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愚者:40歳からでも人生は変えられる  作者: 白明


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7.The Chariot(戦車)

一つ一つは、小さなことかもしれないが、積もり積もると大きくなる。

そして、それは堰を切ったように、流れ出し、雪玉状に大きくなっていく。

偶然の早起きにはじまり、人生が好転してきた。

それは、当然のように毎日少しずつ膨らんでいくような感覚だった。


会社で任される仕事もすべて上手く行き、人間関係も良好。

少なかった家族との時間は、いったい何倍になっただろうか?

そして、圧倒的にお金ができた。

今まで、パチンコや飲み会に消えていたお金が銀行口座に残っている。

しかも、食費の削減を行うことでお金の減りも抑えられた。


「これは、一体、なんなんだ? お金を今まで、私は、無駄に使っていたっていうことなのか? いや、お金だけじゃない。時間だ。時間も浪費していた……」


目の前がブラックアウトしたのは、一瞬。

それは、夜明け前の最も暗い瞬間と同じ。

朝日が昇るように私の中にさまざまなものが沸々(ふつふつ)と()いてくるようだった。


そこからは、まるで暴走戦車。

次々と余計な支出やモノをそぎ落としつつ、時間やお金をさらに見直していく。

ほぼゲーム感覚。

着実に積み上がり、成果として実感できる現実ゲーム。


こういう気持ちは、伝染するものらしい。

この機会に乗じ、妻が口火を切った。

「徹底的な断捨離の決行をする」

悪魔の一言であった。


世間が流行病で騒ぎはじめた頃と重なったため、それらは相乗的な効果を生んだ。

妻は、目に映る「必要がない」と思われるものを片っ端から処分していく。

洋服や靴は、もちろんのこと。

リビングのソファー、ラグマット、チェストテーブル、タンスや化粧棚……。

ありとあらゆるものを捨てていった。

それは、戦車というよりブルトーザーであった。


結局、リビング・ダイニングに残ったのは、四人掛()けのダイニングテーブルとテレビだけだった。

シンプル。

至ってシンプル。

というか、何もない。

いままでモノに囲まれる生活であったため、むしろ不安になるレベル。

本当にここまで捨ててしまって良かったのだろうか…。


***


と、思っていたのは、三日間だけだった。

どんな不美人でも三日で慣れると言ったのは、世界を救った大賢者様だったか……。

いや。ちょっとどころか、全然意味が違う。

すみません。ちょっと脱線しました。


リビングが何もない状態に慣れると、モノがそのままに置いてあることや、片付いていないことが非常に気になる。

だから片付けたくなる。

この私が。

学生時代は、万年床で手を伸ばせばリモコンがあるなど、二畳で完結する世界で生きていた私が。


子ども達も必然的に同じように行動をする。

怖いね。習慣って。

むしろ習慣が教育になっている。

最近では、子ども達から「パパ!きちんと洗濯機にもっていって!」なんて言われる始末だ。

侮るなかれ、習慣。



そんな時、自家用車が故障した。

妻は、会社に車で通勤をしているが、通勤途中に突然エンジンが止まることが頻繁に発生した。

しかも走行中に。

下手をしたら大事故につながる可能性すらある。


ディーラーに確認するも、巷を騒がせる流行病のため、ディーラー自体が開店休業。

インターネットで車を探してみたが、ほぼ受付拒否。

それに加え、流行病により電車通勤を控え、車通勤を選択する人が増えたという。

中古車が異例の高値で取引される始末。


緊急事態であるにも関わらず、八方塞がり。

そんなときに舞い込んだのが、最寄り駅に出店する某アメリカ車専門店のチラシ。

このご時世でよく出店できたと称賛する。

期待半分で予約をとり、話を聞く。

何というタイミングなのであろうか。


某アメリカ車専門店は、事業拡大のため流行病の前に大量の輸入を行い、現物が溢れている状態。

「購入するのであれば、今しかないですよ~。憧れの外車がお手頃な値段で手に入りますよ~」

薄っぺらい笑顔を浮かべる営業さんは、饒舌に語る。

それが表向きのセールストークだとしても、私達は、まったく気にしない。

しかも、今まで乗っていた故障車を引き取ってくれるばかりか、新車の購入金額から差し引いてくれるという。


願ったり叶ったりの提案に、訪問日に契約を交わした。

これまでの消費削減で貯まっていたお金を頭金にしたため、月々の返済は、微々たるものとなった。


こうして、なんの因果か外車を手に入れてしまった。

人生が動き出すと、止まらなくなる。

それを実感する一つの出来事だった。



契約から納車までは、たったの一カ月だった。

流行病のため、工員の手が余っていたたらしい。

チューンアップは、スムーズに行われた。

こちらとしては、車が無いことが死活問題だったため、早いに越したことはない。


納車当日は、家族全員で赴き、記念撮影。

既に自分の車だと言わんばかりに調子に乗っている詩の姿が微笑ましい。

各種の説明があったのだが、興奮状態の私は、話半分で聞いていた。


そして、出車。

待ちに待っていた瞬間がようやく訪れる。

運転席に颯爽と乗り込み、助手席に座る妻のシートベルト装着を確認した私は、エンジン起動ボタンを押す。

日本車には無い粗野なエンジン音が響く。

いい…。

薄っぺらい笑顔の営業さんに軽く会釈をし、左に出庫する。


ああ、最高の瞬間。

ウインカーを入れ、ステアリングを左に切る。

ん?

ワイパーが動いている…?

「白明さん、ウインカーは左側ですよー」

薄っぺらい笑顔の営業さんの声が響く。


うるせえ。

逃げるようにディーラーを後にした。


(つづく)


――――――――――――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございます。

よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。


また、あなたと会えることを楽しみにしています。


白明

――――――――――――――――――――――――――


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