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愚者:40歳からでも人生は変えられる  作者: 白明


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6.The Lovers(恋人)

会社から帰ってくる時間が今までに比べ圧倒的に早くなっていた。

朝早く起き、出社し、仕事をして、帰ってくる。

今までとほぼ同じ行動なのだが、まったく密度が違う。


毎日、当然のようにしていた残業もなくなった。

というより残業をしてまでする仕事が無いのだ。

だから早く帰ってくる。そしてそれがいつの間にか習慣となり、当たり前になっている。


一方で私の残業に反比例をするかのように妻の帰宅が遅くなっていた。

当然、私が夕食の準備をする機会が多くなる。


料理。そんなに嫌いじゃないんです。

面白いことに毎日料理をしていると食材の在庫管理にも目が行くわけで。

性格的な問題から、効率化や適正な貯蔵量の管理もしてみたくなるわけですよ。


この納豆、賞味期限が二週間前じゃん。

ドレッシング、冷蔵庫に一体、何本入っているんだ?

サラダスパの乾麺、途中まで使用したものが、なぜ四つも入っているの?

えっ~と。このほぼ液体と化している未開封のフニャフニャの物体はもしや、もやし?

冷凍庫に入っているこの干物、元号が平成だ……。


などなど、私にとってほぼ未開の地であった。


こんな状態であれば、今まで手つかずで 捨てた食材はいかほどの量だったのだろうか。

昨今では、フードロスの削減を国や自治体でも取り組んでいるというのに、この意識の低さは一体なんだ!と、言いたいところではある。


しかし、共働きの家庭ではよくあること。

共働き世帯は、仕事に疲れ、帰宅した後も育児や洗濯、食事作りと大変だ。

それに加えて食材の在庫管理。

これを妻のみに 任せている世の男性(私も含む)に言いたい。

それって、拷問(ごうもん)以外のなにものでもないよね。

ちょっとあなたもがんばろ?


ちょっと熱が入ってしまった。


こんな状況だったら、私が管理すればよくね?

それからというもの、食事作りや冷蔵庫内の食材すべては私の管理下に置かれた。

もちろん食材の買い出しも含めてだ。

毎日の食事やお弁当も例外なく、すべて管理した。


「なんか、食事、全部お願いしちゃって、本当にごめんね~。最近 仕事がめちゃめちゃ忙しくて、定時でどうしても終われないんだよね~。あ、今日はシチューなんだね。寒いから助かる~」


妻は、着替えを済ませると早速、テーブルにつき、発泡酒の缶を開ける。

その姿が、数カ月前の私と重なる。


「そうだよな……。こういう風に見えていたんだよな…」

これまでの罪悪感が押し寄せるとともに、今後も自分の意識を変えていこうと強く思う瞬間だった。



食品管理をはじめてみると実は、いいことだらけであることがわかった。

圧倒的に食費が浮くのだ。

今までは、家族四人で月に約九万円程度の食費。

食材の購入、お弁当の仕込み、そして、一週間のメニューを徹底的に管理した。


具体的には、買い物は土曜日に一週間分を購入。

お弁当のタネ(おかず)をカップに小分けにして、冷凍。

基本の味付けは、「さしすせそ」を中心とする。

(さしすせそ:砂糖、塩、酢、しょうゆ、みそ)


味気なさそう?

そうでもないんです。

きちんと調理をすることで食材からしっかりと味が染み出てくるんです。


食費はあっという間に月四万円程度に減額できた。

外食を二回したとしても約五万円。

これは、我ながら素晴らしい成果だったと思う。


食事のすべてを管理下に置いたことで、わかることがありました。

多分、というより確信に近い。


妻は、料理が下手だ。


妻は、自分の作りたい料理に合わせて食材を買い、作る。

一方で、幼い頃から料理をしている私のスタンスは、「冷蔵庫にあるもので、食べられるものを作る」だ。


冷蔵庫の中にミイラ化したニンジンや、溶けたキュウリが見つかる。

一度だけ使った調味料が賞味期限を越えて保管されている。

これらは、一つの事実を示していた。

食費の多くが手つかずの食材とともに、ゴミ箱に投げ捨てられている。

この事実に気付くには、時間はかからなかった。


副次的な「幸せ」もありまして。

子ども達との会話の時間が増えるとともに、一緒に料理を作るようになった。

そして、なにより私が作った料理をおいしいと言ってくれる。

自分の子どもからこんなにも強い承認(しょうにん)(もら)えるってすごいこと。


「パパの料理っておいしいね~。今度、トンカツを作ってよ~。サクサクのやつがいい~」

詩も虎も口の周りを汚しながら、頬張っている。

「まだ、お替わりあるから、そんなにガッついて食べないよ。じゃあ、今度は、ママにハンバーグを作ってもらうよう、お願いしようね~」


二人が顔を見合わせる。

「え~。だって、ママのご飯って……、なんかね……」

その時、玄関が開く音がした。妻が帰ってきたのだ。

二人は、俯き、そして、またご飯をかき込んでいた。


***


「んん~!今日も疲れた~。はぁ~。おかげで早く眠れる~。もう、仕事、嫌になっちゃう。本当はもっと早く帰りたいのに~」

寝室で、妻の一日分の愚痴を聞く。

もう私は、シャットダウン寸前だっていうのに。

「明日も早いんだし、無理しないで早く寝た方がいいよ」

そう言って、寝室の照明を消す。ある意味、自分のために。


「最近、凄いよね。本当にどうしたの? 会社からも早く帰ってくるし、お休みの日だって、一人で出かけないし……。そして、ご飯、いつもありがとうね。私、最近、何にもできていないよね……」


また、はじまった。

妻は、疲労がたまってくるとネガティブ思考になる。

こうなると長い。


「大丈夫だよ。俺の仕事も上手く行っている。家事は、やれる方がやればいいだけだよ。あんまり、気にしないで寝よ」

正直、面倒くさいがここで機嫌を損ねるともっと長くなる。

気持ち優しい言葉をかける。

私だってシャットダウン寸前(すんぜん)だ。


「うん。ありがとう。ごめん。ちょっとだけ、腕、借りるね」

私の右腕を枕代わりにし、そのまま、その細い腕を腰に回してくる。


「ありがとう。おやすみなさい」


わざとやってんのか?

そう思うが早いか、沼に墜ちていった。


(つづく)

――――――――――――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございます。

よかったら、つづきも読んでいただけますと嬉しいです。


また、あなたと会えることを楽しみにしています。


白明

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