか?
あぁ
そういうことか。
あぁ。
溢れ出てしまう。
この、気持ちが。
きっと駄目なのだろう最期にこんなこと考えたら。
この言葉は俺の半生を否定してしまう。
愛のために生きてきたつもりの俺にとって最悪の最期の言葉だろう。
意味も無い。
でも、溢れてしまう。
いいじゃないか。
言うくらい。
「ぁ......
あの元婚約者ゼッてぇぶん殴る...!!」
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俺、死んだのか?
駄目だな。意識がまとまらない。
ここは?
温かい...水の中?
凄い、落ち着く。
身体も動かないし目も耳も駄目か。
うお!?
なんだ?!
引っ張られる?!
いったいなんな......
━━種類名 人間が誕生します。
はっ?なんだよ誕生って誰が?
まさか、俺?
ってか、なんの声
━━現在獲得可能なスキルがあります。
獲得しますか?




