AI小説固有の課題解決構造についてーAIに40万文字を超える長編を書かせた方法
――実際にAI小説を作った側から見た、AI執筆の運用紹介――
なろうのエッセイでAI小説関係の話題が出ているようなので、参考までに、私がAI本文を利用して小説を書いていたときの運用を紹介してみます。
ここでいうAI小説というのは、「AIに全部丸投げして、出てきた文章をそのまま投稿する」というものではありません。少なくとも私の場合は、そういう使い方ではなく、かなり細かく設計し、管理し、出力後にも検査し、必要なら何度も差し戻す、という形で使っていました。
冒頭の説明画像は、AIに本文を書かせた「AI本文利用」の40万文字を超える長編小説
『AI少女の転生特典~119番を呼べなかったAIが異世界で俺を再構築する。代償は利き手、甘味、そして彼女の命~ 』(画面下のランキングタグにリンクがあります!)
の執筆後期に使っていた構造を、あとから整理したものです。
見ての通り、かなり面倒です。
「AIを使えば楽に小説が書けるのでは?」と思われるかもしれませんが、実際に長編をそれなりの形で成立させようとすると、むしろ別種の手間が発生します。小説を書く手間が消えるというより、手間の種類が変わる、という感覚に近いです。
■ AI小説っぽさは、ある程度は構造で抑えられる
よく「AI小説っぽい」と言われるものがあります。
たとえば、表現が妙に整いすぎている。
感情が説明的で、身体感覚が薄い。
会話がそれっぽいのに、キャラの声が残らない。
場面ごとの引きはあるのに、物語全体として何を描きたいのか分かりにくい。
伏線のようなものは出てくるけれど、後半で回収されない。
あるいは、前に出てきた設定と次に出てくる設定が微妙にズレる。
こういう「AI小説っぽさ」は、完全ではないものの、Claude CodeやCodex CLIのようなAIエージェントを使って、かなりの部分を抑えることができます。
具体的には、本文をいきなり生成させるのではなく、まず規約、世界観、ビート、プロット、シーンカード、本文というように、情報を階層化します。
画像中央にある六層構造がそれです。
一番上にあるのは「規約」です。
これは、記号の使い方、正書法、出力時の禁止事項など、作品を問わず守るルールです。
その下に「世界観」があります。
地理、階級、魔法体系、固有名詞、過去に確定した出来事など、作品ごとの基盤です。
さらに「ビート」があります。
物語全体の転換点です。どこで主人公が変わるのか、どこで関係が動くのか、どこで大きな失敗や決断が起きるのか、といった骨格です。
その下に「プロット」があり、さらに各話ごとの「シーンカード」があり、最後に「本文」があります。
この順番がかなり重要です。
AIに本文だけをいきなり頼むと、AIは目の前の一話をそれっぽく仕上げることはできます。ですが、長編全体で見たときに、どこへ向かっているのか、何を積み上げているのかが曖昧になりやすいです。
逆に、上位の構造を先に固めておくと、AIはその枠内で本文を作ることになります。
つまり、AIに「物語そのものを考えさせる」のではなく、「こちらが設計した物語を、章本文として出力させる」形に近づきます。
■ AIに任せていい部分と、任せると危ない部分
私がAI小説を書くうえで一番重要だと思っているのは、AIに任せる部分と、自分で握る部分を分けることです。
AIは、細かいチェックや、抜け漏れの確認、表現の言い換え、シーンカードの整理、過去設定との照合などはかなり得意です。
たとえば、前話までとの流れのズレや食い違いを拾わせる。
使いすぎている表現を検出する。
三点リーダやダッシュの表記揺れを確認する。
キャラの口調がブレていないか見る。
シーンの目的、対立、引きが入っているか確認する。
こういう部分は、人間でも、疲れていると見落とします。AIエージェントを使う価値はかなりあります。
一方で、根幹にあたる部分までAIに任せると危ないです。
画像でいうと、左側の「三大原則」や、中央の上位層にある「規約」「世界観」「ビート」あたりです。
ここを使用者が理解しないまま、既存の人気作を読ませて、
「これっぽい作品を作って」
と頼むと、かなりおかしな方向に進みます。
表面的にはそれらしく見えることがあります。
人気作っぽい展開、人気作っぽいセリフ、人気作っぽいキャラ配置、人気作っぽい事件。
一話ごとに見れば、それなりに読める文章が出ることもあります。
ただ、問題はそこではありません。
物語のポイントがズレるのです。
その作品がなぜ面白いのか。
主人公のどこに読者が感情移入しているのか。
どの関係性が作品の核なのか。
どの不満を、どのタイミングで解消する構造なのか。
読者は何を期待して次話へ進んでいるのか。
このあたりをAIが勝手に正しく汲み取ってくれるとは限りません。
むしろ、表面のパターンだけをなぞって、「追放」「ざまぁ」「転生」「成り上がり」「無双」「勘違い」「契約」「婚約破棄」などの記号を組み合わせた、どこかで見たようなものならまだしも、成型プラスチックの色と塗料の色が混ざりあったプラモデルのような違和感が残る作品を作りがちです。
その結果、序盤はそれっぽく始まっても、後半に進むほど、
「結局これは何が言いたい話なのか」
が分かりにくくなります。
これはAIが文章を書けないという話ではなく、使用者が作品の根を握っていないと、AIはその根の代わりに平均的な物語パターンを前後の繋がりを無視して差し込んでしまう、という話です。
■ 三大原則は、かなり地味だが大事
画像左側にある三大原則は、かなり地味です。
一つ目は、正書法を守ること。
記号、表記、括弧、三点リーダ、ダッシュ、半角スペースなどを整えることです。
これは「そんな細かいこと?」と思われるかもしれませんが、AIっぽさは細部に出ます。本文中にマークダウン的な記号が残る、半角スペースが妙に混ざる、ダブルクォートが浮く、三点リーダの数が揺れる。こういうものがあると、それだけで読者の集中が切れます。
二つ目は、抽象を避け、具体・五感・身体性で書くこと。
AIは「胸が温かくなった」「不安が広がった」「彼女は決意した」のような、感情をまとめる表現をよく出します。もちろん人間も使いますが、そればかりになると、場面が薄くなります。
寒いなら、指先がどうなっているのか。
緊張しているなら、喉や息や目線はどう動くのか。
食事なら、匂い、温度、歯触り、器の重さはどうなのか。
恐怖なら、何を見て、何を聞いて、どこに逃げ道がないと感じているのか。
AIに「もっと具体的に」と言うだけでは不十分で、どの場面で何を具体化するのかを、シーンカード側で指定する必要があります。
三つ目は、設定を事前固定し、全話で一貫させること。
キャラの口調、髪色、階級、年齢、関係性、過去の出来事、伏線の状態。こういうものを「だいたい」で進めると、長編では必ずブレます。AIを使う場合、そのブレはさらに増えやすいです。
だから、キャラシートや世界観バイブルや作中に登場した事実記録のようなものを用意して、確定事項を管理します。
これはもう、執筆というより、半分くらい開発管理に近いです。
■ 三段ガードでAIの悪癖を潰す
画像右側には「三段ガード」があります。
これは、AI小説っぽさを防ぐための防御層です。
第一の壁は、生成中の規約です。
つまり、AIに本文を書かせる前に、出してはいけない表現、守るべき記号、避けるべき語彙、身体反応の入れ方などを指定します。
第二の壁は、設計テンプレです。
プロット、キャラシート、伏線台帳、シーンカード、過去執筆分の事実情報などで、作品の整合性を守ります。
第三の壁は、出力後の検出です。
出てきた本文に対して、機械的なチェックや目視チェックを行います。
生成時にいくら注意しても、AIはたまに変なものを出します。
設計テンプレがあっても、本文段階で癖が出ます。
出力後チェックだけに頼ると、そもそも設計がズレているものは直しきれません。
だから、生成前、生成中、生成後の全部で見る必要があります。
そして、ここまでやっても完全ではありません。
AI固有の課題が魔法のように消えるわけではありません。
細かいチェックは必要です。
構造そのものの微調整も必要です。
何話か書いたあとで、「この運用だとこの作品には合わない」と分かって、ルールを直すこともあります。
正直、出てきた変な文章、単語を手で直したほうが早いのですが、後に響くため、全部構造から作り直します。
AI小説は、ボタン一つで完成品が出るというより、手は早いけど癖の強い共同作業者を相手に、設計書とチェックリストで制御しながら書くもの、という感覚に近いです。
■ AI判定ツールは、あまり当てにしすぎないほうがいい
ちなみに、この構造で書いた小説は、いわゆるAI小説チェッカーでは「非AI」率がかなり低い判定で出ます。
一方で、自分が普通に書いた文章のほうが「AI」率が高く出ることも多いです。
もちろん、参考にはなります。
表現が単調ではないか、AIっぽい語彙が多くないか、機械的な文章になっていないかを見る補助としては使えます。
ただ、それを絶対視するのは危険です。
そもそもAI判定が百パーセント正確であるなら、それは逆に、「AIと疑われない小説をAIが百パーセント書ける」ということとほとんど同義になってしまいます。
判定できるということは、回避もできるということです。
そして、判定基準が表面的であればあるほど、表面的な調整で抜けられてしまいます。
■ すでに書ける人は、自分で書いたほうが早い場合もある
ここまで読んで、たぶん分かると思いますが、すでに小説を書ける人が、ここまで細かくリポジトリを作り、自分用のルールを整え、チェック項目を増やし、AIの出力を管理するとなると、かなり手間です。
正直、自分で勢いのままに書いたほうが早いことも多いです。
特に、キャラの声が頭の中にある人。
物語の流れを感覚で掴める人。
書きながら伏線を自然に張れる人。
文章のリズムを自分で調整できる人。
そういう人にとって、AIは必ずしも時短道具ではありません。むしろ、AIの出力を直すほうが面倒に感じることもあります。
では、AIを使う意味がないのかというと、そうでもありません。
自分が苦手な部分を補助させるには使えます。
設定管理が苦手なら、設定管理を手伝わせる。
表記揺れを見落とすなら、検出させる。
シーンの目的がぼやけやすいなら、シーンカードを作らせる。
地の文が抽象的になりがちなら、五感描写の候補を出させる。
一人で推敲していると視野が狭くなるなら、別角度から問題点を挙げさせる。
つまり、生成AIとの小説執筆で重要なのは、「全部任せること」ではなく、「自分が苦手・面倒と思う部分を任せること」だと思います。
そして同時に、「自分で作れる部分」「自分で作りたい部分」「作品の根幹に関わる部分」は、しっかり自分で押さえておく必要があります。
■ AI小説は、楽をする道具というより、設計を露出させる道具
AI小説については、いろいろな見解が入り混じっています。
AIなら誰でも簡単に書ける。
AI小説は全部同じような文章になる。
AIは人間の創作を奪う。
AIを使えばプロ並みの作品が量産できる。
AI作品はすぐ見抜ける。
いや、もう見抜けない。
どれも一部は分かりますが、実際に書く側から見ると、かなり単純化された話だと思います。
AIを使って小説を書くと、むしろ「自分が何を分かっていないか」が露骨に出ます。
物語の核を決めていなければ、AIはそこを平均値で埋めます。
キャラの声を決めていなければ、AIは無難な口調で喋らせます。
場面の目的を決めていなければ、AIはそれっぽい会話でページを埋めます。
読者に何を渡したいか決めていなければ、AIは既存作品の表面を歪に組み合わせます。
その意味で、AI小説は「楽をする道具」というより、「設計の甘さを露出させる道具」だと思っています。
AIを使えば、文章は出ます。
しかし、作品になるかどうかは別です。
そして、作品にするためには、結局、人間側が何を面白いと思っているのか、何を書きたいのか、どこを読ませたいのかを握っている必要があります。
AI小説の問題は、「AIを使ったかどうか」だけでは語れません。
どこまでを人間が設計し、どこからをAIに任せ、出てきたものをどう検査し、どの基準で採用するのか。
そこまで含めて、ようやく運用の話になります。
私の構造も、これが正解だと言いたいわけではありません。
ただ、少なくとも私がAI本文を利用して長編を書こうとしたときには、これくらいの管理をしないと、後半で物語が崩れやすいと感じました。
一方でここまで管理して完成品を見た時に「面白くない」と感じて、根本的な発想と視点が自分で考えていたほど良くなかったという悲しい事実が露呈することも多々あります。
AI小説に興味がある人や、逆に不安がある人にとって、少しでも「実際のところ、書いている側では何をしているのか」の参考になれば幸いです。




