断罪された悪役令嬢、追放先はアイドルの学園でした
「リリアナ、悪女のおまえは王族の婚約者にふさわしくない。ここから追放する」
そう言われてわたくしは殿下に断罪された。
学園で行われていた、卒業パーティーでの出来事。
豪華なシャンデリアが照らすフロアがやけに広く感じた。
ああ・・・わたくしは本当に一人になってしまったのね。
ふと目を開けると、そこは知らない場所。
「・・・ここは?」
首をかしげると亜麻色の長い髪が肩から滑り落ちる。
断罪の時、殿下の隣りにいた可憐な少女・ソフィーを思い出して少しだけ胸が痛む。
ーーせめて、わたくしの髪も美しい金色だったら少しは殿下に歩み寄ってもらえたのかしら。
殿下とは8歳の頃から婚約していたから、幼馴染のようなものだと思っていたのだけど、そう思っていたのは私だけなのね。
冤罪で追放するなんて・・・殿下はわたくしではなく彼女を信じた。わたくしは信頼たる存在にはなれなかったということ。
小さなため息が出る。
諸事情で侯爵家のわたくしが婚約者に最適と判断されたはずだけど、殿下とその側近たちに敵視されてしまってはそれも難しいわね。
これから国を背負っていくはずの者達がひとりの少女を囲んでいるのはどうかと思うわ。
あの国は今後どうなってしまうのだろう。
ーーもっとも、今の私にはそんなの関係ないことでしょうけど。
殿下から断罪された直後、足元に大きな魔法陣が浮かび上がったのを覚えている。
突然全身を光に包まれて驚いたわたくしにソフィーが薄っすらと笑って言ったのだ。
「ごめんなさい、可愛そうだとは思うけど追放先は決まっているの。殿下は貴方が一番嫌がりそうな場所をご希望のようなのよ」と。
まさか彼女が転送魔法を使えるなんて知らなかったわ。
一番嫌がりそうな場所・・・ね。
さて、何が待っていることやら。
卒業パーティーで着ていたドレスのまま、ゆっくりと庭園を散策してみる。
ここはきっと、わたくしがいた国ではないわね。
見たことのない形の大きな建物、緑豊かな庭園には知らない植物。
だけど、どこか通っていた学園に似た雰囲気。
素敵な庭園ね、バラのアーチが見事だわ。
婚約破棄されたのだから、もう王子妃教育や執務代理なんかもしなくてしなくて良いのよね?
あそこから追放されたのなら家族や他貴族の顔色を伺う必要もない。
・・・あら、最高じゃなくて?
今は自由になれたことを喜びましょう。
扇で顔を隠しニコニコしていると、背後に人の気配を感じた。
「わ〜! びっくりした。こんなところに人がいるなんて!」
垣根の隙間から顔を出したのは、わたくしと同じくらいの背丈の少女。
髪が短いけれどこの国では普通なのかしら?
制服のようなものを着ているし、やはり学園のようね。
「ごめんなさい、迷子になってしまったみたいなの。」
「迷子? どっちから来たか覚えてる?」
「それが皆目検討もつかなくて困っていますの。」
「そっかぁ。でも、ここにいるってことは学園の生徒だよね。もしかして転校生?」
ーーそれは良い案ね。
「そうそう、そうなんです!」
「でも、転校生が来るという話は聞いてないなぁ?」
「転校希望なの。見学をさせていただいていたのですわ。」
「ふ〜ん? まぁ、いいか。」
ーーほっ。
「キミ、美人だからきっと人気が出るよ。この学園に来たのは正解だったね!」
にっこり笑う少女。
でも言ってる意味がよく分からないわ。
「? 美人だと良いのですか?」
「ここはアイドルの育成をする学園だからね、美人な上にお嬢様キャラ。うん、良いね!」
ーーアイドル? お嬢様キャラ?? 何かしらそれ。
とは思っても口にできるはずもなく。
ここでは常識なのかもしれないし、怪しまれないように情報を集めなくては。
「あの、もし良かったら見学につきあってくれると嬉しいのだけど、いかがかしら?」
「いいよー! ぼくが案内してあげる」
「ぼく?」
「あ、ボクっ娘キャラなの。名前は鈴音。よろしくね!」
ーーボクっ娘キャラとは!? 不思議な所ですわ。
「わたくしはリリア・・・リリーよ。」
ここは知らない場所だもの、本名は捨てて新しい人生を歩むことにしましょう。
その後は鈴音に学園内を案内してもらい、寮に泊めてもらえることになった。
鈴音は学園長の孫だったらしく転入準備も手続きもトントン拍子に進んで、わたくしは無事に学園に通学できることに。
「こんなにしてもらっていいのかしら?」と問うと「いいの、いいの! 好機逸すべからずって言うでしょ」と返ってきましたが、これもやっぱり意味がわかりません。
***
一方その頃、リリアナを追放した殿下達は王宮の一室に集まっていた。
机に置かれた水晶玉に手をかざしているのは殿下の側近、魔法省長官の息子・アレクサンドル。
「・・・・・・。」
「どうだアレク、リリアナの様子は見えるか?」
「はい、水晶に映ってはいますが」
「何か問題でも?」
「・・・ご覧になりますか?」
アレクに促されて側近達と共に水晶を覗き込む殿下。
・・・が、そこに映し出されていた姿は想像と違っていたらしく殿下は不満のようだ。
「なんだこれは、なぜリリアナは笑っている?」
「さあ? 彼女が嫌がりそうな世界に転送したとソフィーからは聞いていますが」
「当たり前だ! そうでなければ罰にならないだろう」
「でも笑っていますね」
「ぐぬぬぬ」
「こんなに楽しそうなリリアナ嬢を見るのは初めてだ」
同じく側近である騎士団長の息子・ピエールが小さくつぶやく。
その言葉で余計に機嫌が悪くなった殿下は、眉間にシワを寄せたまま一人で部屋を出て行ってしまった。
***
「リリー、学園には慣れてきた?」
「いろいろと有難う、鈴音。慣れるのに一週間もかかってしまったわ」
「一週間で慣れるなんてすごいよ! リリーは順応が早いね」
この学園に来て一週間が過ぎた。
最初は戸惑うことばかりだったけれど、みんなが優しく教えてくれて、一緒に頑張ろうと言ってくれて。
こんなに居心地の良い場所は初めてだわ。
ただ、制服のスカートはちょっと短すぎる気がするけれど。
そして制服以上に衣装が・・・
ここはアイドル育成をする学園。
普通の学業の他にレッスンの授業がある。
月に一度、レッスンの成果を発表するステージがあるらしい。
鈴音がわたくしのステージ衣装を用意してくれたのだけれど露出が多くて恥ずかしすぎます(泣
あんなのハレンチだわ!
でも、せっかく用意してくれたのに断るのも失礼だしっ頑張って着こなさなくちゃ。
彼女のためにもステージでしっかりアピールするわよ。
編入してすぐにあったステージ発表、わたくしは見学だったのだけれど、とても素敵だった。
歌、ダンス、衣装。
初めて見る光景に衝撃を受けた。
眩しいのライトとキラキラの彼女達。
音楽と彼女達の親和性、揺れる衣装、息遣い。
ちゃんと気持ちと努力が伝わってきた。
なんて素敵なのだろうと思った。
幼い頃に王宮で見た隣国の踊り子を思い出す。
母は「はしたない」と毛嫌いしていたけれど、わたくしは憧れた。
たしかに惹きつけられたのだ。
誰にも言えなかったけれど、心踊るあの光景を忘れたことはないの。
あの踊り子のようにわたくしも踊りたい。
ステージ上の彼女達のようにキラキラしたいーー。
***
「リリアナ嬢は今日もレッスンしてるのか」
「少しでも時間があるとレッスンしてますね。編入生だし、周りに追いつこうと必死なのでしょう」
「早起きして、勉強の合間、食事の前、寝る前など・・・健気に見えてくるな」
「ふん、どうせすぐに飽きて投げ出すさ」
殿下はそう言ってソフィーの元へ向かってしまった。
水晶を覗き込んでいた側近たちは顔を見合わせる。
「殿下に言われて見張ってるけどさ、リリアナ嬢は本当にいじめなんかしてたのか?」
「おい、不敬だぞ。あの時は俺達も殿下とソフィーの言うことを信じてたじゃないか」
「でも不思議に思えてきたよ。こんなに真面目なリリアナ嬢がそんなことをするとは思えない」
「今はいい子のふりをしてるだけかもしれないぞ?」
側近達は疑問に思いつつも見張りを続けることにした。
***
今日もレッスンは楽しくてご飯が美味しい!
リリーこと、リリアナは友人達と嬉しそうに学園の廊下を歩いていた。
この学園に来て1カ月。
ついに明日は発表ステージなのである。
もちろん緊張はしている。
けれど、それ以上にわくわくしている自分がいる。
この一ヶ月の練習の成果をみんなの前で・・・あのキラキラのステージの上で見てもらうんだから頑張らなくちゃ!
「リリー、緊張で顔が固くなっているよ。笑顔、笑顔!」
「そこのターンはもっと力を抜いた方が動きが軽やかになるよ。」
「小さな動きも指の先まで気をつけて。」
自主レッスンに付き合ってくれる友人達がアドバイスをくれる。
心の中で感謝して、言われたことに気をつけながら真剣に取り組んでいく。
もともと社交ダンスも習っていたし、身体を動かすのは好き。
でも、この世界の音楽はテンポが早くてついていくのが大変だわ。
大きな声で歌を歌うのも楽しい。
あの日憧れた踊り子の一座を思い出して、同じにステージに立っているような気がしてドキドキする。
こんなに自由で楽しいこと、今まで知らなかった。
もっと踊りたい。
もっと、もっと歌いたい。
私も、あのステージでキラキラしたいーー!
しなやかな身体。
飛び散る汗。
眩しい笑顔。
「今の、どうだったかしら?」
息切れしながら汗をぬぐい、友人達に問う。
今のは自分でも上手く出来たと思うのだけれど。
「うん、良い感じだったよ!」
「すごい上達ぶりよね。こっちも負けてられないわ。」
「ありがとう。今の感覚を忘れないうちにもう一回・・・」
「ストップ! ストップ! 今日はここまでにしておきなって。」
「いくらなんでも頑張りすぎよ。休むことも必要よ。」
「明日は初めての発表でしょ。体調と心を整えておくことも大切だからね。」
「う・・・わ、わかったわ。」
「よしよし。リリーは素直で可愛いなぁ。」
「見た目は気が強そうなのにね。」
「明日はお互い頑張りましょうね。」
「みんな、いつもありがとう。」
***
友人達に囲まれて笑顔のリリアナ。
こんな笑顔をするなんて知らなかった。
こんなに頑張り屋だなんて、聞いてない。
殿下は少し動揺していた。
いつもすました顔で堅苦しかった元婚約者との、過去のやり取りを思い出して眉間にシワを寄せる。
あいつはいつも放漫な態度で他を見下していたんじゃなかったのか?
気に入らない者には嫌がらせをしていると噂で聞いた。
それなのに素直に進言を受け取るだなんて。
しかもあの世界の格好は・・・あんなに手足を出してみっともない。
今までのあいつなら「はしたない」と嫌悪していたはずだ。
なのに拒否せず着ているなど、どういう気持ちの変化だ?
もしかして今までの報告が間違っていた?
チラリと側近達の様子を伺う。
彼らはいつのまにかリリーのファンになってしまった。
真剣に頑張る彼女を水晶を通して見てきたのだ、心を動かされないはずがない。
ーーリリアナが本当は悪女ではなかったとしても、今の私の婚約者はソフィーだ。
彼女が王子妃教育を習得してくれれば何も問題はないのだが。
***
翌日、ステージ発表の日ーー
発表は出席番号順。
今回は野外ステージで、空は快晴。
観客は先生方と在校生で大盛り上がり。
ドキドキの緊張の中、ついにリリーの順番がやってきた。
空を見上げて、深く深呼吸。
ーーよし。
気合を入れて、一歩踏み出す。
音が響く。
流れてくるメロディに声を乗せ、リズムに合わせて身体を動かす。
つま先から指の先まで丁寧に。
腰の角度はこれで大丈夫かしら。
もちろん笑顔を忘れずに。
息切れしても疲れを感じさせないで。
何よりも自分が楽しむこと。
心が伝われば、ほら、客席のみんなも笑顔になるでしょ。
眩しい太陽と虹色に光るライト。
身体の奥まで響いてくる音楽。
会場の一体感。
ああ・・・ステージってこんな場所なのね。
憧れていたキラキラの空気感。
心がふわふわして気持ちいい。
わたくし、ここからもっと羽ばたきたい・・・!
音楽のフィニッシュと共にキメポーズ。
飛び散る汗と、満面の笑顔。
会場を埋め尽くす拍手の嵐。
・・・・・・気がつくと、わたくしは殿下達に囲まれていた。
窓の向こうの景色に見覚えがある。
どうやら王城に戻ってきてしまったようね。
「何故わたくしはここにいるのかしら!?」
「我々が呼び戻したからだ」
なんてことかしら!
審査結果もまだ聞いていないのに。
「わたくしは追放されたはずよ。どういうつもり?」
「あーその、リリアナ・・・王子妃に戻ってもらえないだろうか?」
「はい? なんの冗談でしょう?」
「ソフィーに王子妃教育は荷が重すぎたようだ。適任はおまえしかいない」
「ソフィーさん?」
よく見ると、部屋の隅に涙目のソフィーがいた。
涙目でこちらを睨んでくる。
大変迷惑である。
「たしかにソフィーさんには無理でしょうね。」
「そんな! ひどいわ、またそうやっていじめるなんて!」
「指導や忠告には従わず、都合が悪い事は周りのせいにし、努力せずにイジメだと嘆いてばかり。そんな方に王子妃教育は無理でしょう。」
「ーーなっ!!」
「ソフィー、残念だがその通りだ。教育係からいろいろと報告が上がっている」
それで、このままでは王族として困ったことになる殿下はわたくしを再び婚約者にしようと考えたのね。
ソフィーは愛人にでもするつもりかしら?
「リリアナ、この国のためにも戻ってきてくれないか。」
「お断りしますわ。わたくしは断罪されて追放された身ですもの。」
「そこをなんとか」
「嫌よ。わたくし、あちらの世界でやりたいことを見つけたんですもの!」
「やりたいことって・・・あのアイドルか?」
「そうよ。分かってるなら元に場所に戻して」
「こんな短いスカートにスケスケの衣装を着るなんて・・・破廉恥だぞ。淑女のおまえはどうしてしまったんだ?」
「今までは殿下の婚約者として相応しいように務めていただけよ。本当はステージに憧れていたの」
「そんな、馬鹿な・・・!」
「まぁまぁ殿下、この衣装もとっても似合ってるじゃないですか」
「そうそう、カッコよくて美しいですよ。歌とダンスも最高でした!」
「おまえ達は黙っていろ!」
振り返ると、殿下の側近達が珍妙な格好でいた。
「お、お久しぶりです・・・わね?」
「リリー様のステージ、神でした!」
「ぜひっこちらの世界でも踊っていただきたく・・・!」
会場にいた観客の格好を真似たのであろう珍妙な服と、応援うちわを手にしている。
応援してくれるのは嬉しいけど・・・そうだけど、そうじゃない感。
「でもわたくし、あちらの世界に帰りたいの」
「我々はリリー様のステージを目の前で拝見したいですっ」
「それはかまわないけど、終わったら帰してくれる?」
「リリアナ、もう一度私の婚約者に・・・」
「リリー様の歌声をずっと我々のそばで・・・」
「仕方ないから私の代わりに王子妃教育を受けさせてあげてもいいわよ」
「だーかーらー! わたくしはあちらの世界に帰りたいと言っているでしょぉー!!」
リリーの苦難はまだまだ続く。
頑張れリリー、夢を追いかけ続ける限り希望も続くはずだーー!
読んでいただきありがとうございます!
思いつきで書いてしまったのですが、音ゲーやったことないので雰囲気だけですみません。
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